2~3日前からお腹が痛かったが,仕事を休むわけにはいかぬ。
よなか中お腹出して寝てたんちゃう?
気合い入れれば何とかなるか。
しかしこの日は勝手が違った。
腹痛は誤魔化せないほどにひどくなる。
しかも午後になると熱っぽくなりフシブシがだるい。
頭もガンガン痛くなってくる。
顕微鏡を覗いてもまったく集中できない。
もう限界だ・・・・・
早退して,近所で開業中の同級生ランのところへ向う。
最近,やたら流行っている「ラン・クリニック」。
流行っているのは,駐車場を見ればわかる。
クリニック前をたまに通り過ぎると,駐車場が満車状態のことが時々ある。
今頃はインフルエンザ予防接種の時期。
これからは,実際のインフルエンザや風邪の患者さんで更にごった返すだろう。
ヒトが病むのを喜ぶワケではないが,やはり友人のクリニックが流行るのはうれしい。
午後の診療開始5分前に着いたにも関わらず,クリニック待合室は3歳くらいの子連れ夫婦・風邪ひいた女子高校生・仕事を休んだ紳士・仕事帰りのおっさん・近所のおばちゃんなどで既に混み合っている。
「・・・シノさん,お入り下さい」
ようやく看護婦さんに呼ばれて,診察室に入る。
「流行っとるね」
そう言いつつ,ラン先生に目で挨拶する。
「ありがと」
と答えるラン先生は,すっかり“この街のお医者さん”風情が身に付いている。
「点滴してくれ」
「どうしたの?」
「腹痛が3日前からで,発熱が今日の午後からで7度5分ね。
腹痛は右側腹部で,蠕動運動に伴ってギューっていう感じ。
やや下痢気味で食欲まずまず。呼吸器症状なんかも無しね。
そう言えば,さっきから頭もガンガン痛いわ」
なるべくカルテに書きやすい感じで症状を伝える。
たぶん問題なのは右側大腸か回腸末端あたりだろう。
「胆嚢とかアッペやない?」とラン先生。
「腸炎やと思うけど」
「一応お腹触らせて」
「オーケー」
マクバーネイ点と呼ばれる右下腹部を押さえてもらったが痛くはない。
けっきょく診療は1分ほどで終わり,診療時間短縮に大きく貢献する。
クリニック奥の部屋は,リハビリ室になっている。
ランの専門は外科だが,腰痛・膝痛などの整形外科領域もカバーしている。
手広くやっているのも,流行っている理由の一つか?
そのリハ室の隅に,診察用ベッドが4つほど殺風景に並べてある。
カーテンで仕切られたそれらのベッドに寝っ転がって,点滴を受けるために。
風邪をこじらせた患者さんが一人,また一人と,自分と同じように点滴を受け始める。
その横では,リハの患者さんが患部に電気を当ててもらっている。
それらをサポートする看護士さん・療法士さんは,皆テキパキしていてすがすがしい。
しかし・・・・・
風邪でゴホゴホしているのを傍目に見ながら,リハビリをするのもちょっとなぁ。
リハの患者さんが,風邪を拾ってしまわないか?
まぁどこまで気を使うかは難しいけれど,何かの対策はするべきだろう。
今度,ランにレポートすることにする。
抗生剤点滴は,30分以上かけてややゆっくりと入れる。
隣の患者さんは,ものの10分も経たないうちにクークーいいながら眠っている。
時間が空いたリハ担当の療法士さん達が,世間話をし始める。
このクリニックのヘンな噂をしていないかどうか,聞き耳を立てる。
それにしても・・・・・
この部屋は誰もが手持ち無沙汰だし,ヒマだ。
なんか改善できんやろか?
そう言えば,献血する時は,DVDを見るようなサービスが椅子に付いていたっけ。
あんなもんでもあったらなぁ・・・
今度,ランに提案してみよう。
患者として来院した際に,クリニックの円滑な運営に協力しつつ,職員の風紀・意識にも目を配る。
こんな模範的な患者やけど,見方を変えればスパイ行為をするタダのワガママ患者か?