救急マラソン | 『しのゼミ』

『しのゼミ』

日常で出会った「気付き・笑い・学び」を綴っています

病院の病理部控室兼カンファ室前。

関係者以外立ち入り禁止区域なので,人通りもまばら。

そんな廊下で「ゴトッ」という音がしたので,様子を見に出た秘書さん。

「ヒャッ!」

とんでもないものを見たという叫びと,「・・・せっ・・・先生~」と助けを呼ぶ声。

ただならぬ様子に駆けつけてみると,廊下に若い男性が倒れている。

ネクタイ姿で,胸にはIDカードをぶら下げている。

病院の事務職員のようだ。

近寄って声をかける。

「大丈夫っすか?」

「・・・・ええ・・・・」

「分かります?」

「・・・・ええ・・・・」

「どっか痛いの?」

・・・・・




簡単に顛末を聞きとったところではその男性,打ち合わせの最中に気分が悪くなって,中座してトイレに行こうとしたら,目の前が真っ暗になって倒れたとのこと。

顔色が真っ青なので,貧血なのかもしれん。

それにしても,こんな救急の機会は時と場所を選ばない。

たとえば,実験中に冷蔵室に入っていて,その最中で意識を失ったら,凍え死んでも不思議でない。

考えて見れば,この男性の場合は病院の中で倒れて不幸中の幸いだったのかもしれん。

倒れてたヒトの様子が明らかになるにつれ,冷静を徐々に取り戻した秘書さん。

さっそく,救急部とセキュリティーセンターに救急コール。

これで,救急の当番医や手の空いた医師が駆けつけてきてくれるハズだ。




程なくして。

廊下を曲がって,病院本館から必死の形相で走ってくる医師が一人。

ユニフォームは「救急部」。

どうやら救急部の講師先生のようだ。

まるで中学生のマラソン大会を彷彿とさせるカッコよさ。

ちょっと足取り重いが,一着でゴールイン。

時間にして救急コールから3分程。

さすがに「ハアー,ハアー」と息が上がっている。

でも,なんとか一着を死守して救急部のメンツを保ったか。

「お願いします」と選手交代すると,病人から的確に問診を始める講師先生。

待ってました,頼んまっせ!




次に廊下に見えてきたヒトも,やっぱり救急部のユニフォーム姿。

どうやら救急をローテ中の研修医クン。

若いので,明らかに走るスピードも速く,足取りも軽い。

余力を残して二着でゴールイン。

すると,さっそく講師の先生から指示が飛ぶ。

「じゃあ,すぐHCUに電話して。ストレッチャー持ってきてもらうように。それから事務に電話して・・・」

息抜く暇もなく,PHSを数件かけ始める研修医クン。

大変やけど,がんばってな。





そうこうすると,三位集団が見えてきた。

ユニフォームはいずれも「救急部」。

なんとか手を空けた救急部の人達による集団が形成されたらしい。

そのすぐ後ろには,ストレッチャーとともに走ってくる看護師さん。

4~5名の医師,2~3名の看護師,それにストレッチャーからなる集団。

縦長の三位集団が同タイムでゴールイン。

その頃には問診も終わって,事務関係者も呼び出され,ひとまずHCU入院の準備が整う。

それから,倒れていた男性は「せ~の」とストレッチャーに乗せられて,跡形なく去って行った。





やれやれ。

こんなこともあるもんだ。

・・・さあ,戻って仕事仕事。

そう思っていると,遅れてきたと思われる数名の集団が廊下を走ってくる。

だいたい十着くらいでゴールイン。

「倒れた方は?どこです?」

「ちょうど今,HCUへ運ばれて行ったところなんです」

「そうですか」

「お騒がせしました」

なんで謝るのかわからんが,そう言ってお引き取り願う。

そんな「周回遅れ」の医師・看護師が十数名バラバラバラっとゴールインする。





もうそろそろええかな。

そう思っていたら,向こうから後輩のアミ先生がニコニコしながら小走りにやってくる。

この日のアミは,本来は病理講座の方で実験中なハズだが。

「シノ先生,大丈夫ですか?」

「大丈夫って,何が?」

「講座では,シノ先生が倒れたってエライ騒ぎで・・・」

「ヘンなこと言うな,このアホ」

こんな野次馬もゴールインして終了。



それにしても,アミの顔が少しニコニコしてたのが気になる・・・・・