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▼SONGS & FRIENDS 小坂忠「ほうろう」東京国際フォーラム 2018.11.26.
「人生でたくさん聴いたアルバムのベスト10を教えて下さい」と聴かれたら
すぐに10作は思いつかないにしても絶対に入れるアルバムが何枚かある。
その中の1枚が、小坂忠の「ほうろう」。
思春期に出会い、社会人になってからも聴き続けて
気がつけば1975年のオリジナル版発売から43年が経過した今も私のiPhoneに入っている。
ジャパニーズR&Bの原点にして日本が誇る名盤と言われる「ほうろう」が
どのような過程を経て産み落とされたのか、まずは簡単に振り返ってみたい。
1969年、細野晴臣、松本隆らと共にエイプリル・フールを結成したものの
方向性の違いを理由にわずか1年ほどで解散。
同じく1969年、細野は鈴木茂、林立夫、小坂による新バンドを模索するが
小坂がミュージカルのオーディションに合格、鈴木・林の両名も小原礼と組んで
スカイとしての活動を始めていたために実現しなかった。
その後、細野、松本に大瀧詠一が加わり、スカイから鈴木茂が引き抜かれて
伝説のバンド・はっぴいえんどが産声をあげる。
松本隆によると、当初は小坂をはっぴいえんどのボーカルに迎える計画もあったそうで
実現していれば今とは全く違った形の伝説を作っていた可能性が高い。
1971年、ソロアルバム「ありがとう」をリリースした小坂は
ツアーを回るためのメンバーを探し
小坂忠、駒澤裕城、松任谷正隆、林立夫、後藤次利から成る
小坂忠とフォージョー・ハーフ(Four Joe Half)が誕生した。
リズム隊を高橋幸宏や小原礼が務めることもあったという。
1973年、はっぴいえんどを解散した細野は
松任谷正隆、林立夫、鈴木茂らと共に
キャラメル・ママ(後にティン・パン・アレーと改名)を結成し
荒井由実の「ひこうき雲」、吉田美奈子の「扉の冬」、
いしだあゆみの「アワー・コネクション」など、
多くの名盤をバックアップするプロデュースバンドとして知名度を高めていった。
そして、細野プロデュース、ティン・パン・アレーの演奏によって
1975年に完成したのが「ほうろう」である。
レコーディングに参加していたのは、細野晴臣、林立夫、鈴木茂、松任谷正隆の4人に
松本隆(作詞のみで参加)、鈴木晶子(この頃はまだ独身だった矢野顕子)、矢野誠、
吉田美奈子、山下達郎、大貫妙子がコーラスにクレジットされている。
驚かされるのは、ここに名前のあるミュージシャンが皆現役であること。
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2018年11月26日、東京国際フォーラムで開催された本公演のプロデュースは武部聡志。
時代を超えて愛される名盤を再現するコンサート「SONGS & FRIENDS」の
記念すべき2回目で、初回は荒井由実の「ひこうき雲」だった。
総合演出は松任谷正隆。
ゲスト出演者は、荒井由実(松任谷由実)、Asiah(小坂の娘)、尾崎亜美、、矢野顕子、
高橋幸宏、Char、田島貴男(ORIGINAL LOVE)、さかいゆう、BEGIN、槇原敬之。
演奏&コーラスとしての参加は細野晴臣、松任谷正隆、後藤次利、駒沢裕城、
鈴木茂、林立夫、小原礼、小倉博和、根岸孝旨、屋敷豪太、武部聡志、吉田美奈子。
さかいゆう、田島貴男、槇原敬之ら前半に出演したアーティスト達が口を揃えて
「すごいところに来てしまった」「森羅万象の神が勢揃いしているような空間」と
言っていたが、それが決して大袈裟でないことはメンバーを見れば明らか。
荒井由実と矢野顕子と吉田美奈子が三人並んでステージに立っている光景など、
もう私が生きている間には見られないかも知れない。
ステージは、まずは「ほうろう」に影響を受けたアーティスト達が
それぞれの持ち味を活かしたカバーを披露し、
後半は小坂本人が縁のアーティストと共に歌う二部構成。
休憩なしで約3時間ぶっ通しだったにも関わらず
瞬きするのも惜しくなるほど名シーンが目白押しだった。
松本隆の作詞家活動45周年を記念して開催された「風街レジェンド」は
出演者の豪華さ、歌唱曲のヒット指数の高さがメインであり
パフォーマンス面に関しては、いわゆる想い出補正をかけなければ
厳しいと感じる箇所も少なくなかった。
しかし今回の「ほうろう」ライブは、最初から最後まで圧倒的なクオリティ。
若手アーティストにハッパをかけるように、レジェンドアーティストの熟練の技が
グイグイ引っ張っていく力強さにジジィファンは何度も目頭が熱くなった。
いつになく優しく繊細だった矢野顕子のピアノ、
サポート役に徹しながらその声の存在感は圧倒的だった吉田美奈子、
「風街レジェンド」でも頭ひとつ抜けていたこの二人が
やはり昨日もずば抜けていたが、同世代の矢野・吉田と比較して
自身に秀でるものが無かったと吐露したユーミンの冷静な自己分析や
意外なほど相性の良かったBEGINとのアコースティック編成など新たな発見も多かった。
少しだけ気になったことも書いておくと、
前半の顔ぶれがオマージュ企画御用達といった面々で
新鮮味もなければ小坂忠との繋がりもあまり感じなかったのは残念。
さかいゆうと田島と言えば、
昨年開催された「森亀橋2017 Your Songs,Our Songs」で
二人でのパフォーマンスを披露していたし、
さかいと槇原は2014年公開の映画「ラブセッション」で
お互いをリスペクトし合う仲として共演済み。
他所でやって好評だった組み合わせをそのまま持ってくるのは芸が無さ過ぎる。
特に槇原は、「何故自分に声がかかったのか分からない」
「『ほうろう』も今回の依頼を受けて初めて聴いた」とバカ正直な失言連発で
私の中で好感度が急降下。何の思い入れもないならオファーを断れ馬鹿者。
そんなわけで、小坂本人の登場しないリスペクトライブのパートは
いっそ無かっても良かったのではないかと思う。
まぁ、集客を考えた場合に必要だったのかも知れないが。
矢野顕子はピアノに徹して大正解だったが
吉田美奈子は1曲でも良いのできちんとボーカルを担当して欲しかった。
吉田は昨年のツアーで「ボンボヤージ波止場」をカバーしており
「ほうろう」収録曲ならばどれでも出来る準備があったはず。
どういった理由でサポートに回ったのかは不明だが
出演者リストに名前を発見して「風街レジェンドの衝撃よ再び」と
期待していた人は多かったのではないか。
(「風街」では吉田の独り勝ちと言われるほど強烈なインパクトを残した)
小坂がMCで「僕らには目指すものも
手本になるものもなかった」というようなことを言っていた。
音楽と言えば歌謡曲、演歌、フォークしかなかった70年代に
ロックやポップスの種を撒いたのは間違いなく細野や小坂だった。
彼らが日本の音楽史にポップスの礎を築いてくれたからこそ
続くユーミンや山下達郎が黄金期を作り出し、Jポップが花開いたのだ。
地図を持たないまま初めて海に漕ぎ出した先人と同じ勇気を
小坂や細野が持って進んでくれたからこそ、今の日本の音楽シーンが存在する。
昨年大病を患い、一時は復帰は絶望かとも言われた小坂が
こうして国際フォーラムの大舞台で高らかに歌い上げる姿を見て
どうしようもなく泣けたし、終演後もしばらく身体の震えが止まらなかった。
この様子は来春、WOWOWで放送されるらしいが
出来るならばBlu-rayなど形に残るメディアでもリリースして欲しい。
「風街レジェンド」や「アルファミュージックアワード」などは
日本の音楽史を知るための貴重な教材として後世に残す意義があると私は思う。
最後の最後に。
小坂の歌唱があまりにも素晴らしいからこそ、
生きてきた証を刻み込もうとしているように見えて不安が拭えなかった。
身を削るようにして歌う姿を見ていると、生前葬のつもりでこのプロジェクトを
立ち上げたのではと勘繰ってしまうのだ。
どうか、この思いが杞憂で終わってくれますように。
『SONGS & FRIENDS 小坂忠「ほうろう」』セットリスト
M01. You Are So Beautiful(ゴスペルクワイア)
M02. Unforgettable(Asiah+武部聡志)
M03. もっともっと(小坂忠とフォージョーハーフ)
M04. どろんこまつり(小坂忠とフォージョーハーフ)
M05. からす(小坂忠とフォージョーハーフ+高橋幸宏)
M06. 氷雨月のスケッチ(さかいゆう)
M07. 流星都市(田島貴男+さかいゆう)
M08. ふうらい坊(槇原敬之)
M09. 機関車(槇原敬之)
M10. Hot or cold(Char)
M11. People Get Ready(田島貴男+さかいゆう+槇原敬之+Char)
M12. みちくさ(荒井由実+小坂忠)
M13. ボンボヤージ波止場(BEGIN+西海孝+小坂忠)
M14. ありがとう(BEGIN+西海孝+高橋幸宏+小坂忠)
M15. つるべ糸(矢野顕子+小坂忠)
M16. I Believe In You(矢野顕子+小坂忠)
M17. 流星都市(小坂忠)
M18. 氷雨月のスケッチ(小坂忠)
M19. しらけちまうぜ(吉田美奈子+小坂忠)
M20. 機関車(尾崎亜美+吉田美奈子+小坂忠)
M21. ふうらい坊(吉田美奈子+細野晴臣+小坂忠)
M22. ほうろう(吉田美奈子+細野晴臣+小坂忠)
M23. Jesus Loves Me~Amazing Grace(小坂忠+ゴスペルクワイア)
M23. ゆうがたラブ(全員)
M24. You Are So Beautiful(小坂忠+武部聡志)
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