映画「羊の木」更生と再犯と人情 | 忍之閻魔帳

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▼映画「羊の木」更生と再犯と人情

 

 

「桐島、部活やめるってよ」「紙の月」「美しい星」と

次々に話題作を放つ吉田大八監督の最新作は

山上たつひこ、いがらしみきお共作の同名コミックスの映画化。

過疎の港町に元受刑者6人を受け入れることになったことで起こるミステリー。

主演は「県庁おもてなし課」の錦戸亮。

共演は木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、松田龍平。

 

人口減少に歯止めのかからない港町・魚深市。

市役所に勤める月末(錦戸亮)は、上司から6人の移住者の出迎えを任される。

その6人は全員が仮釈放されたばかりの元殺人犯。

”犯罪者の更生”と”過疎化対策”を同時に実現する極秘プロジェクトは

決して町の住人に知られてはならない。

月末は緊張の面持ちでひとり目を迎えに駅へと向かった。

 

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「桐島、部活やめるってよ」や「紙の月」など

吉田大八監督は原作付きの作品でもそのままは映画化せず、

監督の考えや想いを込めたアレンジを施すことで知られている。

本作でも、仮釈放されて魚深に越して来る元受刑者の人数が

原作の11人から6人へと大幅に削減され、

さらに犯行の内容も誘拐や詐欺、薬物、性犯罪など

多岐に渡っていた原作から6人全員が殺人犯になっている。

また、原作に登場したキャラクターの中で

中身はそのまま見た目だけが別人のように変わっている者もいる。

これらの改変が何を意味するのかは、各自で考えてみて欲しい。

 

過疎に悩む魚深を舞台にしているのは

元犯罪者と分かっていても受け入れざるを得ない懐事情と、

若者が次々と町を出て行く反面、

残った老人達がより一掃濃密なコミュニティを形成する、

田舎町特有の排他的な人間関係があるからだろう。

傍目には奇妙に映る「のろろ祭り」や町を見下ろす巨大なのろろ様の像、

そして「昔からそうしてきたことは守らなければならない」とする

理由なき同調圧力が、この物語を展開するに相応しい舞台だからである。

 

 

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犯罪者を受け入れることの難しさは、しばしば映画でも描かれている。

2006年公開の映画「リトル・チルドレン」は

表向きは既婚女性が恋愛に悩むメロドラマだが、

同時に閑静な住宅街に性犯罪で服役していた男が放たれることの

影響や問題を描いている。

ジャッキー・アール・ヘイリー演じる男・ロニーがプールに入ると、

それまで楽しげに遊んでいた人々が逃げるように上がってしまうなど

綺麗事では済まない場面が登場して「自分ならどうだろう」と

考えずにいられない作品だった。

 

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「羊の木」を包む息苦しさ、閉塞感は、

同じ吉田大八監督の傑作「パーマネント野ばら」に良く似ている。

未来を夢見る若者の姿は少なく、

今と同じ明日が続けばそれで満足とする人々が

同じ店で買い物をし、同じ店で酒を呑み、同じ店で髪を切って老いてゆく。

魚深の人々も、大半は同じだ。

若い月末ですら、憂さ晴らしにバンドをやっているだけで

町を変えようなどという野心は持ち合わせていないように見える。

むしろ、久しぶりに帰省したかつての同級生(女性)に

空気も読まず根掘り葉掘り聞いてしまうあたり、

骨の髄まで田舎町の住人になっているのかも知れない。

元受刑者達が問題を起こさないか見守っているのも、

最初の頃は住人を守りたいだの、立派に更生させたいだのという

正義感からではなく単なる事なかれ主義だったに違いない。

しかし、変わらないことを良しとする魚深の住人達の中で

月末だけが(わずかながら)人間的に成長を遂げている。

この平凡な男を、錦戸亮がアイドルオーラを封印して好演しているのが驚き。

さすが「美しい星」で亀梨和也からオーラを剥ぎ取った吉田監督である。

優香、市川実日子、田中泯、松田龍平と脇も達者揃いで見応え抜群。

松田龍平や田中泯は想像していた範囲内だったが、今作は優香が特に良い。

こんなにも「どうしようもなく、どうしようもない女」を上手く演じられるとは。

 

例えばあなたの住む町に、あなたの住むマンションに

「元殺人犯が引っ越してきます」と言われたらどうだろう。

刑期を務め終えていたとしても、すんなり受け入れられる人は少ないのではないか。

自分はさておき、妻や子供はどうだろうかと考えた時に、どうしたって不安は残る。

私自身、エレベーターで鉢合わせしたとして

一片の曇りも無い笑顔で「こんにちは」と話しかけられる自信はない。

「差別は良くない」「過去は過去」と正論をぶつける人の中に、

どこか第三者目線を感じてしまうことがある。

自分に直接関係がないからそんな綺麗事を言えるのだ、と。

あなたが当事者であったならどうですかと問うてみたくなる。

もちろん、「私の隣に住んでくれていい」と断言する人もいるだろう。

この映画の中にも、過去は過去だと話す女性(安藤玉恵)が登場する。

みんながみんな彼女のような人間ならば再犯率は減るのかも知れない。

頭では分かっているのだ。

頭では分かっていても、実行するのは難しい。

 

信じる心は人を救うのか。

信じ切る強さを人は持てるのか。

信じようとしてくれた相手を躊躇なく殺せるか。

 

6人の元受刑者が様々な形で見せてくれる「信じる」ことの難しさ。

本作で描かれていることは、私達にも無関係ではないし、

実はもう関係している可能性もある。

そんなことを考えながら、もう一度観てみたい作品である。

 

映画「羊の木」は現在公開中。


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菅野美穂が8年振りに映画で主演を務めたドラマ。

監督は吉田大八。西原理恵子の原作を脚本化したのは、

「サマーウォーズ」「しゃべれども しゃべれども」の奥寺佐渡子。
共演には、小池栄子、夏木マリ、池脇千鶴など。

原作未読の上、何の予備知識もなく観たので、
始めのうちは離婚をきっかけに子連れで故郷に戻ってきた主人公が
田舎町の人々や旧友とのコミュニケーションを通じて
人生を再生していく物語、かと思っていたのだが、
ミステリー要素を含んだほろ苦いヒューマンドラマに仕上がっていた。
さすが、一筋縄ではいかない作品を撮り続けている

吉田大八監督作品だけのことはある。

考えてみると、「腑抜けども」も「クヒオ大佐」も、
田舎町で暮らす女性の人生を描いていて、

しかも皆幸せとは言い難い人生を送っている。
ご自分で脚本を書かない初の作品でこの原作を選んだのだから、
きっと吉田監督は、運命に翻弄される女性の人生や情念というものに対して
尋常ではない興味があるのだろう。
「パーマネント野ばら」の主人公・なおこは、
離婚後の生活に不便を感じつつも、優しい恋人に恵まれて一見幸せそうに見える。
しかし、彼女の幸せが甘い記憶の中でループしているだけなのだと気付いた時、
全ての景色は一変し、彼女を取り巻く人々の、本当の優しさが浮き彫りになる。
仕掛けとしては、フランソワ・オゾンの名作「まぼろし」や
行定勲監督の「今度は愛妻家」に近い(この例えはネタバレし過ぎか)が
ほろ苦さの中に美しさを併せ持つ2作と違い、

本作では記憶の中で立ち往生する主人公が
正気と狂気の境目を綱渡りしている様を描いていて、観ていて辛い。


にも関わらず、観賞後の気分が暗くならないのは
みっちゃん(小池栄子)やともちゃん(池脇千鶴)といった友人達が
皆どうしようもないほどの不幸の中で、しっかり足元を見据えて生きているからだろう。
痴呆が始まった父親を見て、

みっちゃんは「一番楽しかった頃に戻ったのよ」と言っていた。
哀しい出来事に見舞われたなおこが「一番楽しかった頃に戻った」のは、
極自然な自衛方法だったのかも知れない。


映像化との相性が悪い西原作品の中では出色の出来。

吉田監督は「桐島」で一気に知名度が上がったので

それ以前の作品は観ていない方も多いはず。

是非この機会にご覧いただきたい。