「告白」の6年後、「桐島」の3年後、そして学生が終わる。映画「何者」 | 忍之閻魔帳

忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)

何者 佐藤健 映画


▼Amazon Kindleセール情報

先日一旦終了した「ニコニコカドカワフェア2016」が
ラインナップ、価格を見直して20日までで再スタート。
指定のKindle書籍、コミックなど1万点以上が50%OFF。
「ニコニコカドカワフェア2016」のページから
並び替えを「価格の安い順」にすると
対象作品の中から50%以上のタイトルを見つけ易い。
また、定期的に開催されている雑誌の99円セール
20日までの期間限定で同時開催中。


43%OFF+20%ポイント還元■Kindle:「GANTZなSF映画論」
38%OFF+20%ポイント還元■Kindle:「荒木飛呂彦の漫画術」
30%OFF+20%ポイント還元■Kindle:「小説家という職業」

大幅値引きとポイント還元を組み合わせた人気商品はこのあたり。


90%OFF+50%ポイント還元■Kindle:「幕張 1~9巻 まとめ買いセット」
90%OFF+50%ポイント還元■Kindle:「ホットマン 1~15巻まとめ買いセット」
90%OFF+50%ポイント還元■Kindle:「たわら猫とまちがい人生 1~7巻 まとめ買いセット」

「幕張」は9冊セットで162円、さらに50%ポイント還元で実質81円。
「ホットマン」は15冊セットで270円、さらに50%ポイント還元で実質135円。
「たわら猫とまちがい人生」7冊セットで126円、さらに50%ポイント還元で実質63円。
なんなんだこの値段は。



▼今週発売の新作ダイジェスト


<ソニーストア>
10月13日発売■PS4:「PlayStation VR」icon
<Amazon>
10月13日発売■PS4:「PlayStation VR」
10月13日発売■PS4:「PlayStation VR カメラ同梱版」
<楽天ブックス>
10月13日発売■PS4:「PlayStation VR」
10月13日発売■PS4:「PlayStation VR カメラ同梱版」
10月13日発売■PS4:「ライズ オブ ザ トゥームレイダー」



▼「告白」の6年後、「桐島」の3年後、そして学生が終わる。映画「何者」


10月15日公開・「何者」

第148回直木賞を受賞した朝井リョウの同名原作を映画した就活青春ドラマ。
「桐島、部活やめるってよ」では「紙の月」の吉田大八監督との出逢いで
とんてもない化学反応を起こした朝井作品だが、
本作では「愛の渦」の三浦大輔監督とタッグを組むことで、
虚構と虚飾に塗れたSNS時代の若者を
観ているだけで痛々しくなるほどリアルに映像化している。
低体温な若者に対する冷徹で辛辣な語り口は「桐島」の衝撃の再来。
出演は佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、山田孝之。



「就職したら負けなんですよ」

私がまだバー店員だった頃、歌手を目指しながら接客をしていた彼女は言った。
同級生は皆就活に励んでいたが、「レールの敷かれたありきたりな人生」を
真っ向から否定する彼女は、就活すること自体が負けなのだと力説していた。
「就職してからでも音楽活動はできる」
「休みを使って趣味の範囲で楽しむのでは駄目なのか」
店に来る大人達は(まぁ水商売なのだから余計かも知れないが)
口々に彼女を心配し(=お節介を焼き)、
その都度彼女は営業スマイルを保ちながらも少し苛立っているように見えた。
この映画を観て、真っ先に彼女のことを思い出した。



映画 何者 佐藤健 菅田将暉 二階堂ふみ 岡田将生
(C)2016映画「何者」製作委員会 (C)2012 朝井リョウ/新潮社

映画「何者」に登場する6人を簡単に解説する。

・二宮拓人(佐藤健)
サークルで演劇の脚本を担当していたが、就職活動で芝居を断念し脱退。
共に作って来た仲間の銀次は別の劇団を旗揚げし、今も精力的に活動を続けている。
正しい道を選択したと思っているはずなのに、満たされない思いは膨らみ続け
ネットで新劇団の酷評を見つけては自分を慰める日々。
就活二年目に入って歪みはさらに加速し、
自尊心のはけ口としてTwitterで140文字の”名言”をツイートし続けている。

・神谷光太郎(菅田将暉)
拓人とルームシェアしている友人。
学生時代はバンド活動に精を出し、それなりの集客力を誇っていた。
開放的で天真爛漫な性格を持つ、いわゆる愛されキャラ。
拓人を尊敬しているが、社会的に見れば光太郎のような人柄こそ
重宝されることに対しては無自覚で、そのことが密かに拓人を傷つけている。

・田名部瑞月(有村架純)
拓人が想いを寄せる相手。
しかし当の瑞月は光太郎に片想いをしており、めでたく付き合うもあっさり破局。
5人の中では一番の苦労人で、就活にかける熱意は人一倍強い。
人の集まる空間では聞き役に回ることが多いが、
その分、ぶちまけてしまいたい言葉をずっと胸に秘めてもいる。

・小早川里香(二階堂ふみ)
拓人と光太郎が借りた部屋のひとつ上の階に住んでいる。
外国語学部国際教育学科で米国留学の経験も持つ
エリート女子で、瑞月とは友人。
「ありきたりな人生などつまらない」と嘯く宮本と同居中。
就活に際し情報収集や下準備に余念はないが、
自信過剰で頭でっかちな部分が面接でプラスに働くとは限らない。
日々の出来事をツイートで報告しているが、若干の脚色あり。

・宮本隆良(岡田将生)
出逢いからわずか3週間で里香と同居中を始めた彼氏。
他の4人が盛んに意見交換しているところを、少し離れた場所から眺めている。
スーツを着て同じ時刻に出社し、誰がやっても同じ仕事をするのはごめんだと
アート方面に活路を求めているが、なかなか形にはなっていない。
仲間内では我が道を往くポーズを続けているが、実はこっそりと就活を開始した。

・サワ先輩(山田孝之)
拓人と親交のある大学院生で、同じバイト先で働いている。
普段は至って穏やかな善き先輩だが、時折グサリと刺さるアドバイスも。
就活に励む5人を一番側で冷静に見つめている。



本作で描かれる「いまどきの大学生達」は
生々しさ、痛々しさが度を超している。
朝井リョウの持ち味である『低体温な若者達のリアル』が下地を作り
三浦大輔監督の演出がそれを何倍にも増幅させて
想像の遥か上をいく仕上がりになった。
これは、物語の主人公・拓人が芝居を諦めて就活している大学生であることが
大きいのではなかろうか。
三浦監督は映画監督であると同時に劇団「ポツドール」の主宰でもあり、
若干21歳で初舞台の作・演出を手掛けている。
まさに拓人と同時期に「芝居で生きていく」ことを選択した人なのだ。
言わば劇中の銀次が三浦監督であり、拓人に該当する仲間達を
何人も見送ってきたのではないか。
拓人のLINEに応えない銀次の想いが、この映画全体に詰まっているように思える。

5人が就活本部と称して集まる里香の部屋は
古くは「キサラギ」や、「恋の渦」「愛の渦」と同じ密室劇の作り。
何気ない会話の節々に拓人、光太郎、瑞月らの本性が見え隠れし
仲良く酒を呑んでいるだけのシーンすら緊張感が漂う。
特に後半、里香(二階堂ふみ)と拓人(佐藤健)の二人だけになるシーンは
ほとんどホラー映画ばりの恐怖。
2016年も数多くのホラー映画を観て来た私だが、断トツでこのシーンが一番怖かった。

キャストは皆適材適所でハマり役。
映画やドラマに出倒している、色のついた面子で固めながら
「就活に勤しむ大学生同士」の空気を作り上げているのは凄い。
原作・キャスト・演出の全てが上手くまとまらなければこうはなるまい。

学生時代の終わりは、社会人時代の幕開け。
否応無しに引きずり出される世間の荒波に
彼等はどう立ち向かっていくのだろうかと、
登場人物達の「その後」を想像させるラストもお見事。
SNS時代の若者の光と影を描いた大傑作。

現在就活中の大学生や、リツイートやいいね!集めに躍起になっている
SNS中毒者にとっては目も耳も痛過ぎて見ていられないかも知れないので
そこだけはご注意を。

映画「何者」は10月15日より公開。




発売中■Kindle/Book:「何者 / 朝井リョウ」
発売中■Kindle/Book:「何様 / 朝井リョウ」
発売中■CD:「NANIMONO EP/何者 / 中田ヤスカタ」

Kindle/書籍では「何者」に登場した人物達の
アナザーストーリー集「何様」も発売中。
映画を観ると、むしろこちらを読みたくなること請け合いの1冊。

そして、「何者」をさらに奥深く楽しむために3本の映画を紹介。
いずれも当BLOGで紹介済みなので、過去ログを一部修正して以下に転載する。



▼「告白」の3年後を見るかのよう。映画「桐島、部活やめるってよ」


発売中■Blu-ray:「桐島、部活やめるってよ」
配信中■Amazonビデオ:「桐島、部活やめるってよ」(レンタル / 購入)

2012年現在、日本の映画監督で好きな人を5人挙げろと言われたら
是枝裕和、中島哲也、中村義洋、成島出、吉田大八監督と答える。
吉田監督は口では説明し辛い、胸の中で爆発しそうな感情を
映画というフィルターを通して見せてくれる監督で、
「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」「パーマネント野ばら」
「紙の月」と次々に良作を発表している、
そんな吉田監督が目をつけたのが、1989年生まれ、若干23歳の
作家・朝井リョウの「桐島、部活やめるってよ」である。

主演は「SPEC」「太陽」「君の名は。」の神木隆之介。
神木とのW主演ともいえる重要な役所の菊池には
「メンズノンノ」専属モデルからパリコレ出演まで
モデルとして活躍していた東出昌大が大抜擢。
吉田監督がオーディションで見出しただけあり、
デビュー当時の妻夫木聡を彷彿させる、今後期待の新人である。
生徒達の中には橋本愛、山本美月、松岡茉優、浅香航大、
前野朋哉、大後寿々花、太賀など今や売れっ子の若手が大量に出演している。

本作に登場する学生達は、社会に対する絶望感や大人への反抗心が薄れ、
表向き平静を装うことも会得した高校生である。
その気になれば、家を飛び出してひとりで生きていくことも可能な彼等には、
中学時代に抱いていた漠然とした不安の正体が見え始めている。
「なりたいもの」と「なれそうにないもの」の判別もそろそろついて
ピュアな恋心に、時として醜い嫉妬や独占欲が絡んでくることを身を以て体験する。
誰かが小石を投げ込めば、それだけで崩れてしまいそうな見せかけの平穏。
学校の枠内にいる間はできるだけ波風を立てない。
少しの不満なら呑み込んでしまえばいい。
それが、中学生とは違う、高校生なりに最も賢明な選択なのだろう。
様々な葛藤を「仕方ない」という言葉で無理矢理消化しようとする彼等に
学校の人気者である桐島が部活を辞めるニュースが駆け巡る。
シンボリックな存在であった桐島の突然の失踪によって
彼等が必死に守ってきた均衡が破られ、やがてその綻びは
実は誰が強い人間なのかをも明らかにしてゆく。

校舎の屋上で大乱闘になった後、馬鹿にしていたはずの前田(神木)が
将来について述べる、ほんの短い台詞が未だに忘れられない。
正しい自己認識で将来を見据えている前田と
ルックスが良い、背が高いといった「好条件」に寄りかかって
実は何の覚悟も定まっていなかった菊池との力関係が
たったひと言で逆転してしまう衝撃。
前を走っているつもりが、周回遅れであったことを思い知らされる菊池の敗北感。
どんな映画もラストシーンは重要だが
本作はこのシーンによって傑作に成り得たと思う。
リアルタイムで高校生活を送っている人にはピンと来ないかも知れないが
大人にとっては、古傷に触れられるような懐かしい痛みが走る映画だ。



▼エロティック・テラスハウス。映画「愛の渦」


発売中■Blu-ray:「愛の渦 特別限界版」
配信中■Amazonビデオ:「愛の渦」(レンタル / 購入)

「ボーイズ・オン・ザ・ラン」で映画監督デビューを果たした
劇作家・三浦大輔の新作は、自身が主宰を務める劇団ポツドールの代表作であり
第50回岸田國士戯曲賞も受賞した「愛の渦」の映画化。
大根仁に監督を任せた「恋の渦」に続いて公開される本作の題材は
マンションの一室を使って毎夜繰り広げられている
乱交パーティの現場を覗き見したようなドラマ。
保育士、サラリーマン、フリーター、女子大生。。。
昼間の顔では決して交わることのない男女8人が
体の繋がりだけを求めて欲望や性欲を露にしてゆく。
主演は「無伴奏」「永い言い訳」の池松壮亮。
共演は新井浩文、滝藤賢一、三津谷葉子、中村映里子、駒木根隆介、赤澤セリ、
柄本時生、信江勇、窪塚洋介、田中哲司。
池松と体を重ねる女子大生役に大抜擢されたのは門脇麦。
彼女は本作の出演以降、大ブレイクを果たし今や売れっ子女優となった。

三浦監督は本作を「セックス・コメディ」と名付けている。
子孫繁栄を目的としない、愛情すらも必要としない
快楽だけを重視したセックスを通して露になる人間の本性ではなく
セックスになだれ込むまでのグダグダと回りくどい会話であり
タオルの下で「早くやらせろ」「早くしてよ」と思いながら
敢えて遠回りしてしまう日本人的なまどろっこしさを笑う作品なのである。
これは乱交パーティではなく、ラブホテルで開かれる合コンと言った方が正しい。
子孫繁栄を目的としない、愛情すらも必要としない
快楽だけを重視したセックスを描く作品だと思っていた私は少々拍子抜けした。

ラストシーンの短い会話で、セックスにすぐ情を持ち込む男と
ファンタジーと割り切る(割り切ろうとする)女の違いを鮮明にしたことや、
朝陽の下で明かされる常連客の素顔、スタッフに届いたメールの内容など、
後半15分ぐらいに旨味成分のほとんどが集中しているため
観賞後は「面白かった」と思えるようには出来ている。
知名度のある俳優を使ってここまでの思いきった作品を撮ったことも賞賛に値する。

テンポやまとまりの悪さはあれど、日本映画でここまで出来れば上出来。
エロティック版のテラスハウスとして、女性にもお薦め。
いつか「SHAME」の域に達する作品が出て来ますようにと、
希望を込めて良作認定したい。



▼夢のタイムリミット。映画「ソラニン」


発売中■Blu-ray:「ソラニン」
配信中■Amazonプライムビデオ:「ソラニン」

夢を追いかける若い男女の生き様を描いた傑作。
主演は「怒り」の宮崎あおいと、「横道世之介」の高良健吾。
共演者はau三太郎の浦ちゃんこと桐谷健太、サンボマスターの近藤洋一、
「空気人形」の井浦新、「青い鳥」の伊藤歩など。

好きなことだけして食べていくことが出来れば、人生は楽しい。
けれど、それを実現できるのは、ほんの一握りの幸運な人だけだ。
好きなことを生業にした途端に、好きなことが好きでなくなってしまう人もいる。
多くの人は、志半ばで夢追い人を卒業し、現実を直視することを迫られる。
幼い頃には「夢はでっかい方がいい」と言われていたのに、
いつの間にか「いつまでも夢みたいなこと言ってないで、
いい加減に現実を見なさい」と言われるようになる。
眩しいほど輝いていたはずの未来は、現実という名の篩に掛けられて
少しずつ選択肢を狭めていき、やがて、生身の自分の価値が否応無しに突きつけられる。
夢ばかり語ってる場合じゃないと気付きながら、もう少しジタバタしていたい。
夢見る期限を一日延ばしにして、友人達と騒いだところで問題は解決しない。
むしろ、先延ばしにした分の延滞料が積み重なっていき、人生がどんどん窮屈になる。
夢を諦めることが大人になることなのか、現実を見るということなのかと自問しつつ、
刻一刻と迫るタイムリミットに、胸の奥がきゅーっと締め付けられる。

そろそろ決断しなくては。

そんなことは分かっている。
誰に言われなくとも、全部分かっている。
分かっているけど、もう少しだけ待って欲しい。
私にとっての20代半ばも、確かにそんな感じだった。
だから、芽衣子と種田が抱える不安や焦燥感が、私には手に取るように良く分かる。

夢に向かって一直線に突き進み、そのまま叶えてしまったような天才肌の方や、
さっさと夢に見切りをつけて就職、結婚、マイホームの流れに呑み込まれた方にとっては、
芽衣子と種田の生活など、甘ったれ同士が仲良く現実から逃避し、
傷の舐め合いをしているようにしか映らないだろう。
その意見は、きっと正しい。
正しいけれど、私は彼等の甘ったれも含めて、全てが愛おしかった。
納得がいくまで頑張ってみろと応援したくなった。
それは、同じようにジタバタしていた昔の自分を、自分で肯定したいからなのかも知れない。

監督は、本作が長編映画の初監督作品となる三木孝浩。
PV出身監督特有の「凝った映像とスカスカの中身」とは一線を画す仕事ぶり。
岩井俊二監督や熊澤尚人監督のラインを受け継ぐ邦画界の旗手として、
今後の活躍に期待が出来そうだ。

↑結果、今や青春映画には欠かせないヒットメーカーとなった。