始まりの歌。映画「シング・ストリート 未来へのうた」 | 忍之閻魔帳

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映画 シング・ストリート SING STREET


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▼始まりの歌。映画「シング・ストリート 未来へのうた」


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音楽をテーマにした傑作「ONCE ダブリンの街角で」「はじまりのうた」を
手掛けたジョン・カーニー監督の最新作が先週末より公開中。
監督自身の少年期を題材にした作品で、
1980年代のアイルランドを舞台に、音楽と恋に生きた少年コナーの青春時代を
当時席巻した80'sヒットソングと共に描く。
ジョン・カーニーは監督だけでなく、原案・脚本・製作、
そして劇中で披露されるオリジナル楽曲まで手掛けているのだから
どれほど思い入れの強い作品か分かろうというもの。
主演はオーディションで選ばれたフェルディア・ウォルシュ=ピーロ。
共演はジャック・レイナー、ルーシー・ボーイントン。
音楽監修は「マンマ・ミーア!」「レ・ミゼラブル」のベッキー・ベンサム。


07月09日公開・「シング・ストリート 未来へのうた」

<1985年>

この心のときめきをどうしよう。
映画の舞台になっているのは1985年。
映画界では「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が公開され、
ゲームでは「スーパーマリオ・ブラザーズ」が発売された。
音楽界はというと、日本では中森明菜と松田聖子の絶頂期であり
斉藤由貴、南野陽子、浅香唯、おニャン子CLUB、渡辺美里らがデビュー。
邦楽に混ざって洋楽がチャートを席巻していた時代でもあり、
年間アルバム売り上げの2位にはワム!の「メイク・イット・ビッグ」が、
8位にはマドンナの「ライク・ア・ヴァージン」がランクインしていた。

バブル景気目前の空気に日本中が浮かれていた1985年だが
アイルランドの首都ダブリンは不況にあえいでいた。
経済的な事情から転向を余儀なくされた14歳の少年・コナーは、
夫婦喧嘩の絶えない家庭生活と、イジメっ子に目を付けられてしまった
学校生活に挟まれ窒息寸前の青春時代を送っている。
そんなコーナーの気分転換は、音楽好きの兄との音楽談義と
ギターを片手に自作の曲を書くこと。
デュラン・デュラン、カルチャー・クラブ、A-ha、ペット・ショップ・ボーイズら
音楽性に加えてファッション性も高く、MV製作も活発だった
ニュー・ウェーヴ勢の大活躍に影響を受け、コナーもMV製作を夢見るようになる。

ダブリンとは社会情勢も何もかも違う環境で育ったのに、
ハマった音楽も遊びも、コーナーの青春は私といちいちシンクロしていて、
こんな映画を冷静に語れというのは無理である。



<音楽映画+青春映画+家族映画=トリプルなミラクル>

音楽映画としての基本的な枠組みは、
監督の前作「はじまりのうた」を継承している。
街角から音楽が生まれ、小さな奇跡が大きなうねりを形成していく
ストーリー展開も同じだが、本作はそこに友情や恋愛といった
学園ムービーとしての甘酸っぱさをプラスしていて、
さらには両親や兄との関係にも言及した家族映画にもなっている。
詰め込めるだけ詰め込みながら、どの要素もきちんとオトシマエを付けていて
脚本の素晴らしさは「ONCE」「はじまりのうた」をも上回ったと言えるだろう。

「ハイスクール・ミュージカル」や「glee」のような
玄人はだしのパフォーマンスも良いが、
本作はちゃんと『少年達による急ごしらえのバンド』という
テイストも残していて、そこが尚更愛おしい。
「人の曲を使うな、自分の言葉と曲で語れ」と熱く語る兄の言葉のままに、
等身大の言葉で紡がれた歌詞と、当時の流行に感化されたメロディが
80年代をリアルタイムに過ごしてきた私のハートを鷲掴みにする。
固さの残るボーカル、メイクや衣装選びのセンスの無さ。
バンドの未熟さが、年上のヒロインを憧れの存在としてより輝かせるのだ。



<「ブルックリン」と「シング・ストリート」>

現在公開中のシアーシャ・ローナン主演「ブルックリン」と本作は
年代設定が30年ほどズレているが、
どちらもアイルランドから都会を夢見て旅立つ少年(少女)の物語である。
主人公を支えるキーパーソンなっているのが兄(姉)であることも共通している。
人生を諦めかけている兄(姉)が弟(妹)に託す想いは
「ブルックリン」も本作も同じ。
兄の「フィル・コリンズを聴く男に女は惚れない」を胸に刻み
大都会ロンドンを目指すコーナーに夢は応えてくれるだろうか。




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<「小さな恋のメロディ」の再来>

本作のラストを見て、1972年生まれの監督と同世代の映画ファンは
「小さな恋のメロディ」を想起するはず。
踏み出す前の不安や戸惑いに貴重な青春を浪費するのは止めて、
明るい未来だけを信じ、前だけを向いて駆け出せと観客を鼓舞する。
その先に何が待ち受けていたとしても、
繋いだ手を離さなければ、どんな困難も乗り越えられると語りかけている。
これは、80年代を過ごしてきた監督の自伝的映画であると同時に、
監督と同世代の子らに向けた、大人からのメッセージ映画でもある。




発売中■Blu-ray:「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」
発売中■DVD:「パイレーツ・ロック」
発売中■Blu-ray:「アバウト・タイム~愛おしい時間について~」

<愛と希望を描く巨匠として>

主人公に最低限の音楽的な素養が備わっていたこと、
不況下のダブリンにあって演奏やMV製作を行う上で
即実現させるだけの楽器や部屋が整っていたことなど、
恵まれた環境の上で成立した物語ではあるが、若き日のジョン・レノンを描いた
「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」よりずっと共感度の高い
文句なしの青春映画だった。

「パイレーツ・ロック」「アバウト・タイム」のリチャード・カーティスが
監督業から引退してしまった今、心の底から音楽を愛し
誰もが明るい気持ちに包まれる人生讃歌を撮る監督はジョン・カーニーしかいない。
イギリス映画がお好きならどんなに無理をしてでも
時間をひねり出して劇場で観るべし。

映画「シング・ストリート 未来へのうた」は現在公開中。




発売中■DVD:「パレードへようこそ」

【紹介記事】2015年上半期映画、絶対に観ておきたい珠玉の10+1本
【紹介記事】これだけは観ておきたい、2015年度公開映画総まとめ

本記事で紹介した作品は少しずつ年代がズレているのだが
同じく80年代を題材とし、観賞後のさわやかな余韻でも
共通しているのが「パレードへようこそ」。
本作にもカルチャー・クラブやフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドといった
「シング・ストリート」と同年代のブリティッシュ・サウンドが満載。

詳しい内容については過去ログにて。