怖いを凌駕する不気味。映画「残穢 住んではいけない部屋」 | 忍之閻魔帳

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映画 残穢 住んではいけない部屋 竹内結子 橋本愛


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▼怖いを凌駕する不気味。映画「残穢 住んではいけない部屋」


発売中■BOOK:「残穢 新潮文庫 / 小野不由美」

第26回山本周五郎賞を受賞した小野不由美の同名原作を
「白ゆき姫殺人事件」「予告犯」の中村義洋監督が映画化した
ホラー・ミステリー「残穢」が公開中。
主演は竹内結子、共演には橋本愛、坂口健太郎、滝藤賢一、佐々木蔵之介。

ちなみに、本作には実在する作家をモチーフにした人物が多数登場する。
佐々木蔵之介演じる平岡芳明のモデルは平山夢明、
滝藤賢一演じる竹内結子の夫のモデルは綾辻行人、
坂口健太郎演じる三澤徹夫のモデルは福澤徹三である。
佐々木蔵之介と滝藤賢一はかなり似ているのに
坂口健太郎だけが飛び抜けて美化されているのは何故だろう。
平山氏も「本物はホルモンに焼酎ぶっ込んだような顔なのに」とコメントしており
福澤氏の美青年化には色々と言いたいことがあるらしい。


1月30日公開・「残穢【ざんえ】 ‐住んではいけない部屋‐」

怪奇談を集めていた女流作家が手にした、読者からの一通の手紙。
謎の心霊現象を解明するため時間を遡っていくと、
怨念渦巻く悲劇的な歴史を掘り起こしてしまったというミステリー。

本作の面白さは、近年すっかりアトラクション化している
絶叫系ホラーのそれではなく、横溝正史シリーズに近い。
横溝正史の場合、最終的には言い伝えを利用した
連続殺人に行き当たるので犯人逮捕で解決を見るわけだが、
本作が恐ろしいのは、心霊現象の正体が誰かの悪戯でも殺人事件でもなく、
「ガリレオ」のように科学で解明できるわけでもない、
オチもタネもないホンモノだった、ということだ。
その土地に染み込んだ怨みの念がどれほど深いものだったのか、
真実が明らかになるにつれ、どんどん洒落にならなくなってゆく。
禁忌に触れてしまった後悔が鑑賞中にどれほど重くなっても
明かりが灯くまで劇場からは出られない。

貞子や伽倻子のような名物キャラが登場するわけではないので
叫びたくて劇場に足を運んだ方は「ちっとも怖くないじゃん」となる可能性もあるが
私からすれば「怖い」を遥かに凌駕する「不気味」が
延々2時間も続くので、観終えてどっと疲れた。
陰惨な事故、理不尽な死、呪われた家系、、、。
私達の住んでいる世界には、知らなくても良いことがきっとたくさんあるのだと
今更ながらに考えさせられる。
かつて「リング」の中田秀夫監督が「仄暗い水の底から」の舞台挨拶で
「血が一滴も流れなくても怖いのが上質なホラーだ」と言っていたのを思い出す。

本作のプロモーションにも利用されている「大島てる」
事故物件を調べるこのサイト、引っ越す時にチェックする方も多いのでは。
私も興味本位で近所を調べてみたことがあるが
良く考えればこのサイトはその建物の過去を知ることが出来るだけで
その土地にそのマンションが建つ前はどうだったのか、
さらにその前は何があったのかを知ることは出来ない。
同サイトで何も表示されない場所だとしても、
30年前、50年前はどうだったのかと言われると
絶対に安心出来る場所を調べる術はほぼないのではと途方に暮れる。
完全に自衛することも、抗う手段も持たないのだと気づかされてしまうことが
本作の持つ恐ろしさの肝である。
サブタイトルは「住んではいけない部屋」だが
正確には「触れてはいけない過去」だろう。

中村監督は「ほんとにあった!呪いのビデオ」シリーズで
培われたノウハウを存分に活かしている。
主要人物以外をほぼ無名の役者で固め、そこに抑えた芝居の竹内結子や
良い意味で素人っぽい芝居をする橋本愛を溶け込ませることで
私達のすぐ側で起こっている問題のように錯覚させるのである。
「白ゆき姫殺人事件」でもこの手法は取り入れられていたが
本作では全編に渡り使用する、まさに本領発揮の演出スタイル。
ずっと前からそこにあって、これからもずっと続くのだと言わんばかりの
エンディングも不気味さを倍増させ、
穢れの破片を受け取ってしまったのではと観客に嫌な余韻を残してくれる。
こんなありがた迷惑な話はない。

この映画を「怖くない」と笑い飛ばせる人は
劇中に登場する「何も感じないけど?」と語る主婦達と同じで
側に居ても気づいていないだけ、かも知れない。

映画「残穢 住んではいけない部屋」は現在公開中。



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