ビートたけし監督、爆誕。映画「龍三と七人の子分たち」 | 忍之閻魔帳

忍之閻魔帳

ゲームと映画が好きなジジィの雑記帳(不定期)

映画 龍三と七人の子分たち 藤竜也 近藤正臣 中尾彬


▼ビートたけし監督、爆誕。映画「龍三と七人の子分たち」

海外での評価の高さに反し、なかなか国内ではヒットが出せずにいた
北野武監督の最新作が今週末より公開。
引退したヤクザ達が若い犯罪グループの横暴を阻止すべく立ち上がる
ドタバタコメディで、出演俳優の平均年齢は何と72歳。
武が「なんとか初日まで頑張ってくれ」と言っていたのも
半分ぐらいは本気だったのではないかと思ってしまう顔ぶれを揃えた。
出演は藤竜也、近藤正臣、中尾彬、品川徹、小野寺昭、安田顕、勝村政信、萬田久子。
音楽は「座頭市」「アウトレイジ」と、北野作品では数少ない(失礼)ヒット作を
手掛けてきた鈴木慶一。




発売中■BOOK:「ツービートのわッ毒ガスだ(1980年)」

本作は「監督・ビートたけし」である。

暴力的か芸術的かの二極化した北野作品の中で
これまで役者として参加してきたビートたけしが、
本作では下克上を企てて北野武を追い出してしまった。

ヤクザ同士の抗争という、「アウトレイジ」とほぼ同じフォーマットに
園子温も「参りました」と白旗を振りそうなブラックショークと、
井口昇も大興奮のお下品ネタを盛り込んで
昔懐かしい毒舌漫才風コメディ映画を作り上げているのだから、
漫才ブームや「オレたちひょうきん族」をリアルタイムで体験してきた私にはたまらない。

「ひょうきん族」のタケちゃんマンや鬼瓦権造がそうであったように、
本作で使われるネタはどれもとことん下らない。
スベっているネタもあるし、不謹慎一歩手前のネタもある。
他ならぬたけし本人も含め、滑舌の悪くなったジジィ俳優達が
何を言っているか聞き取り辛いシーンも多いし、
後半のカーチェイスもスピード感がなく、どこか遠足的な楽しさすら漂う始末。
何かにつけて藤竜也に屁をこかせて笑いを取ろうとするに至っては
とても2015年にやることではないが、そういった昭和的「くっだらねー」を
ド直球で投げ込んでくることこそが本作の面白さになっている。
正月番組ぐらいでしか見掛けなくなった大御所の漫才を見て
どこかホッとするような、そんな楽しさが「龍三」にはある。
古臭いなどと突っ込もうものなら、たけしはきっとこう切り返してくるだろう。

「あたりめぇだよ、ジジィばっか集めて作ってんだから」

近年はすっかり「TVではコメンテーター」「映画では監督」に収まっていた
ビートたけしが、歳をとっても「くっだらねー」を追求する姿に胸が熱くなる。
10代はさすがにマズかろうが、20代から70代ぐらいまでを対象にした
ベタベタな笑いは今の映画界ではかえって貴重だ。



シルバー俳優達が織り成す和製「エクスペンダブルズ」とも言える本作で
特にオイシイのが”はばかりのモキチ”を演じた中尾彬。
モキチを使ったあるシーンはもう反則レベル。
劇場で声を出してゲラゲラ笑ったのは何年振りだろうか。
強面をキープしたままちゃんとコメディ色が出せる安田顕もナイスキャスティング。
ビートたけしの笑いを前面に押し出すのであれば
今回は役者をお休みして完全に裏方に回っても良かったのでは、とは思うが
本作でのたけしは狂言回し的なポジションなのでまぁいいか。


発売中■DVD:「死に花」

シルバーアクターが活躍する映画といえば、
日本にも「死に花」(2004年)という作品がある。
高級老人ホームで悠々自適に余生を過ごしていた老人達が
亡くなった友人の遺志を引き継いで銀行強盗を企てるコメディ。
監督は犬童一心、出演は山崎努、宇津井健、青島幸男、谷啓、
長門勇、藤岡琢也、森繁久彌とベテラン勢をずらりと並べた豪華キャストであった。
ほんの10年前の映画だが、主要俳優陣は山崎努を除いて
全員亡くなってしまっているのが哀しい。

「龍三」に唯一足りないのは、この豪華さである。
藤竜也と近藤正臣は良いとして、残りの5人が弱いのだ。
脚本のキレの悪さを補い「和製エクスペンダブルズ」を名乗るためには、
残りのキャストも豪華な面子を揃える必要がある。
劇中で”早撃ちのマック”を演じた品川徹が
仲間から「内田裕也みてえじゃねえか」と声をかけるシーンがあるのだが
もしかするとたけしは本当に内田裕也を想定して脚本を書いていたのではないか。
仲代達矢や渡哲也は無理にしても、田中泯、竜雷太、千葉真一あたりなら
声をかければ出てくれたと思うのだが。。。
夏八木勲、菅原文太が亡くなってしまったのも惜しい。
七人全員をS級で固めて物語に「デンデラ」ぐらいの破壊力があれば
文句なしの快作になっただろうに。

「くっだらねー」に対し「本当にくだらないわね」と素で返してしまう方には
全く面白くない危険性も孕んでいるが
「映画監督としての北野武はちょっと」と敬遠してきた方にも薦められる良作。
おばちゃん同士のお出かけにも、20代のデートムービーにも
元ヤンの集会にも使える映画「龍三と七人の子分たち」は明日公開。

次回は、ディズニークラシックの王道を実写化した「シンデレラ」を紹介予定。




発売中■DVD:「デンデラ」

日本映画界を引っ張ってきた大女優を起用し、熊との死闘を演じさせる。
もうこのコンセプトだけで胸を鷲掴みにされてしまうのが「デンデラ」である。
食料不足による口減らし目的で、70歳を超えた老人を山に置き去りにする
「姥捨て」の風習をベースに、捨てられた老女達がコミュニティを形成し、
力を合わせて生き抜いていたという逞し過ぎる物語。
老女達の生への執着にスポットを当てた怪作に仕上がっている。
監督は「楢山節考」を手がけた今村昌平監督の息子である天願大介。

出演は、70歳を迎えて捨てられたばかりの”小娘”斎藤カユに浅丘ルリ子。
「デンデラ」の創始者であり、齢100歳にして
村への復讐を企てる三ツ星メイに草笛光子。
無益な争いを好まない温厚な性格ながら、
高い戦闘能力を持つ椎名マサリに倍賞美津子。
カユに何かと世話を焼く浅見ヒカリに山本陽子。
主演は浅丘ルリ子だが、インパクトでいえば草笛光子が圧巻。
「キル・ビル」のダリル・ハンナを思わせる、アイパッチの倍賞美津子も渋い。

姥捨てによって「生」を否定された老人達が集落を築き
僅かな食べ物を公平に分配しながら生き長らえているのは何故なのか。
長老のメイは、「自分達を捨てた村に復讐する」のだと説明するが
それが老女達を束ねるための建前であることは明白だ。
過酷過ぎる環境下を生き抜くためには、「死にたくない」以外にも
何かしらの目標がある方が良いということを、最高齢のメイは知っていたのだろう。
もっとも、捨てられた直後には村への憎悪もあったはずで
30年の間に憎しみは風化し、「村を襲わずに死ねるか」という
こだわりだけが残っているようにも見える。

物語中盤に乱入してくる熊の存在が、映画を一気に「老女 VS 熊」という
スプラッター映画の如き展開(といっても血飛沫の量が多いだけで、
グロい演出はほぼ皆無。)へと引きずり込んでいくのだが、
この熊が母子のペアであるという点が面白い。
女房からも母親からも降り、ただの女になった老女達が子熊を殺して喰らい、
子を殺された母熊は、その母性からデンデラへの襲撃を執拗なまでに繰り返す。
メイの途中退場によって物語が空中分解したのではなく、
カユと母熊の対立に焦点が絞られてゆくことで
復讐劇の向こうに横たわっていた「女の物語」がくっきりと浮かび上がってくる。

凍えるような雪景色の中で奮闘する女優陣には頭が下がるが
制作費の問題なのか、熊が着ぐるみ感満載で、そこだけは本当に残念。
「楢山節考」や「蕨野行」のような深みはないものの
「姥捨て」伝説をベースにした、ホラーテイストの寓話としては大アリ。
大女優達が体を張って演じるテーマの奥深さと、
安っぽい熊の着ぐるみが醸すB級テイストがブレンドされた不思議な味わいは
なかなかお目にかかれない珍品と言えよう。