愛する人と生きる。映画「チョコレート・ドーナツ」 | 忍之閻魔帳

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▼愛する人と生きる。映画「チョコレート・ドーナツ」

イアン・マッケラン、ジョディ・フォスター、エレン・ペイジ、
ウェントワース・ミラー、ルーク・エヴァンス、ベン・ウィショー・・・
ここ数年、ハリウッドセレブが次々にカミングアウトしている。
自分らしく生きることを高らかに宣言した彼(彼女)等の笑顔は皆一様に清々しい。
ハリウッドセレブ達の動きとシンクロするように同性婚を認める動きも加速し、
長い長い時間をかけてゲイ差別は少しずつ世の中から小さくなろうとしている。
そういえば先日、3DSの「トモコレ」でも同性婚をさせろというニュースもあったな。

一組みのゲイ・カップルがダウン症の子を引き取り
正式な養育権を得る為に法廷で闘う本作の原題は「any day now」(今すぐにでも)。
日本では、劇中に登場するダウン症の少年マルコの好物から
「チョコレート・ドーナツ」との邦題が付けられているが
ラストも含め作品のメッセージを最も端的に表しているのは、
やはり「any day now」である。

監督は俳優出身のトラヴィス・ファイン。
主演はトニー賞も受賞した経歴を持つアラン・カミング。
共演は「LOOPER」のギャレット・ディラハント、
ダウン症に生まれながら役者を目指して頑張っているところが監督の目に留り
本作でスクリーンデビューとなったアイザック・レイヴァ。



本作は1970年代のアメリカを舞台にした実話がベースの物語。
女装しながら歌うショーダンサーの男ルディ(アラン・カミング)の店に
弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)がやってきた。
ボロアパートの家賃すら滞納し大家から退去をほのめかされているルディと
将来を嘱望された弁護士のポールとでは何もかもが違ったが、二人は恋に落ちる。
ある日、ルディの隣に住んでいた薬物依存症の女が逮捕され
がらんとした部屋にはダウン症の息子マルコが遺されていた。
このままではマルコは施設に連れていかれてしまう。
マルコと面識のあったルディは何とかマルコを引き取れないかとポールに相談するのだが。


「ヒューマン・ドラマ」か「法廷モノ」か「ゲイ・ムービー」か「ミュージカル」か。
どこにカテゴライズされるのかは観た人それぞれなのだろうが
私にとって本作は、断然「家族ドラマ」だった。
「血の繋がった家族の中で起こるドラマ」ではなく「家族とは何かを問うドラマ」である。
ゲイ・カップルがダウン症の子供を引き取って育てる。
たった一行の中に問題山積みなこのテーマを、じっくり丁寧に掘り下げていく。

傍から見れば、子を引き取る理由が衝動的にも見えるしその手段も荒っぽい。
ポールがどれだけ法律を盾に権利を主張しても
「ここは知識を披露する場ではない」と一蹴されてしまうのも仕方ない面もある。
しかし、ルディとポールは同性愛者への憎悪にも近い差別意識が渦巻く
1970年代の社会において、自分達が晒しものになる覚悟でマルコの親権を主張し続ける。
養護施設への送り迎えを欠かさず、眠る前にはハッピーエンドの物語を聴かせるうちに
マルコの表情の変化が二人の愛情を何よりも雄弁に映し出す。
確かに血は繋がっていない、父親が二人という形式に世間は奇異の目を向けるだろう。
しかし、どちらにとっても過去よりは確実に明るい未来が待っている。
ならば一緒にいたい。手を取り合って生きていきたい。
お互いを求め合う人間が小さな家族を作り、ささやかな幸せを得ようとするのが
そんなにいけないことなのだろうか。
法律を悪用してでもルディ達を殲滅せんと躍起になる
彼等を突き動かしているものが一体何なのか、
その嫌悪感の正体を思う時、「それでも夜は明ける」にも通じる恐怖を感じた。

劇中でルディが「麻薬中毒の母親もダウン症もあの子が臨んだわけじゃない。
なのにまだこれ以上あの子を不幸にするの」と語るシーンがある。
ではルディは、マルコが健常者だったら引き取っただろうかと、
そんな考えがふと頭をよぎる。
世間から疎ましがられる我が身を慰めるためにマルコを引き取りたいのではないか、と。
そんな私の愚かさをよそに、ルディもポールも無償の愛を注ぎ続ける。
笑顔の絶えないビデオ映像や、「二人に会いたいか」と問われ頷くマルコを見て
ほんの一瞬でも邪推した自分を恥じた。

私の好きな映画で例えながら説明してみると、
血を超えた親子の絆を描いた点は「そして父になる」に通じ
親の無責任によって子供が被害を被る構図は「誰も知らない」に通じ
差別意識が生む悲劇という点は「フルートベール駅で」に通じ
子を案ずる親の愛情を描く部分は「海洋天堂」に通じ
家族の形を見つめ直す意味では「キッズ・オールライト」に通じ
差別と闘い続けた実在の人物という点は「ミルク」に通じ
ルディの歌うシーンは「ドリームガールズ」のジェニファー・ハドソンに通じ
観賞後に私達に渡されるバトンの重さは「トガニ」に通じる。

唯一引っ掛かるとすれば、これはあくまでもレアケースであるということ。
マルコを引き取るに足るだけの人間性と経済力を兼ね備えた二人がいて、
マルコとの信頼関係も築かれているからこそ
結果はどうあれ多くの賛同を得られたのであり
巷のゲイ・カップルが安易に子供を養子縁組することについては
子の負うリスクが大き過ぎるため私は賛成できかねる。
ただし、「キッズ・オールライト」のようなケースならまだ理解はできる。

単館公開ではあるものの、日本では驚異的な動員でハイアベレージの興行が続いている。
特にシネスイッチ銀座では、2006年公開の「かもめ食堂」から約8年ぶりに
初日の全上映回満席を達成、OP2日間の動員は2674人、興入408.5万円を叩き出した。
観賞後の評価も上々なようなので、まだしばらくこの状況が続くだろう。
「アナと雪の女王」旋風で沸く映画業界だが、映画好きならば絶対に見逃せない作品。
お近くで上映しているなら、是非とも1,800円握りしめて劇場へ。

まだ折り返しも来ていない5月の段階ではあるが、現時点で私の2014年度No.1候補。

映画「チョコレート・ドーナツ」は現在公開中。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:チョコレート・ドーナツ
    配給:ビターズエンド
   公開日:2014年4月19日
    監督:トラヴィス・ファイン
   出演者:アラン・カミング、ギャレット・ディラハント、他
 公式サイト:http://www.bitters.co.jp/choco/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


チョコレート・ドーナツ サウンドトラック 01 チョコレート・ドーナツ サウンドトラック 02
配信中■iTMS:「Any Day Now(Original Motion Picture Soundtrack)」
配信中■iTMS:「Any Day Now(Original Motion Picture Score) Joey Newman」

主人公ルディがシンガーを夢見ていることもあり音楽がまた素晴らしい。
残念なことに日本でのCD発売がないが、iTMSでは歌曲版、スコア版共に購入可能。
ボブ­・デュランの「I Shall Be Released」のカバーが出色だが
この曲はラストにも関わってくる重要な曲なので「Come To Me」の歌唱シーンを紹介。
こちらも素晴らしい。






発売中■DVD:「キッズ・オールライト オリジナルバージョン」

2010年度のオスカーで作品賞、主演女優賞(アネット・ベニング)、
助演男優賞(マーク・ラファロ)、脚本賞などにノミネートされたのが
「キッズ・オールライト」。
ふたりの子供を持つレズビアンのカップルが、精子提供者と会うことで
様々なトラブルに見舞われるコメディタッチのドラマ。
主演は「アメリカン・ビューティー」「愛する人」のアネット・ベニングと
「キャリー」「シングルマン」のジュリアン・ムーア。
共演は前述のマーク・ラファロにミア・ワシコウスカ、ジョシュ・ハッチャーソン。

レズビアンのカップルとして、二人の子供と共に生活している
ニック(アネット)とジュールス(ジュリアン)。
娘ジョニはもうじき18歳、息子レイザーは15歳。
どちらも状況をよく理解し、4人の生活は平穏だったが、
18歳になり、精子提供者、つまり本当の父親が誰なのかを知る権利を得たジョニを
レイザーがたきつけ、二人はレストラン経営をしているポール(マーク)に辿り着く。

同性婚も養子縁組もさして珍しくないアメリカらしく、
生活の基盤そのものには何の支障もなく、突然現れた実の父親のせいで
家族内がドタバタするというのが面白い。
日本人から見ると昼ドラになりそうなドロドロ設定だが
コメディ色を前面に押し出してカラっと仕上げているあたり「大人の映画」という感じ。

過度の束縛を嫌い、性に奔放なジュールスは
女性であると同時に大黒柱であろうとするニックとは対照的で
小悪魔的な存在として物語を引っ掻き回す役どころ。
理知的な役が多いジュリアン・ムーアがここまでやるとは。

「愛する人」で見せたナオミ・ワッツの母親役も記憶に新しい
アネット・ベニングは、主演にノミネートされて然るべき名演。
家長たらんとする男性的な面と、洗面台の髪の毛だけで
パートナーの浮気を嗅ぎ付けてしまう、女性的な勘の鋭さが内包された
ニックという人物像を完璧に作り上げている。

ドタバタを収束させる手段にやや納得がいかないものの
大人向けの上質なコメディとして幅広くお勧め。
問題山積みの大人達を横目で見ている子供二人の何と頼もしいことか。




発売中■DVD:「ミルク」

ゲイであることを公言し、マイノリティ差別と闘うために
生涯を捧げた活動家・ハーヴィー・ミルクの半生を描いた伝記ドラマ。
監督は「グッド・ウィル・ハンティング」「永遠の僕たち」のガス・ヴァン・サント。
主演は、本作でオスカーの主演男優賞を獲得した名優・ショーン・ペン。
ミルクの活動をプライベートの面から支えたパートナーには
「127時間」「猿の惑星 創世記」のジェームズ・フランコと
「天国の口、終わりの楽園」「ターミナル」のディエゴ・ルナ、
活動に参加した若き青年に「イントゥ・ザ・ワイルド」のエミール・ハーシュなど
旬の若手実力派を揃えたキャスティングも話題となった。

印象に残ったのは、ガス・ヴァン・サント監督が
「20世紀の英雄100人」に選出されたミルクを、とても普通の人間として描いていること。
ミルクを偉人として描くのではなく、活動の裏で弱音を吐いたり、
恋人に甘えたり、浮気に走ったりすることでバランスをとるような人間だからこそ、
彼の下に多くの同胞が集まったのだろうと思わせる演出が見事。
ミルクはあくまでもシンボルであり、彼の背後には名も無き大勢の人間が立っている。
ペンの熱演と題材にばかり話題が集中しがちだが、マイノリティ差別と闘う人々を描いた良作。