ソーシャル時代を代表する傑作ミステリー。映画「白ゆき姫殺人事件」 | 忍之閻魔帳

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▼ソーシャル時代を代表する傑作ミステリー。映画「白ゆき姫殺人事件」


発売中■Blu-ray:「白ゆき姫殺人事件」
発売中■Blu-ray:「白ゆき姫殺人事件 豪華版」

スマホ1台あれば世界中の誰とでも簡単に繋がることのできる時代。
幼い頃にSFで見たテレビ電話が、今はもうLINEの機能として標準装備されているのだから
いずれ透明なチューブの中をタイヤのない車で移動する日も来るかもしれない。
そんな与太話は良いとして、今回紹介する映画は「白ゆき姫殺人事件」である。

原作は「告白」の大ヒットから映像化が相次いでいる湊かなえ。
思春期特有の繊細さや残酷さをリアルに描き出す湊かなえの世界を
「アヒルと鴨のコインロッカー」「ゴールデンスランバー」など
伊坂幸太郎原作の映像化に定評のある中村義洋監督が映画化。
近年は「怪物くん」「奇跡のリンゴ」など
ファミリー向けから人情劇にまでそのフィールドを拡げていた中村監督だが
本作では得意分野に帰って来たぞと言わんばかりの上々の仕上がり。

主演は「八日目の蝉」の井上真央、「夏の終り」「横道世之介」の綾野剛。
共演には、映画初出演となる菜々緒、金子ノブアキ、小野恵令奈、谷村美月、
染谷将太、蓮佛美沙子、貫地谷しほり、生瀬勝久など。



ある日、しぐれ谷で女性の惨殺死体が発見された。
十数箇所を刃物で刺された上にガソリンで焼かれるという
ショッキングな事件の被害者が、”白ゆき石鹸”の大ヒットで勢いに乗る
日の出化粧品勤務の美人OL・三木典子(菜々緒)と判明するや
マスコミ(ワイドショー)はここぞとばかりに騒ぎ立てた。
事件からしばらくして、数名の情報提供者により
同じ日の出化粧品勤務のOL・城野美姫(井上真央)に疑惑の目が向けられるようになる。
事件を追っていたひとりの記者・赤星雄治(綾野剛)は
情報提供者が自分の元カノであったことからスクープを確信、
千載一遇のチャンスに興奮を抑え切れず、うっかりTwitterで情報提供を始める。
瞬く間に拡散されてゆく情報、次々に特定され暴かれてゆくプライバシー
果たして、城野美姫は本当に犯人なのか。
ネットの炎上と共に事件の裏に隠された意外な真実が明らかになる。


伊坂幸太郎原作を連続して映像化してきた中村義洋監督は
原作のメッセージを歪曲することなく、
旨味成分だけを抽出する術を完璧に身につけたようだ。
湊かなえ原作の映画化はこれで3作目だが、
連続ドラマの「夜行観覧車」やWOWOWの「贖罪」まで含めても本作は上々の部類。
原作を超えたと言っても過言ではない作品になっている。

インターネットやソーシャルメディアを取り入れた作品は
これまでドラマや映画で何本か製作されてきたが、
大抵の場合、ネットを使う奴はだいたいこんな感じ、という
決めつけばかりが鼻につく不快な物が多かった。
しかし本作はリアリティがまるで違う。

自己顕示欲に駆られてうっかり流したツイートが見知らぬ誰かの目に留まり
あっという間に拡散され、歪んだ正義が暴走する恐ろしさ。
天誅のつもりなのか、単なる憂さ晴らしなのか
膨張した正義(悪意)はいつしか事件の真相すら脇道へと追いやり
疑わしいだけの人物をとことんまで追い詰めて丸裸にする。
もっとやれやれ、祭りだワッショイと焚き付けるマスコミと
「マスゴミ」と罵りながら誤報を拡散する名もなき放火魔達のコンボによって
炎上はさらに加速してゆく。
真実が明らかになり、矛先を間違えていたとわかっても
今度は誤報を流した犯人探しへとターゲットが移るだけで、謝罪も訂正もしない。
そんな光景を、誰でも一度ぐらいは見た事があるのではないだろうか。

サスペンス要素を盛り上げる「炎上」を取り囲むようにして
本作には見どころがたくさんある。

忍的「白ゆき姫殺人事件」の見どころその1
中村義洋の撮るフェイクドキュメンタリーテイスト
「ほんとにあった!呪いのビデオ」でナレーションを務めてきた
中村監督らしく、取材VTRの胡散臭さがいかにもありそうでニヤリとさせられる。

忍的「白ゆき姫殺人事件」の見どころその2
「つまらない真実」よりも「面白い嘘」を優先して取り上げるメディア。
前日までは犯人と決めつけて辛辣なコメントしていたのに
真実が明らかになった途端に平然と別の人物を叩き始める風見鶏キャスターを
生瀬勝久が憎らしいほど達者に演じている。

忍的「白ゆき姫殺人事件」の見どころその3
付き合ってやっているつもりの軽薄な男と、
付き合ってもらってる芝居で男をまんまと転がす女。
綾野剛のダメ男っぷりはリアル過ぎて本人像すら傷つけかねないレベル。

忍的「白ゆき姫殺人事件」の見どころその4
女が女を貶める構図。
噂好きのOLを演じた小野恵令奈の無責任発言、
唯一の味方だとTwitterに”降臨”する谷村美月の不用意さ、
天然なのか意図的なのかの違いはあれど、
女が女を貶める構図があちこちで展開していて、男としては背筋が寒くなる。
小野恵令奈は「さんかく」に続き好演。女優向きなのかも。

忍的「白ゆき姫殺人事件」の見どころその5
優位に立つ者ほど全てを欲しがる。
美人ほど完璧を求めて整形したがるように
大半から羨ましがられるポジションに立っているにも関わらず
100%を掌握するまで納得しない人間というのが居る。
ささやかな幸せすら根こそぎ奪い取り、我が身を照らす光にしてしまう強欲さ。

忍的「白ゆき姫殺人事件」の見どころその6
菜々緒は和製ローラ・パーマー
かつて世界一美しい死体と言われたのは「ツイン・ピークス」のローラ・パーマー。
本作の被害者である菜々緒は、謎めいた素顔も含めてローラの再来を思わせる。
映画初出演とのことで台詞運びはまだまだ固いが
今後の活躍次第では女優業もいけそうな気がする。

忍的「白ゆき姫殺人事件」の見どころその7
「白雪姫」と「赤毛のアン」。
世界一美しいと称えられた少女の物語「白雪姫」と
赤毛に劣等感を抱くそばかすの少女の物語「赤毛のアン」。
映画の中でふたつの物語が混在しているのだが
決してもつれてしまうことはなく、誰が白雪姫を憎む継母で
誰がアンの親友ダイアナ・バリーで、初恋のギルバート・ブライスだったのか。
2時間きっちりでそれぞれの物語が完結する。脚本の勝利。

忍的「白ゆき姫殺人事件」の見どころその8
角度を変えて見えてくるもの。
ここと決めた方向から視点を変えずに報道することで
事件のイメージは作り手の誘導したい方向で定着する。
しかし、この世の全ての出来事は、ほんの少し視点をずらすだけで
たくさんの真実が見えてくるものなのだ。
いわゆるまとめ系サイトで良く使われる手法だが
切り取り方次第で発言の主旨がガラリと変わってしまうことは多々在る。

ミステリーとしてはそれほど難解ではない。
序盤で犯人が分かってしまう方も多いであろうし、
後半どうしても腑に落ちない箇所はある。
しかし、本作は結末に辿り着くまでに詰まった人間の本質や
ソーシャル時代のコミュニケーションの恐ろしさこそが見どころであり
そういう意味で本作はヒューマンドラマとも言える。

安直なネット批判、引きこもり叩きで終わらせず
「本当の関係はどこででも築ける」と結論づけた傑作。
TwitterやLINEへの依存度が高いと自覚している方なら必見。
映画「白ゆき姫殺人事件」は3月29日より公開。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:白ゆき姫殺人事件
    配給:松竹
   公開日:2014年3月29日
    監督:中村義洋
   出演者:井上真央、綾野剛、菜々緒、蓮佛美沙子、貫地谷しほり、他
 公式サイト:http://shirayuki-movie.jp/
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



発売中■BOOK:「白ゆき姫殺人事件(集英社文庫)」
発売中■Kindle:「白ゆき姫殺人事件(集英社文芸単行本)」

原作本。
書籍では2月末に文庫本が発売されたばかり。




発売中■Blu-ray:「告白 Blu-ray完全版」

2009年の本屋大賞を受賞した湊かなえの「告白」の映画化。
監督は、湊氏が「日本で一番好きな監督」と公言している中島哲也。
少女マンガの世界をそのまま映像化したような「下妻物語」
哀しい運命を辿った女の生涯をミュージカル仕立てで映画化した「嫌われ松子の一生」
飛び出す絵本と舞台的な演出が融合した「パコと魔法の絵本」
中島哲也監督は、常に私達の予想を良い方向に裏切って楽しませてくれる。
そういう意味で言えば、「告白」は今までで一番素直な映画化と言えるだろう。

原作に充満している葛藤・焦燥・鬱憤・悲哀・孤独を、
どうすれば107分の中に余さず収めることが出来るのか、
相当な回数原作を読み込んでいるであろうことが、脚本の上手さから伝わって来る。
これまでの中島監督の作品のように大胆な脚色は加えず、
映像においても、全体のトーンを抑え、スローモーションを多用しながら
少年少女達の心の揺れを時に繊細に、時に残酷に描き出している。

一応カテゴリー分けはミステリーなのだが
松たか子演じる女教師の独白のみで進行する第1章で
犯人はあっさり明かされる。犯人が誰かが問題なのではなく、
凶行に至るまでの過程こそが肝であり、
それは今回紹介した「白ゆき姫殺人事件」にも通じている。




発売中■DVD:「贖罪 コレクターズBOX」

2012年にWOWOWで放送された、湊かなえ原作による5話完結のドラマ。
監督は「回路」「トウキョウソナタ」の黒沢清。
主演は小泉今日子、共演は蒼井優、小池栄子、安藤サクラ、池脇千鶴、
森山未來、水橋研二、加瀬亮、伊藤歩、新井浩文、田中哲司と超豪華。

小学生の娘を殺された母親(小泉今日子)が、一緒に遊んでいた同級生達を呼びつけ
「犯人を見つけるまで一生許さない」とトラウマを植え付け、
少女達の「その後」をリレー形式で綴る連作ドラマ。
成長した少女達が、蒼井優、小池栄子、安藤サクラ、池脇千鶴というわけだ。
幼い頃の記憶に縛り付けられた彼女達は自らを責め続け
平凡な幸せを送れないでいる。
娘を失った日から色を失った母親は喪服を連想させる黒服で登場し、
未だ関係しないパズルのピースを探し続けている。

ミステリーも復讐劇でもない、哀しみを多分に含んだ名作ドラマ。




発売中■Blu-ray:「夜行観覧車 Blu-ray BOX」

平凡なサラリーマン一家が背伸びをして高級住宅地に一軒家を建てたことから
家庭崩壊が始まってしまう、湊かなえらしい家族ドラマ。
脚本は奥寺佐渡子、演出は「名もなき毒」の塚原あゆ子、
「クロコーチ」の山本剛義、「半沢直樹」の棚澤孝義とエース級勢揃い。
出演は鈴木京香、石田ゆり子、宮迫博之、安田章大、杉咲花、
田中哲司、堀内敬子、夏木マリ、高橋克典。

進学校にギリギリで引っ掛かった子供が苦労するように
見栄を張って高級住宅地に住んだところで
そこで営まれているコミュニケーションは何もかもが桁違い。
バザーに出すものが子供の古着では笑われる。
ローン返済を助けるためにパートがしたくても、
近所ではバレるので遠くまで行かなければならない。
コロッケの続く晩ご飯、家に帰らなくなる夫、反抗的になる娘、、、
息苦しくなる家庭で、ついに母親が壊れ始める。

毎週かぶりつきで見ていた良ドラマ。
鈴木京香も良かったが、まだあどけなさの残る少女の心情を
好演した杉咲花が三重丸。