才能を伸ばす才能。映画「ワンチャンス」 | 忍之閻魔帳

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▼才能を伸ばす才能。映画「ワンチャンス」

「大統領執事の涙」「LIFE!」に続くオスカー無冠の良作が今週末より公開。
オペラに興味のない方も名前ぐらいは知っているであろうポール・ポッツ。
イギリスで開催されたオーディション番組への出場をきっかけに
一介の携帯電話販売員が一夜にして世界的人気を誇るオペラ歌手へと変貌した
ポール・ポッツの奇跡のエピソードを映画化したもの。

監督は「プラダを着た悪魔」「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」の
デヴィッド・フランケル。主演はジェームズ・コーデン、共演はアレクサンドラ・ローチ、
ジュリー・ウォルターズ、コルム・ミーニイ。
劇中で披露されるポールの美声は残念ながら吹き替えだが、
何とポール・ポッツ本人が担当している。これはちょっと珍しい。



現役バリバリのポール・ポッツの伝記ドラマを本人の協力の下で
映画化するのだから、多少の脚色や修正はあろうし
実際に色々と調べてみると、経歴も事実より多少ドラマティックになっているようだ。
でもまぁ、振り幅が大きな方がドラマとしては面白いし
オーディションで勝ち上がってきたことは事実なのだから私はこれで良いと思う。

監督のデヴィッド・フランケルがこの映画で描いているのは
夢のような成功を手に入れたポッツの人生を振り返ることではなく

「天才が正しく評価されるためには
 神より与えられた才能を最大限に引き出すために
 ”才能を伸ばす才能”を持った者が必要だ」

ということなのではないか。

本作に登場する”才能を伸ばす才能”を持った者とは、妻ジュルズと母イヴォンヌである。
最終的に協力的になったとはいえ、歌なんてさっさと見切りをつけて
家業を手伝えばかりを繰り返す父ローランドが男手一つで育てていたなら、
ポールは現在の地位を手に入れてはいなかっただろう。
内向的な息子が唯一楽しみにしている音楽を与え続けた母親がいて
「我が世の春」と「この世の終わり」を行き来する
ナイーブな夫を献身的に支え続けた妻がいてこそ、
ポール・ポッツはその才能を開花させることが出来たのだ。

特にジュールの接し方は、扱いの難しい天才との距離の取り方として
今後マニュアル化して欲しいほどに完璧。
丸きり見捨てることもせず、尻を叩くこともせず、
日銭は自分が稼ぎ、夫の才能を信じて「その日」が来るのをじっと待つ。
疲れ果てて仕事から帰宅したジュールがテーブルに目をやると
ポールは既に食事を済ませている。
片付けものだけが散乱する部屋を見てジュールは言うのである。

「一緒に食べたかったわ」

これが普通の妻なら、散らかった部屋を見て金切り声を挙げて罵倒し
いつまでも家で惰眠を貪る夫に三行半を叩き付けてしまうに違いない。
一番近くにいる自分が夫の才能を信じ続けること。
それこそが、憧れのパヴァロッティから
「君は絶対にオペラ歌手になれない」と断言されてしまったポールの
最後の拠り所になることを知っていたのではないか。
いつ来るとも知れない、もしかすると来なかったかも知れない
「その日」をじっと待ち続けるジュールは
ポールの歌声に匹敵するほどの才能の持ち主と言えるだろう。

オスカーでは歌曲賞にノミネートされただけだったが
日本では受け入れられ易い普遍的な夫婦の物語であり万人向けの良作。
アニメ(アナと雪の女王)に興味がない大人のカップルなら
デートムービーとしてお薦め。

映画「ワンチャンス」は3月21日より公開。

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  タイトル:ワンチャンス
    配給:ギャガ
   公開日:2014年3月21日
    監督:デヴィッド・フランケル
   出演者:ジェームズ・コーデン、アレクサンドラ・ローチ、他
 公式サイト:http://onechance.gaga.ne.jp
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