知りたいのはそこじゃない。映画「ダイアナ」 | 忍之閻魔帳

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▼知りたいのはそこじゃない。映画「ダイアナ」

ここ最近のオスカー、こと主演男優賞&女優賞においては
著名人をそっくりに演じた者が獲得することが多い。
結果としてそうなったのか、評価基準がズレてきているのかは分からないが
伝記ドラマの製作本数は年々増加し、日本でも今月は「ダイアナ」、
来月には「スティーブ・ジョブズ」と続々公開が控えている。

今回紹介する「ダイアナ」は、世界で最も有名な女性と言われたダイアナ妃の
最後の2年間にスポットをあてた知られざる物語。
ダイアナを演じるのは「愛する人」「インポッシブル」のナオミ・ワッツ。
恋人役であるハスナット・カーンには
「LOST」でサイード役を演じていたナヴィーン・アンドリュース。
監督は「es[エス]」「ヒトラー 最期の12日間」のオリバー・ヒルシュビーゲル。



本編を観終えて、ナオミ・ワッツが二度もオファーを断った理由がわかった。
本作は『(劇中に離婚は成立するが)まだ王室の人間でありながら、
ダイアナが如何に恋愛に奔放な人間であったか』しか描いていない。
監督であるオリバー・ヒルシュビーゲルの視点がパパラッチと大差ないことを
作品選びに定評のあるナオミ・ワッツは見抜いていたのだろう。
彼女の死後相次いで出版された、「真実」とは名ばかりの三流芸能誌をもとにした
再現ドラマのような、死者に鞭打つ行為にも等しい本作を
ダイアナの息子達が観たらどう思うのか、葛藤の連続だったに違いない。

別居後から物語が始まるため、何故そこに至ったのかはノータッチ。
地雷廃絶運動など人道支援活動を勢力的にこなしていた姿も
刺身のつま程度にしか触れられない。
世界中で話題になった独占インタビューの映像を
言い訳のように再現して見せた後は、偶然知り合った医者と転がるように恋に落ち
周囲の目を盗んではデートを重ね、時に息子の存在すら頭から消して
ひとりの女性として恋に生きるダイアナ像だけがたっぷりと描かれる。

「私決めたわ、貴男とここで暮らす」
「子供達はどうするんだい?」
「さぁ、なんとかなるわよ」

こんな会話を本当にダイアナがしたのだろうか。
仮にしていたとしても、私が本作に求めていたのは
こんな安っぽい恋愛ドラマではなかった。
「最初から3人での結婚生活だった」と語る彼女の悩みや
ささやかな幸せから降りて(諦めて)、世界のアイコンとして
身を捧げようとしていた彼女の決意がロクに描かれないまま、
人目を忍んでデートしたり小間使いに料理を習ったりしているところを描かれても
自分探しの好きなイタい女性が
行き当たりばったりの恋愛を繰り広げているようにしか見えない。
ダイアナの死後16年経過して製作されたドラマがこれでは
ダイアナも浮かばれまい。

未だ人気回復には程遠いと言われているチャールズとカミラの関係も、
謎の事故死の真相についても一切触れないまま
ダイアナの人生を描くことは土台不可能だったのだ。
例えスキャンダラスな内容だったとしても
監督の腕次第では「ブーリン家の姉妹」のような
重厚感のある愛憎劇として作ることも可能だったはず。

「英国王のスピーチ」の監督トム・フーパーはイギリス人。
「クィーン」の監督スティーヴン・フリアーズもイギリス人。
どちらも英国王室から直々に撮影許可をもらったり、食事に招かれたりと歓待されている。
しかし、本作の監督オリバー・ヒルシュビーゲルはドイツ人。
ダブロイド誌に掲載された記事を切り貼りして作ったかのような本作を観ると
国民の感情がどこにあろうと、世界中から愛された女性であろうと
王室に泥を塗った人間のことをイギリス人監督が撮ることは難しいのだと
間接的に思い知らされた気分になった。
伝記ドラマを観て、こんなにスッキリしないのも珍しい。

映画「ダイアナ」は明日10月18日より公開。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:ダイアナ
    配給:ギャガ
   公開日:2013年10月18日
    演出:オリバー・ヒルシュビーゲル
   出演者:ナオミ・ワッツ、他
 公式サイト:http://diana.gaga.ne.jp
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



発売中■Blu-ray:「英国王のスピーチ」

本作の主人公は、ジョージ6世(1895-1952)。
兄は「王冠を賭けた恋」で恋を選び、1年足らずで王位を返上した
エドワード8世(1894-1972)。
ジョージ6世の妻は言わずとしれたエリザベス(1900-2002)で、
二人の間に生まれたのがエリザベス2世(1926-)。
夫フィリップとの間に生まれたのがチャールズで、
チャールズはダイアナ(1961-1997)と結婚し、ウィリアムとヘンリーを生んだ。

ジョージを演じるのは英国映画界の大スター、コリン・ファース。
共演には、「アリス・イン・ワンダーランド」のヘレナ・ボナム=カーター、
「エリザベス:ゴールデン・エイジ」のジェフリー・ラッシュ、
「ハート・ロッカー」のガイ・ピアースなど。
監督は「エリザベス一世 愛と陰謀の王宮」などのTVドラマで
英国王室モノを手掛けた経験を持つトム・フーパー。

幼い頃から言葉が遅い上に左利きやX脚を抱えていたジョージ6世は
王室の人間としての品位を重んじる父親や教育係から厳しい矯正指導を受け、
乳母から虐待まで受けていたため、ストレスから重度の吃音症に悩まされていたという。
そんな彼の元に舞い込んだのが、「兄が恋に走ったから急遽お前が王になれ」なのだから
玉座に就くのを泣いて拒んだというエピソードも納得がいこうというもの。
英国王室史上、最も泣き虫と言われたジョージ6世を支えたのが、
ヘレナ・ボナム=カーター演じるエリザベスの献身的で力強い愛情と、
ジェフリー・ラッシュ演じるスピーチ矯正の専門家ライオネルの懐の深さ。
この映画は、ジョージ6世が吃音矯正を克服するまでを
英国王室の人々にスポットを当てながら描いた家族ドラマである。
映画を観て、現エリザベス女王が泣いたというのも頷ける傑作。

映画のような人生を地で歩んだエドワード8世をサブキャラクターに止め
ジョージ6世の視点から描かれた本作は、
ダイアナ妃ではなくエリザベスの視点から描いた「クイーン」同様、
スキャンダラスな部分ばかりクローズアップせず、
違う面からも見てねという英国王室からのアピールと思えなくもない。
でも、それでもいいのだ。
この映画は素晴らしい。




発売中■Blu-ray:「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」

英国史上初の女性首相であり、鉄の女の異名を持つ
マーガレット・サッチャーの半生を振り返る伝記ドラマ。
主演のメリル・ストリープは本作で3度目のオスカー最優秀主演女優賞を獲得。
監督は「マンマ・ミーア!」のフィリダ・ロイド。

映画は、現在86歳になったサッチャーが、既に亡くなっている夫デニスの幻と
会話を交わす中で、自身の功績を振り返ってゆく回顧録の形式をとっている。
認知症が進んでからのサッチャーは表舞台から遠ざかっているため
ストリープの演じるサッチャー像は、首相として活躍した現役時代は資料を元にした再現、
ひとりの老婦人としての現在は想像で造り上げられている。
徐々に威厳を持ってゆく声色、優れた指導力とプライドの高さ、
イギリス英語独特の発声法に至るまで、ほぼ完コピしてみせたメリルの執念が凄い。

しかし、映画として見た場合は不満もある。
単に時系列順に出来事を並べただけで、数ある功績の中から
特にここが見せたいという「核」となるエピソードがないため全体がのっぺりしている。
母親として妻としてのサッチャーがどうであったか、
強気な姿勢を貫く一方でどのような葛藤を抱えていたのかなど、
史実を追うだけでは見えてこない人間臭い部分についてもっと深く掘り下げていれば
ストリープの熱演もさらに実のあるものになったろう。

メリル・ストリープの名人芸が見たいという方や
サッチャーの歴史をさらっと学習したいという方なら文句無しにお勧め。




発売中■DVD:「クィーン」

ダイアナ妃の死で批判の矢面に立たされた
エリザベス女王の知られざる素顔を描いたドラマ。

1997年、パリにて不慮の事故死を遂げたダイアナの死をめぐり
国内や英国王室でどのような混乱があったのかをエリザベス女王の視点から描いた作品。
王室での嫁姑問題として頻繁に取り上げられていた
ダイアナとエリザベス女王については、大半のマスコミがダイアナ支持であったために
どうしてもエリザベス女王にばかり批判が寄せられていたように記憶しているが、
本作を観ればダイアナと女王のどちらが正しいではなく、
単に立場の違いなのだということが良くわかる。

全ての権利を掌握する存在(=女王)で居続けることへの責任感と
時折見せるチャーミングな表情を見事に演じ切ったヘレン・ミレンは
本作でオスカーの主演女優賞を受賞した。
私的には、英国王室をテーマにした作品の中では本作が一番好み。




発売中■Blu-ray:「ブーリン家の姉妹」

ぐっと時代を遡って、エリザベス1世の産みの親であるアン・ブーリンと
その妹メアリー・ブーリンの姉妹が辿った数奇な運命を描いたドラマ。
アンとメアリーのどちらが姉でどちらが妹かは諸説あるのだが、
この映画では姉がアン、妹がメアリーとされている。
高慢で策略家の姉アンに「ブラック・スワン」のナタリー・ポートマン、
控え目な妹メアリーに「アベンジャーズ」のスカーレット・ヨハンソン、
好色家のヘンリー8世を「トロイ」「ハンナ」のエリック・バナが演じている他、
当時はまだ駆け出しだったジム・スタージェスやエディ・レッドメイン、
ブレイク前のベネディクト・カンバーバッチらが出演している。

嘘で塗り固められた美辞麗句など聞き飽きていたであろうヘンリー8世が
「成り上がり」を目論み政略結婚を仕掛ける両親と上昇志向の強いアンよりも
純真で清楚なメアリーに惹かれたのは当然のこと。
妹を格下に見ていたからこそ「優しい姉」としてのプライドが保たれていたアンにとって、
色目を使った国王にフラれたばかりか、選ばれたのが無欲の妹メアリーであったとことが
どれほどのショックであったかは想像に難くない。
メアリーの結婚後、お揃いの衣服で出掛けるほど仲の良かったブーリン姉妹は
ひとりの男を間に挟んだ「女同士」として敵対していくことになる。
(と言っても、敵視しているのはアンだけという感じなのだが)
メアリーからヘンリーを奪い取り、再婚まで漕ぎ着けたアンが
斬首刑に処せられるまでを克明に描いている。


発売中■Blu-ray:「エリザベス」
発売中■Blu-ray:「エリザベス:ゴールデン・エイジ」

「大奥」や「篤姫」といった恋愛要素の強い大河ドラマが
お好きな方ならばハマること請け合い。
私は鑑賞後、そのまま本屋へ直行し、原作本を上下巻セットで購入してしまった。
興味を持った方は、ケイト・ブランシェット主演で映画化されている
「エリザベス」「同ゴールデンエイジ」を見ておくとなお良し。




発売中■Blu-ray:「The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛」

ここだけ英国王室とは無関係なのだが、
女性の生き様を描いた作品ならここを目指して欲しかったということで紹介。
映画「The Lady ひき裂かれた愛」は、アウンサンスーチーの半生を描いたドラマ。
主演は「SAYURI」のミシェル・ヨー。
近年は脚本・製作に専念することも多くなった
リュック・ベッソンが監督を務めていることも話題となっている。

映画では、母の容態悪化を聞きつけてビルマに戻った1988年から
2007年に勃発した僧侶達の大規模デモまでを描いている。
イギリス人の夫と結婚し、二人の息子と共に暮らしていたスーチーが
32歳の若さで凶弾に倒れた父アウンサン将軍の遺志を受け継ぎ
民主化の必要性を訴えながら民衆の心を掴んでゆく過程には、
ビルマについてもスーチーについても
ニュース程度の知識しか持たない私には衝撃的なエピソードが満載だった。

この映画がアウンサンスーチーの功績を称える意味で製作されている以上、
情報がやや偏っていることは認めざるを得ない。
スーチーについての日本の報道が偏向しているという指摘は
私も何度か耳にしたことがあるし、実際問題として
民主化を訴えるスーチー側が一片の曇りもない善で、
軍事力によって国を束ねようとする政権は真っ黒の悪、という捉え方は
ビルマの問題を単純化し過ぎる恐れもあるだろう。
しかし、スーチーが自宅軟禁から完全に解放されたのは2010年。
平穏に暮らしていたひとりの女性、ひとりの母親が
夫からも子どもからも隔離され、亡き父の遺志を受け継いで
14年9ヶ月にも及ぶ軟禁生活を耐え切ったことは紛れも無い事実である。
父の威光に集まって来る人々を、
何も持たない自分が受け止める重圧は如何ばかりだったか。
常に身の危険を感じながら、民衆の前に立てば艶然と微笑んで手を振り続ける。
母を慕って帰国した平凡な主婦が背負うには、あまりにも過酷で大きな使命。
「最悪の事態を覚悟しつつ、最高を望み続ける」(劇中の台詞より)生活を
14年も続けた事実の前には、偏向報道がどうこうなど些細な問題だ。
息の詰まる生活に居ても、新たに配属された見張りに対し
「あなたが政治について考えなくても、政治はあなたのことを考える」
と語りかけるスーチーの強さ、優しさはまさに「女性版マンデラ」そのものだった。

主演のミシェル・ヨーも、昨年ビルマを訪れようとしたところ
ブラックリストに掲載されていたために入国を拒否されたらしい。
これは、激動の時代を振り返る映画ではない。
ビルマの問題は、今なお続いているのだ。