その中の大切なひとつ。CD/iTMS「Heavenly Music / 細野晴臣」 | 忍之閻魔帳

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▼その中の大切なひとつ。CD/iTMS「Heavenly Music / 細野晴臣」


発売中■CD:「Heavenly Music / 細野晴臣」
配信中■iTMS:「Heavenly Music / 細野晴臣」
発売中■LP:「Heavenly Music Analog / 細野晴臣」

聴くたびに心が潤う、耳のご馳走とも言うべき名盤「HoSoNoVa」から二年。
細野晴臣のニューアルバムが届けられた。
20世紀ポップスの植え替え作業に精を出す近年の音楽活動を
「種の保存に携わる公園の管理人のような気持ちだ」と語った細野氏の姿勢は
待望のニューアルバム「Heavenly Music」でもまったく変わらない。
悠然と煙草を燻らせる細野氏が辿りついたのは、やはりポップスだった。

もう“飽きる”という事が無くなったんですね。
自分でもよくわからないけど。新規なものを追うと飽きるんですけど、
うた・ポップスっていうのは普遍的なものですね。
そこに戻ったというか、元々そこだったんですけど。
(*HMVインタビューより)


本作はいわゆるカバーアルバムなのだが、内容は紛れもなく細野晴臣のニューアルバム。
カーペンターズもフランク&ナンシー・シナトラもボブ・ディランも
みんな仲良く「Heavenly Music」と名付けられた公園で花を咲かせている。
色合いの異なる花々が美しく調和しているのは
管理人の愛情が隅々まで行き届いているからに他ならない。

たくさんの便利を手に入れてきた私たちの暮らしは
どうやらまだまだ便利になろうとしている。
針を落とす手間を惜しみ、歌詞カードに目を通すことすら面倒になり
ついには形に残すことすら不要だと言い始めた。
音楽を含む、めまぐるしい環境の変化に対して細野氏はこんなコメントを出した。

色んなことが自分の心情とは乖離している。
でも、喫煙所では煙草が吸えるし、
好きな音楽を聴きながら、車で好きな所に行ける社会は捨てたものでもない。
音楽は3分間の夢、という気持ち。
心が前向きになる助けとなれば嬉しい。
色々な音楽があれば、どれか自分に合う音楽を選べるし、
自分もその中のひとつでありたいと思う。
(*TOWER RECORDS「NOMUSIC,NO LIFE」に寄せられたコメントより)


ここ数年、細野氏はしばしば「自分には関係ない」という表現をする。
世の中がどんどん駆け足で進んでいって、頑張って少し追いかけてはみたものの
どうやらそこに自分の居場所はないらしい。
でも、よくよく考えてみれば今居るこの場所が失われたわけでもないし
同じ早さで歩いている同胞もたくさんいる。
変化を求め、面白いことを求めてきた細野氏は
この歳になって目の前に広がる過去に向き合い始めた。
その想いが形となって生まれたのが
「HoSoNoVa」と「Heavenly Music」なのではないかと私は思う。

未来は背後に隠れている。しかし過去は目の前に広がる。
(*「haruomi hosono」1991年2月の日記より)

私的には、吉田美奈子をコーラスに迎え、かの名曲の歌詞を
男性目線に置き換えた「ラムはお好き? part 2」がお気に入りだが
アルバムを通して聴くと、やはり最後の「Radio Activiy」が異色だ。
クラフトワークが1975年にリリースしたアルバム「放射能」のタイトル曲のカバー。
今作のライナーには震災と原発に対するコメントが何度が出てくる。
この曲の紹介でもこんな記述があった。

ぼくも鉄腕アトムと共に原子力時代を夢見た世代だ。
その50年代的なSFの時代が終わったのが2011年だった。
荒涼とした原発の風景はもはやSFを超えている。
(*「Heavenly Music」のライナーより)


坂本龍一のピアノの旋律に乗せて

radioactivity Is in the air for you and me
(放射能 君と僕に向かって空気に漂う)

と歌う細野氏のボーカルは、それまで通り甘い響きのまま。
それだけに余計にこの歌詞が胸に小さな棘としてチクリと刺さる。
軽いステップを踏んで進んできたアルバムの、最後の最後に射し込んだ一瞬の陰。
これを台無しと取るか、素晴らしい余韻と取るかの最終的な判断は
この先何年もかけて聴き込んでみなければ分からない。

iTunes版が2,100円、CDが3,000円。
最近はiTunesで買うことも増えたが、やはり細野氏のアルバムはCDで買いたい。
見開きジャケットやCD盤面のデザイン、読み応えのあるライナー。
「その中のひとつ」としてこのアルバムを手に取った
リスナーに対する細野氏の愛情が溢れている。



『Heavenly Music』収録楽曲

01. Close to You
02. Something Stupid
03. Tip Toe Thru The Tulips with Me
04. My Bank Account Is Gone
05. Cow Cow Boogie
06. All La Glory
07. The Song Is Ended
08. When I Paint My Masterpiece
09. The House of Blue Lights
10. ラムはお好き? part 2
11. I Love How You Love Me
12. Radio Activity

参加ミュージシャン
高田漣 / 伊賀航 / 伊藤大地(SAKEROCK) / コシミハル
坂本龍一 / Salyu / アン・サリー / 吉田美奈子




■CD:「HoSoNoVa / 細野晴臣」
■iTMS:「HoSoNoVa / 細野晴臣」

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