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■CD:「HoSoNoVa / 細野晴臣」
■iTMS:「HoSoNoVa / 細野晴臣」
街の喧騒から少し離れた薄暗い通りの突き当たりに、
電飾看板すらない、古めかしいバーがある。
「HoSoNoVa」と書かれた小さなプレートは
長く愛され続けてきたその店を象徴しているかのようだ。
立て付けの悪くなったドアを思い切り良く押し開けると
何十年もかけて飴色になるまで煮込まれた音楽が耳に飛び込み、
記憶の底に眠る「ポップスの子供」を呼び覚ます。
マスターの奏でる音楽は、なぜこうも懐かしく温かいのだろう。
「この年齢になって自分ができること
それはポップスのルーツの伝承だと思っていた。
20世紀の果実を食べるだけ食べてきたが、
どうやらその果実も絶滅に危機に面している。
その種を保存し、植え直すということも可能だ。
今の私は、種の保存に携わる公園の管理人のような気持ちだ」
(*「HoSoNoVa」ライナーノーツより)
マスターは、三日と空けずに通い続けた常連客も
十年振りに舞い戻った旧い客も、同じように受け入れる。
少しぐらい商売っ気を出してもいいんじゃないかと
生意気にも進言したことがあったが、
マスターは微笑みながらパイプに煙草を詰め、火を灯し、
ゆっくりと燻らせながらグラスを磨いているだけだった。
レシピに載った材料と手順を守りさえすれば、
誰もがそこそこ美味しい音楽を造れる時代。
こんな時代だからこそ、マスターの音楽がもっと脚光を浴びるべきだ。
聴き手である私がこんなにいじいじしているというのに
音楽を創る当人は至ってマイペース。
システマチックな製造工程で生み出される、味気のない音符の羅列について
マスターは一体どう思っているんだろう。
「何も感じないですね、いいも悪いも。
僕には関係ないという感じ。
いいものはきっと耳に入ってくると信じてるから。
それ以外は関係ない。
昔は全部関係あったんですよ。
ヒット・チャートに入ってくる音楽は全部良かった。
何かしらの発見も刺激もあって。
今は向こうからも僕に用が無いんです。」
(*「細野晴臣の歌謡曲 20世紀BOX」内のインタビューより)
Noを突きつけるわけでもなく、迎合するわけでもなく
せっせと種の保存に勤しむマスターの姿は、なんだかとてもカッコ良い。
根を傷めないように、優しく保護されながら
植え替えられてゆく音楽が、心地良く細胞に染みてゆく。
商売っ気のないマスターが植え替え作業に専念するなら
常連客の私は、「いい音、あり〼」のポスターを自分の店に貼付け、
ポップスのルーツの伝承に間接的にでも関わることとしよう。
そこのあなた、一度試しに聴いてみませんか。
正しく美しいポップスが、ここには在ります。
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■BOOK:「MUSIC MAGAZINE 2011年 05月号」
■BOOK:「細野晴臣 分福茶釜」