大人にはビター・チョコレート。映画「ベルヴィル・ランデブー」 | 忍之閻魔帳

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■DVD:「ベルヴィル・ランデブー」

アニメ界の巨匠と呼ばれる人々の新作が次々に封切られた2004年。
一応全ての作品を劇場で観たのだが、
結局、私の心に強く残ったのは押井作品でも大友作品でも宮崎作品でもなく、
湯浅政明監督、スタジオ4℃制作の「MIND GAME」だった。
「MIND GAME」は、育ち過ぎたイメージに縛られ
身動きがとれなくなってきた巨匠達を笑い飛ばすかのような自由度に溢れた、
アニメ界の世代交代を印象づける作品だった。

そして今年(公開は昨年末だが)、今度はフランスから凄い奴がやってきた。
彼の名はシルヴァン・ショメ。
長編作品を手掛けるのはこれが初めてという「ベルヴィル・ランデブー」は、
「MIND GAME」をも超えるインパクトを私に与えた。



内向的な少年シャンピオンと、孫想いの祖母スーザ。
ある日、シャンピオンの日記から自転車への憧れを知ったスーザは、
三輪車をプレゼントしてみたところ、シャンピオンは大喜び。
その日から、ツール・ド・フランス出場への夢が大きく動き始める。
過酷なトレーニングに耐え、逞しく成長したシャンピオンはついに念願の出場を果たす。
しかし、シャンピオンを含めた3名の選手が競技中に誘拐されてしまう。
スーザは愛犬ブルーノを連れシャンピオン奪回のため立ち上がる。


チラシやポスターの雰囲気からして
もっとムード優先で見せるタイプの映画かと思っていたのだが、
ありったけのアイディアを詰め込んだ上質のカートゥーンであり、
フランス人らしいブラックジョークが満載の大人向けの映画であった。
オープニングのベルヴィル三姉妹のステージシーンでは、
手塚治虫作品を思わせる演出法が目白押しで思わずニヤけてしまう。
この映画は、アニメ好きな人というよりも、
かつてマンガが好きだった大人にこそぴったりなのかも知れない。

本編は70分と短めなのだが、よくぞここまでと思うほど様々な映像表現を詰め込み、
活劇として必要十分なイベントを盛り込んだストーリーを組み立て、
少しの皮肉や残虐さを隠し味にちらしてある。
観終えて「本当に70分だったのか」と思うほどのボリューム感があった。

そして、驚くことにこの映画、台詞というものがほとんどない。
テレビ番組のアナウンサーなど、ナレーター的立場のキャラクターには
ちゃんと台詞が用意されているが、肝心の主要登場人物達はほとんど喋らない。
けれど鑑賞中、そのことが気になることは一度もなかった。
デフォルメされまくった動きの中に、
下手な台本の何百頁分にも匹敵する感情が込められているからだ。
例えば今直輸入のDVD(字幕なし)を購入したとしても、
おそらく何の問題もなく楽しめるはずである。
この辺は、チャップリンなどのサイレンスムービーが好きだったという
シルヴァン・ショメ監督独特の演出方法と言えるかも知れない。

私は今敏監督の「東京ゴッドファーザーズ」という作品が
ここ数年のアニメ映画の中では最も好きなのだが、
「ベルヴィル・ランデブー」は、
そんな私の2004年度公開のアニメ映画のNo.1作品になった。
洒落た音楽も素晴らしく、大人のデートコースに組み込んでも何の問題もない。
ビターチョコレートのような味わいを是非。
少しだけアルコールを入れてレイトショーで観ると効果倍増だ。

アメリカ版の公式サイトでは、日本版とは異なる絵柄(しかもこちらの方が良い物が多い)
の壁紙が多数用意されているためURLを載せておいた。

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  タイトル:ベルヴィル・ランデブー
    配給:クロックワークス
   公開日:2004年12月18日
    監督:シルヴァン・ショメ
 公式サイト:http://www.bellevillerendezvous.com/(米国版公式)
      :http://www.klockworx.com/belleville/(日本版公式)
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