飯田和敏に15の質問。Wiiウェア「ディシプリン*帝国の誕生」 | 忍之閻魔帳

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ディシプリン*帝国の誕生

【紹介記事】ゲーム史に名を刻む問題作となるか?Wiiウェア「ディシプリン 調律帝国の誕生」

さて、いよいよ明日はWiiウェア「ディシプリン*帝国の誕生」の配信開始日である。
GC「巨人のドシン」を手掛けて以来、コンシューマーから遠ざかっていた
飯田和敏氏が久々に発表する新作ということ、
これまでの和製ゲームではなかなか取り上げられなかった題材であることなどから
既に鼻が利くユーザーからは注目を集めている本作だが
実は先日、縁あって飯田氏にお話をうかがう機会を得た。
実況動画やガジェット通信でのパフューム談義など
本作に関しては変化球なプロモーションが満載のため
当BLOGからは敢えて直球というか、クソがつくほど真面目な質問をぶつけてみた。
本日は(飯田氏の許可を得た上で)そのやり取りを公開する。
飯田氏が「ディシプリン」で何を伝えたかったのか、その片鱗だけでもお届け出来ればと思う。

Q:飯田様の手掛けられたコンシューマー作品は、
ゲームキューブ用の「巨人のドシン」(注1)以来ということになりますでしょうか。
「巨人のドシン」の発売は2002年3月です。この7年間は何をされていたのでしょうか。

A:「ドシン」の後、数年間は燃え尽きていました。
また私生活のトラブルが勃発し、人生のエアポケットにすっぽりはまってしまいました。
これについて、いまはまだ言及することは難しいのですが、一連の体験を通じて、
それまで知り得なかった世界を垣間見ることが出来ました。
ゲーム作家として、こうした出来事を貴重な糧として作品に昇華するべきだと思いました。
そのためには時間が必要でした。ちょっと長すぎたかもしれません。

ただ、何もやっていなかったわけではなく、大学の講師や小説の執筆(*注2)、
ふいんき語りの活動などで、それなりに忙しくしていました。
離れていた分、今回のゲーム作りはすごく楽しい日々でした。
終わってしまったのが残念でなりません。

Q:麻野一哉氏米光一成氏とのお三方で書籍を発売(注3)されたり、
イベントを開催されたりしていらっしゃいますが、トリオ結成のきっかけは何だったのでしょうか。

A:「鳩よ!」という雑誌がかつてありました。
この雑誌のゲーム特集で取り上げられたのがこの3人です。
その後、「カエルブンゲイ」というフリーペーパーでそれぞれが執筆するようになり、
だんだん距離が近づいていきました。
気がついたらいつの間にかなかよしになっていて、今ではかけがえのないチームです。
たまにカラオケに行き、喉を潰しあったりします。

Q:「ディシプリン」のような題材をゲームにしようと思われたきっかけは何だったのでしょうか。

A:7年間のブランクと関係あります。
僕はその期間、「ディシプリン」的な環境と極めて近い世界にいました。
その体験の中で人間に対する興味、社会に対する関心を改めて持ちました。
人間ドラマが凝縮されているのがあの場所だと思います。

Q:題材やソフト内容について、マーベラスや任天堂から規制が入ったり、
修正を依頼されたりということはありませんでしたか。

A:外部からの意見がなかった訳ではありませんが、
自分自身の内なる声との葛藤が最大の問題でした。
「ディシプリン」では、そうした戸惑いもすべてゲームの中で表現することにしました。
こうした試みがアリなのかナシなのか、最終的なジャッジをするのはユーザーのみなさんです。
ぜひ、多くの方の意見が聞きたいと思っています。

Q:当BLOGが「ディシプリン」の紹介記事内で取り上げた映画の中で
飯田様がご覧になった作品や影響を受けた作品はありましたでしょうか。

A:ほとんど観ています。観てるというか、もはや血肉化しているものばかりです。
今の願いは、クローネンバーグにYouコンを触れてもらうことです。
みなさんがクローネンバーグ氏とどこかですれ違うことがありましたらぜひプッシュしてくだいね!

Q:「アクアノートの休日」「太陽のしっぽ」「巨人のドシン」までの3作は
全て太陽を感じると言いますか、「陽」で「動」なイメージを持った作品ですが
今度の「ディシプリン」からは(あくまでもプレイ前の印象として)
「陰」で「静」なイメージを感じています。
何か心境の変化をもたらすきっかけのような出来事があったのでしょうか。

A:「ディシプリン」の企画の発端は花輪和一のマンガ(注4)だったりと、
僕個人の趣味や嗜好はアングラ街道一直線です(花輪さんの「刑務所の中」はベストセラーですが)。
そうした趣味嗜好をストレートに表現したのは、自分自身がゲーム制作に対して、
より本気で向き合うようになったからかもしれません。
ただ、その一方で「男はつらいよ」シリーズが大好きだったりもします。
なので、「陽」的な部分も「ディシプリン」にはあります。
特にゲーム終盤からエンディングにかけての展開にそれは現れているかもしれません。

Q:最近は「ディシプリン」のようなタイトルを面白がってプッシュするメーカーも
それに乗ってやるかというユーザーも減ってきたような気がします。
この辺は飯田様が講演された「夜のゲーム大学」(注5)内の
「未来のゲームを開拓しよう:インディゲーム宣言!」や
「遊び格差社会の到来」にも通じるものがあると思うのですが、
現在の日本のゲーム市場について、何か感じていることがあればお聞かせ下さい。

A:まず、現在のテレビゲームのラインナップで「お!」と思うものの大半は
洋ゲーであるという事実があります。洋ゲーならなんでもいいという訳ではないのですが、
現実に向き合い本気で作品に取り組んでいるものが多いと思います。
これについては焦燥感を覚えています。かつて日本のゲームが世界のテレビゲームシーンを
牽引してきた時代があったことを考えるとなおさらです。
「ディシプリン」の開発規模は大きくはありませんが、
その分、スタッフひとりひとりの本気が入ってます。
これが空回りにならなければいいのですが・・・・・・。

Q:当初はDSでの発売を予定していたと海外の記事で拝見しました。
しかし昨秋のTGSでは既に「Wiiウェア向け」と発表されていますので
DSからのプラットホーム変更はかなり早い時期に決定したのではないかと思うのですが、
DSの代わりに選ばれたのがWii(パッケージ)ではなく
Wiiウェア(ダウンロード)だったというのは何故なのでしょうか。

A:DSはとにかく商品数が増えているため、その中では埋没してしまうという懸念がありました。
また、ダウンロード配信という新しい販売方法は
「誰にも見られてはいけない」ゲームに相応しいと思いました。
Wiiにしたのは、機材が既にあったからです。

Q:作り手の立場からして、パッケージソフトと配信ソフトでは何か意識的に違いはありますか。

A:パッケージソフトであってもオンライン対応するのがトレンドになっている現状を考えると、
制作工程においては、その違いはまったっくありません。
ただ、配信ソフトでは流通コストを抑えることが出来ます。
ここをユーザーに還元することで、より実験的な作品が成立しやすいと思っています。
するといいなぁ。

Q:「ディシプリン」をXbox LiveやPSストアなどで配信される予定はありますか。
また、iPhone/iPod touch用アプリやDSiウェアに興味はお持ちでしょうか。
「携帯ゲーム化会議」(注6)の作品はiPhone用アプリでもウケると思うのですが。

A:「ディシプリン」の他機種への移植について。
個人的にはその意欲はありますが、今の時点では具体的な予定はありません。
Wiiでの反響次第というところでしょうか。また、海外版もぜひ進めたいのですが、
「ディシプリン」は膨大な日本語のテキストで成り立っているという作品の性質上、
単純な翻訳では済まない感じです。いずれにしてもWiiでの反響次第というところがあります。
iPhone用アプリも開発する気は満々なのですが、Macを買わなくてはいけない、というところが
ボトルネックになっています。ご家庭で不要になったMacなどがございましたら、
大至急、譲っていただけないでしょうか!? 出来れば最新型の・・・…。

Q:「ディシプリン」の公式サイトにもある「海亀文庫」は
今後の作品にも使用されるブランド名のようなものと考えて良いのでしょうか。

A:継続したいと思っています。ただそれもユーザーの支持があってのこと。重ね重ねよろしくです!

Q:少々気が早い話ではありますが、次回作の構想などはありますか。

A:いまのところまったくありません!
そんなことでは生活が立ち行かないので、家人にはせっつかれておりますが、
「ディシプリン」でいまのすべてを出し尽くしてしまいました。また空っぽです。

Q:24日現在、公式サイトの動画(ドキュメンタリー映画)が休止されていますが
何か突発的なトラブルか何かが発生したのでしょうか。

A:アクセスが殺到したたためサーバが落ちたってことに……。
本当はこの世の中にあってはいけない映像が混入してしまったためです。
近日中に再開されるのでしばしお待ちください。
びっくりするような人達が「ディシプリン」を遊んでくれています。

Q:題材が題材だけに、場合よっては飯田様が
「ゲーム業界の伊丹十三監督」(注7)になってしまう危険もあるのではと心配しています。
しばらくは催涙スプレーや痴漢撃退グッズなどを携帯するようお願いいたします。

A:僕は「ゲーム業界の大島渚」なので大丈夫です。
PSPを常に持ち歩いているので、いざとなったら、一緒にモンハンして友達になろうと思ってます。

Q:長々とありがとうございました。
最後に当BLOGの読者に向けて何かメッセージがあればお願いいたします。

A:「ディシプリン」は人を選ぶゲームだと言われています。そうかもしれません。
しかし、ゲームソフトは人が主体になって選ぶモノでもあります。
ゲームに限らずわれわれはそうした選択を繰り返してきました。
僕がいま関心があるのは「ディシプリン」というゲームが突きつけている問題を
世界はどのように受け止めるのか? という一点です。
間もなく配信開始となります。
ニコニコ動画削除事件(注8)など思わぬところで騒ぎを起こしてしまいましたが、
それはそれとして、実際のところ作品としてどうなのか?
そうした議論をはじめていきましょう。


Wiiウェア「ディシプリン*帝国の誕生」は明日25日より配信開始。




■GC:「巨人のドシン」
■BOOK:「小説げんしけん 拝入蘭人の野望 / 飯田和敏」
■COMIC:「刑務所の中 / 花輪和一」

注1:ゲームキューブ用ソフト「巨人のドシン」
注2:「小説げんしけん 拝入蘭人の野望」
注3: 当BLOGでも取り上げたことのある「日本文学ふいんき語り」など。
以前、お三方のことをゲーム業界の「とん吉、ちん平、かん太」と愛情を込めて
書いたつもりが、米光氏に誤解されてしまったという苦い過去も。その節は失礼いたしました。
注4:花輪和一「刑務所の中」。
拳銃不法所持で3年間に渡る獄中生活を送ることになった著者のスーパーリアル獄中日記。
悲惨なものを悲惨に見せないように演出された吾妻ひでおの「失踪日記」とはベクトルが異なり、
悲惨なものをそのまま描いたら、かえっておかしみが生まれたという作品。
注5:お三方が開いている大人向けのイベント。現在までに2回開催。
第1回の様子はこちら、第2回の様子はこちら。
注6:お三方が発表している携帯アプリシリーズが「携帯ゲーム化会議」。
2009年8月現在までに8作品をリリース済み。
アクセス方法は以下の通り。

■iモード:iMenu→メニューリスト→ゲーム→ミニゲーム
     →¥99ゲーム・マチウケ三文堂→携帯ゲーム化会議
■EZweb:au one→メニューリスト→ゲーム→FLASHゲーム
     →フラッとおいでよ三文堂→携帯ゲーム化会議
■Yahoo!ケータイ:Yahoo!ケータイ→メニューリスト→ケータイゲーム
     →ゲームパック→フラッとオイデヨ三文堂→携帯ゲーム化会議



注7:1992年、故・伊丹十三監督が、暴力団の民事介入暴力を描いた
「ミンボーの女」を撮影中に暴力団員に襲撃されるという事件があった。

注8:現在は復活中。

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  タイトル:ディシプリン 調律帝国の誕生
  メーカー:マーベラスインタラクティブ
   ハード:Wii Ware/Wiiウェア
   発売日:2009年8月25日
    価格:800Wiiポイント
 公式サイト:http://www.mmv.co.jp/special/game/wiiware/discipline/
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