原作ファンは時間の無駄。映画「MW ムウ」玉木宏 山田孝之 手塚治虫 | 忍之閻魔帳

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手塚治虫の生誕80周年を記念して、ハリウッド版「ATOM」が公開されたり
9月17日に「鉄腕アトム オリジナル版 復刻大全集」が発売されたりと、
手塚作品に注目が集まる中、邦画界ではあの「MW」が映画化されることとなった。
ファミリー向け作品ならともかく、「MW」に手を出すからには
それ相応の覚悟があってのことかと思っていたのだが・・・。



エリート外貨銀行員の結城美智雄と、温厚な神父の賀来裕太郎。
住む世界も年齢も違う二人には、ある共通点があった。
それは16年前、沖之真船島で発生した「MW」と呼ばれる化学兵器の流出事件。
島民全員の命を一瞬で奪い取ってしまった凄惨な事件で
奇跡的に命を取り留めた二人は、強い絆で結ばれていた。
事件当時の忌まわしい記憶から逃れるために神の道へと進んだ賀来と
「MW流出事件」の関係者を執拗に追う結城の考えは徐々にズレ始めていたが、
結城を止めることも出来ない賀来は密かに胸を痛める。
「MW」を吸った後遺症に今も悩まされ続ける結城は、
自分の余命が幾許もないことを知り、ある計画を企てるのだが・・・。

主演は「のだめカンタービレ」「真夏のオリオン」の玉木宏
「クローズZERO」「鴨川ホルモー」の山田孝之。
共演には「ROOKIES 卒業」「ハンサムスーツ」の山本裕典、
「魔女裁判」の石田ゆり子、「呪怨パンデミック」の石橋凌。
監督は「斉藤さん」「女王の教室」「野ブタ。をプロデュース 」など
日本テレビ系で数多くのドラマを手掛けてきた岩本仁志。
つい先日放送された佐藤健主演「MW ムウ 第0章 悪魔のゲーム」の演出も
岩本監督が手掛けている。


これは本当に「MW」なのか。

何故そう思うかと言うと、結城美智雄と賀来裕太郎が肉体関係で結ばれていることや、
結城が梨園の生まれで、女装もお手の物という設定が豪快に省かれているからである。
(冒頭のスクリーンショットだけが、唯一そのことを匂わせている)
私は決して腐女子的な目線で「玉木と山田のベッドシーンを出せ」
「玉木の女装姿を出せ」と言っているわけではない。
「MW」から同性愛、性の境目などのテーマを省いてしまうと、それはもう「MW」ではない。
「MW」のタイトルに込められた意味の解釈として「Mad Weapon」の他に
「Man & Woman」という意見もあるのだが、少なくともこの映画には
「Man & Woman」の要素は一切入っていない。
ひとりの悪党が友人が止めるのも聞かずに犯罪行為を繰り返す、ただのサスペンスである。

梨園に生まれているからこそ、結城は男性と女性の境目を自由自在に行き来することが出来、
時に女性となって男性を、時に男性となって女性を翻弄し、次々に人を殺めていくのであり、
賀来が結城を強く止められないのは、結城との間に友人以上の関係があるからであり、
同性愛が御法度のカトリック神父であるからこそ、賀来の悩みは深いのだ。
映画の製作者は結城と賀来の関係を「ひとつの要素」として外したのかも知れないが、
そこを外すなら「MW」を題材に選ぶ必要はなかったし、
出演者が難色を示したのなら、いっそ配役を替えるべきだったと思う。
凡百のサスペンス映画が撮りたかったのなら、題材など他にいくらでもあったろうに。

結城の設定が「頭もキレて、カッコ良いワル」でまとめられているのも気になった。
例えば最初の被害者。
事件そのものは原作も映画も誘拐だが、原作では何の罪もない子供が殺されるのに対し、
映画版では結城と共に狂言誘拐を仕掛け、父親から大金をせしめようとした
バカ娘へと変更されている。
こんなバカ娘を殺したところで、結城のイメージはさほど損なわれない。
その後も、猟奇犯罪・性犯罪を極力避けながら
本当に悪い奴等(=無抵抗の人間を殺めたりしない)だけを狙って犯行に及ぶため、
いつまで経っても結城が「人の心を失った悪魔」に見えて来ない。

これは本当に「MW」なのか。

エンドロール後、原作を未読の某知人が、
「この映画、賀来要らなくない?」と言っていた。
つまり、映画版「MW」はそういう話になってしまっているのだ。

結論:原作ファンは観る価値なし。

最後にひとつだけフォローしておくと、
ストーリーは酷いものの、役者は皆頑張っていたので
原作未読で、玉木・山田のファンならそこそこお勧め。

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まずは原作を読んで欲しい。
映画だけを観て「MW」がその程度の作品だと思われないことを祈る。

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