見慣れた拙宅の茗荷田で
夕刻茗荷を取りに出かけただのだった。
合気道の稽古も終わり
19:00近い時刻。
好物の冷ややっこに茗荷を刻んで載せるために
数個の茗荷を探しに出た。
すると
重く垂れさがった茗荷の葉に
何やら取り付く茶色い物体が。
じっと動かない重さを感じさせるその物体は
背を割り白い部分を見せて動かなかった。
人の指先程の大きさの
その茶色い物体は
セミの幼体であることがすぐにわかった。
脱皮をして成体になろうとしているそのさなかだった。
思わず手に触れていないか確認して
やっと見つけた一つだけの茗荷をもって部屋に帰る。
それ以上の散策などこの神聖な事態にそぐわない。
「何一個きりとってきて」
非難されつつ、
再び茗荷田に行くことを禁止して
晩酌を始める。
今日のビールも格別うまかった。
ひと心地して
茗荷田に向かう。
30分ほどした
19:30頃だ。
ここまで脱皮が進んでいた。
ものの30分。
子どものころの記憶では
この変態は大変貴重な時間で
一晩かけて行う大事件だったと記憶していた。
私の記憶違いだった。
これほぼ無防備な状態を生身の生き物が
それほど長くさらしておくことはないのだろう。
子どものころ目を皿のようにして観察した時間が
実はものの数分であったことを
改めて確認する。
自然の尊い現象。
実に数十年ぶりに観察することに成功した。
去年はあれほど探し回ったのに目にすることはできなかった。
幼いころは毎晩のように
自宅周辺のあちこちで
目にしていたのに。
翌朝飛び立ったであろうセミの抜け殻を確認。
一瞬だったが貴重な瞬間に立ち会えたことを感謝した。
実に数十年ぶりの経験だった。
暑い夏の夜は続く…