だいぶ遅れていますが、なんとか続けていきます、闇の中のジェイです。

 第7回その三:がんばり入道

 アニメでは5期に登場。原作漫画には未登場のようだ。

 

元になった絵は鳥山石燕の『今昔画図続百鬼 晦』収録の「加牟波理入道」。大晦日の夜に厠へ行って「がんばり入道郭公(ほととぎす)」と唱えれば、妖怪を見ることはないという文章が添えられている。

『甲子夜話』第三篇には除夜の丑刻に厠へ入って「雁婆梨入道」と唱えてから厠下を見ると入道の頭が現れるとされ、その首を取って一旦、左袖に入れ、出してみるとその頭は小判に変わっているという。

『諺苑』には逆に大晦日に厠で「がんばり入道ほととぎす」という呪文を思い出すのは良くないと記述している。

また『嬉遊笑覧』には「がつはり入道ほととぎす」と小児が唱えるのは厠でほととぎすの声を聞くのを忌む事に由来しているのだろうという。

奈良県や和歌山県、愛媛県、大分県、熊本県、宮崎県では寝室や便所でほととぎすの鳴き声を聞くのは不吉という俗信が存在しており、不吉を払うための呪文も存在するが、がんばり入道という単語はすでに見受けられなくなっている。

 

基本的に呪文に出てくる単語だが、好色な者を「眼張(がんばり)入道」と呼ぶ場合もあったようである。

東京にがんばり入道という者の息子がいた。美男子であり、多くの女性から言い寄られたが、若い男しか相手にせず、娼婦とは交わらなかった。このような者は俗世間には合わないと親は彼を出家させた。「がんばり入道ほととぎす」とは眼張という恐ろしい者の名前を言う事でほととぎすを脅かしているのだと、『好色徒然草』に書いてあるという。

奈良県の泥川(洞川か)の辺りには染木某という淫楽を好み、通う女の命を果てさせるほど性欲が強い者がいた。家族の者はこの者を諫めて剃髪させ、山中の家に住ませた。俗世間の人は彼が白眼になって婦女を見張っている事を笑い「眼張入道」と謗った。それでも彼の性欲は逸脱しており、とある農夫の娘を密かに連れ帰って押し入れに鍵をかけて閉じ込めた。とある日、日の熊という盗賊が留守中の染木某宅に忍び込んだところ、泣き伏している少女を見つけた。訳を聞いた盗賊は可愛そうに思って、この娘を連れ出そうとしたところへ帰宅した染木某と鉢合わせてしまった。逃がしまいと組み付く染木某を日の熊は斬り殺し、少女を送り帰した。その頃から染木の亡霊が娘の家に現われるようになり、毎夜娘を探し回った。村中を歩き回るので人々は寺に供養を頼んだが効果はなかった。ある日、狂犬となった山犬がこの入道の亡霊を喰い殺した。夜が明けてから見てみるとそれは白い羅を羽織った古狐であったという。

 

岡山県ではがんばり入道ではなく、みこし入道が便所に出るとされる。大晦日に便所で「みこし入道ホトトギス」と三遍唱えると見越し入道が必ず出るという。また、「尻をふこうか、尻をふこうか」と言いながら、みこし入道が厠に現われたが、よく見ると大坊主の股に毛がたくさん生えた尻尾が下っており、狐が化けていたことが分かったという。

 

がんばり入道の伝承が変化したのか「便所入道」という学校の怪談がある。トイレで用を足していると現れ、便所入道に出遭った人は便秘になってしまう。この便秘を治すには「便所入道ホトドギス」と唱えれば良いそうだ。

 

参考文献

アミューズメント出版部編『アニメ版ゲゲゲの鬼太郎妖怪事典』株式会社講談社2010712

村上健司/多田克己「水木しげるの鬼太郎作品 妖怪・怪人・怪物大図鑑」『怪』vol.0022株式会社角川書店2007227

鳥山石燕『鳥山石燕 画図百鬼夜行全画集』株式会社角川書店2005725

鈴木棠三『日本俗信辞典 動・植物編』株式会社角川書店19821125

石川一郎『江戸文学俗信辞典』株式会社東京堂出版1989710

棚橋正博『十返舎一九集』株式会社国書刊行会1997915

佐藤米司『岡山文庫87 岡山の怪談』日本文教出版株式会社1979111

朝里樹『日本現代怪異事典』笠間書院2018117

 第7回その二:お歯黒べったり、わいら

 お歯黒べったり

 アニメでは5期に登場。妖怪横丁で銭湯を営み、横丁の女性妖怪たちが集まる場面にはよく登場していた。

 原作漫画では「死神大戦記」に登場。とくに活躍はしてないようだ。

 

 「歯黒べったり」の名称で桃花山人著、竹原春泉画の『絵本百物語』に紹介されている。

 ある人が古い社の前を通ると一人の女が伏し拝んでいた。その人が悪戯に声をかけると女は振り向いたが、二目と見られなかった。女の顔には眼と鼻が無い上に口ばかり大きく、男に向かってげらげらと笑いかけたという。こういった化け物の多くは狐狸が化けそこなったものであるという。

 

 わいら

 アニメでは5期の劇場版に少しだけ登場。妖怪四十七士茨城県代表であるが、特に活躍のないまま5期の放送が終わってしまった。

 鬼太郎漫画作品では水木プロの『最新版ゲゲゲの鬼太郎』に登場しているが、それ以外だと『神秘家水木しげる伝』などでモブとして登場している。

 「わいら」は『百怪図巻』や『化物づくし』などの狩野元信の化物絵を元にした絵巻の類によく描かれている化け物。描かれた当時の伝承については今のところ不明。よくおどろおどろの隣に描かれており、鳥山石燕の『画図百鬼夜行 風』にもおとろしの隣に配置されている。いずれも這いつくばる姿で、下半身は見えない。妖怪研究家である多田克己氏曰く、石燕が描いた「わいら」は「畏畾(かしこまる、その場に畏る)」「拝礼(頭を下げてお辞儀をする)」「碨磊(でこぼこした顔)」と絵解きできるという。「畏」には恐れる、つつしむ、怖い、驚くといった意があり、「わいら」の隣に描かれた「おどろおどろ」も気味が悪い、恐ろしい様を意味し、「おとろし」も恐ろしが訛った言葉であるという。

 

 茨城県の山中でわいらを見たという話と一緒に紹介されがちだが、これは山田野理夫氏の『おばけ文庫2 ぬらり ひょん』に書かれているもの。同書には、わいらの雄は土色で、雌は赤色。茨城県の野田元斎という医者がモグラを食べるわいらの姿を見たと記している。山田氏による完全な創作と思われているが、小説家京極夏彦氏が「話を膨らませるために固有名詞を創作することはあるか」と尋ねたところ、「固有名詞は創作していない。忘れてしまったが、どこかで野田元斎という名前を見たのだろう。」と答えている。

 

 

参考文献

アミューズメント出版部編『アニメ版ゲゲゲの鬼太郎妖怪事典』株式会社講談社2010712

村上健司/多田克己「水木しげるの鬼太郎作品 妖怪・怪人・怪物大図鑑」『怪』vol.0022株式会社角川書店2007227

竹原春泉『桃山人夜話~絵本百物語~』株式会社角川書店2006725

鳥山石燕『鳥山石燕 画図百鬼夜行全画集』株式会社角川書店2005725

京極夏彦・多田克己『妖怪図巻』株式会社国書刊行会2000620

多田克己著/京極夏彦絵『百鬼解読』株式会社講談社2006811

山田野理夫『おばけ文庫2 ぬらり ひょん』株式会社太平出版社1976515

インタビュアー京極夏彦「元祖妖怪小説家に聞く、山田野理夫 妖怪と怪談の神髄」『怪0011号』株式会社角川書店200181

 第7回がまだ途中ですが、先に第8回を更新します。

 第8回:鏡じじい、がしゃどくろ

8話は鏡じじいの他にがしゃどくろも出たようなので、今回はこの2体について。

 

鏡じじい

アニメでは1期、3期、4期、5期に登場。どれも子供を鏡の中にさらう妖怪として登場している。3期では初登場後、度々鬼太郎の味方として登場している。

原作初登場は196741日発行『別冊少年マガジン 春休みおたのしみ特大号』に掲載された「墓場の鬼太郎 鏡爺」。奈良県の山奥に住んでおり、美少女を見るとたちの悪いいたずらをする妖怪とされる。鏡の中におり、その鏡を割れば鏡爺も死ぬという。知り合いの妖怪に蛇骨ばばあと団三郎だぬきがいるようだ。どちらの妖怪もその後の話に登場している。

 

「鏡じじい」のデザインは漫画の扉絵を見るとどうやら鳥山石燕の『今昔画図続百鬼 明』収録「百々爺」が元になっているようだ。そのためか、「妖怪大裁判」に出てくる百々じじいは鳥山石燕の絵とは違う姿になっている。

 

「鏡じじい」は水木しげるオリジナルの妖怪のようで伝承はない。ただ、爺ではなく婆が鏡の中に子供を引っ張りこむという怪談が神奈川県にあるという。

 

 

がしゃどくろ

アニメでは3期、4期、5期に登場。今のところ、どの期でも2回以上登場している。5期での2回目の登場は大裁判回。鬼太郎の弁護側として登場した。

原作では『月刊少年マガジン』連載「ゲゲゲの鬼太郎 地獄編」に登場している。

 

長らく佐藤有文著『いちばんくわしい日本妖怪図鑑』や山内重昭著『世界のモンスター』収録、斎藤守弘「世界の妖怪ゆうれい勢ぞろい」が情報の初出とされてきたが、雑誌に掲載された怪奇妖怪記事の収集研究を行っている幕張本郷猛氏により196611月発行『別冊少女フレンド』29号に掲載された「あなたのそばにいる日本の妖怪特集」という記事が初出と判明している。この記事は上記の斎藤守弘氏が書いている。

「あなたのそばにいる日本の妖怪特集」には【あるくたびにガチガチと音をたて、目玉だけがとびでた巨大ながいこつ。それががしゃどくろだ。このばけものは、野原でのたれ死にした人のどくろがあつまったもので、人を見るとおそいかかってくる。】と紹介されている。

 

水木大先生の「がしゃどくろ」の絵は佐藤有文氏も「がしゃどくろ」として一緒に載せている「相馬の古内裏」が元になっているが、「がしゃどくろ」自体は斎藤守弘氏の創作であることが上記の幕張本郷猛氏や主にUFOについて研究している小山田浩史氏らのインタビューにより判明。元々はイギリスの幽霊譚から作ったらしく、自分の首を抱えて出現する幽霊から連想したという。その幽霊の足音が「がしゃがしゃ」と聞こえたところから「がしゃどくろ」という名前にしたのだという。そのため、「相馬の古内裏」を元に「がしゃどくろ」全てを作り上げたわけではないようだ。

 「がしゃどくろ」は餓者髑髏と当て字できると『妖怪馬鹿』にあるが、上記の事から鑑みて「ガシャ髑髏」と表記するべきか。

 

 この話を知るまで私は『平家物語』の平清盛が髑髏の怪(鳥山石燕の「目競」)に遭遇する件から創作したのかと考えていたが、どうやら誤りだったようだ。

 

 

参考文献

アミューズメント出版部編『アニメ版ゲゲゲの鬼太郎妖怪事典』株式会社講談社2010712

水木しげる『水木しげる漫画大全集030 ゲゲゲの鬼太郎2』株式会社講談社2013123

鳥山石燕『鳥山石燕 画図百鬼夜行全画集』株式会社角川書店2005725

朝里樹『日本現代怪異事典』笠間書院2018117

村上健司/多田克己「水木しげるの鬼太郎作品 妖怪・怪人・怪物大図鑑」『怪』vol.0022株式会社角川書店2007227

京極夏彦・多田克己・村上健司『妖怪馬鹿』株式会社新潮社2001210

佐藤有文『いちばんくわしい日本妖怪図鑑〈復刻版〉』株式会社復刊ドットコム2016830

斎藤守弘「世界の妖怪ゆうれい勢ぞろい」『世界のモンスター』株式会社秋田書店1968215

「幕張本郷猛の怪奇画像集」

「あなたのそばにいる日本の妖怪特集」『別冊少女フレンド』29号株式会社講談社196611

【斎藤守弘先生に聞いてきた】小山田浩史201552日のツイート