山本有三の代表的な小説「路傍の石」は戦前、戦後で4回映画化されています。

昭和13年公開。日活 吾一:片山明彦  監督:田坂具隆

昭和30年公開。松竹 吾一:坂東亀三郎 監督:原研吉

昭和35年公開。東宝 吾一:太田博之  監督:久松静児

昭和39年公開。東映 吾一:池田秀一  監督:家城巳代治

 

今月(2021年7月)、映画「路傍の石」をアメブロに、池田秀一版、太田博之版の記事を掲載しましたが、まとめとして片山明彦版、坂東亀三郎版を含め、全4作を邂逅します。

 

山本有三の原作は昭和12年(1937年)から「朝日新聞」に連載されました。

主人公の少年、愛川吾一の家庭は貧しく、中学進学の夢が叶わず、呉服問屋へ奉公に出ます。厳しい奉公が続く中、吾一は、母おれんの死を境に奉公先の呉服問屋から逃亡、父が暮らしているはずの東京へ行くことを決意し、不安、嬉しさ、怖いような気持ちの中、一人で汽車に乗ります。

東京へ着いてからも、吾一には波乱に満ちた数奇な運命が待っているのでした。

 

★「路傍の石」初回映画化作品

戦前、昭和13年公開「路傍の石」初回映画化作品。

日活(多摩川)製作で、監督・田坂具隆、脚本・荒牧芳郎。

吾一役は片山明彦が演じ、キネ旬ベストテン第2位、文部省推薦映画の第一号となりました。

《ストーリー》

伊勢屋に丁稚奉公に出された吾一(片山明彦)は、母(滝花久子)の死を機に、伊勢屋は吾一を、父(山本礼三郎)のいる東京の下宿に追い出します。

吾一は東京の下宿で父に会えず、かえって下宿屋の女主人すみ江(沢村貞子)親子に、こき使われてしまいます。

吾一は、気の合った同じ下宿人の画学生熊方(江川宇礼雄)から、お前の事だぞと

「ダルマさん ダルマさん お足をお出し 自分のお足で 歩いて御覧」

と書かれた色紙を貰います。

 

キャストは、吾一・片山明彦父庄吾・山本礼三郎

おれん・滝花久子、いなばや安吉・井染四郎、

伊勢屋主人・吉井莞象、番頭忠助・見明凡太郎、

次野先生・小杉勇、すみ江・沢村貞子、熊方・江川宇礼雄

<吾一(片山明彦)、母(滝花久子)、父(山本礼三郎)>

 

<次野先生(小杉勇)、吾一(片山明彦)>

 

<下宿屋の女主人すみ江(沢村貞子)>

 

田坂具隆監督は、「女中ッ子」(昭和30年)、「はだかっ子」(昭和36年)など、子供の世界を好んで描く監督で、「路傍の石」は当時の日活二枚目スター島耕二の息子、片山明彦が吾一役を好演しました。

 

片山明彦は、昭和12年公開の「真実一路」(山本有三・原作、田坂具隆・監督)で子役デビューしています。

昭和15年には、父・島耕二監督の「風の又三郎」でも主役を務めています。

戦後は1970年代まで、俳優として活動していました。

  

<吾一役の片山明彦

 

<新選組血風録(第8話 長州の間者・昭和40年)ゲスト出演の片山明彦と八木昌子>

 

吾一の母おれん役の滝花久子は、田坂具隆監督夫人で、演技派女優として数多くの映画に出演しています。

昭和35年の「路傍の石」太田博之・版では、いなば屋の主人・安吉の母役を演じました。

晩年は「白い巨塔」(監督:山本薩夫)、「祇園祭」(監督:山内鉄也)、忍ぶ川(監督:熊井啓)などに出演しています。 -

   

<吾一の母おれん役・滝花久子>

 

昭和13年公開「路傍の石」、昔、TV放送で観ましたが、録画したビデオテープを紛失、内容の記憶も曖昧です。

戦前の古い作品ですが、国立映画アーカイブに35m版が所蔵されています。

ビデオは絶版になっているようですので、NHK・BSプレミアムにリクエストしましょう。

 

田坂具隆監督作品ポスター集>

東北の寒村から来た住み込みの女中と、家中から嫌われていたヒネクレっ子との心の交流を描いた名作「女中っ子」(昭和30年)。

 

 

「ちいさこべ」(昭和37年)、「冷飯とおさんとちゃん}(昭和40年)は、中村錦之助と組んで、田坂監督が山本周五郎(原作)の世界を描いた秀作。

 

子供の世界を描いては田坂監督の独壇場。

「はだかっ子」(昭和36年)。

 

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★「路傍の石」第2回映画化作品

昭和30年公開「路傍の石」第2回映画化作品は松竹製作で、

監督・原研吉、脚本・池田忠雄、吾一役は坂東亀三郎が演じました。

《ストーリー》

伊勢屋に丁稚奉公に出された吾一(坂東亀三郎)は、母(山田五十鈴)の死に会い、次野先生(菅佐原英一)や父(伊藤雄之助)のいる東京に向かいます。

父のいた下宿で、女主人すみ江(沢村貞子)にこき使われながら、下宿人の画学生黒田(大木実)に励まされ、ようやく文撰工見習となった吾一は、原稿の中に次野先生の名を発見します。

<吾一少年(坂東亀三郎)と母おれん(山田五十鈴)>

 

キャストは、吾一・坂東亀三郎、父庄吾・伊藤雄之助

母おれん・山田五十鈴、次野先生・菅佐原英一

安吉・須賀不二夫、伊勢屋主人・北龍二、

番頭忠助・多々良純、すみ江・沢村貞子、黒田・大木実

 

吾一役の坂東亀三郎は、七代目市村羽左衛門の長男で、2017年に初代 坂東楽善を襲名した歌舞伎役者です。

 

原研吉監督は松竹大船に入社、小津安二郎に師事し、「人妻椿」(昭和31年)、「痛快なる花婿」(昭和35年)など、松竹映画で多くの監督作品を残しています。

 

昭和30年公開「路傍の石」、昔、TV放送で観た記憶があるのですが、曖昧です。

父親、庄吾役の伊藤雄之助の、味のある演技が記憶に残っています。

 

ビデオは絶版になっているようですので、NHK・BSプレミアムにリクエストしましょう。

 

<原研吉監督作品ポスター集>

血生臭い事件のなか、明るく歌う少女・美空ひばり。

「左近捕物帳 鮮血の手形」(昭和25年)。

 

武者小路実篤・原作、松山善三・脚色。松竹グランドスコープの

ロゴが懐かしい「幸福な家族」(昭和34年)。

 

<下町喜劇「痛快なる花婿」(昭和35年)>

 

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★「路傍の石」第3回映画化作品

詳細をアメブロ(2021年7月14日)に投稿しています。

ストーリーは下記を参照下さい。

https://ameblo.jp/sinekon/entry-12686396711.html

 

昭和35年公開で東京映画作品、東宝配給です。

監督は久松静児、脚本は新藤兼人。

吾一役は太田博之が演じました。

 

新藤兼人の脚本は、ほゞ原作のエピソードを盛り込んで秀逸、

吾一が東京行きの汽車に乗るまでの原作の中盤を描いています。

<愛川吾一少年(太田博之)と母おれん(原節子)>

 

キャストは、 愛川吾一:太田博之、母おれん:原節子、

父庄吾:森繁久彌、 いなば屋の安吉:滝田裕介、

安吉の母:滝花久子、次野先生:三橋達也、

伊勢屋喜平:織田政雄、番頭忠助:山茶花究

 

監督の久松静児は、森繁久彌主演の「警察日記」(昭和30年)が大ヒット作となり、東宝の喜劇映画「駅前シリーズ」を監督するなど、安定した力量が評価されています。

 

ビデオは絶版になっているようですので、NHK・BSプレミアムにリクエストしましょう。

 

<久松静児監督作品ポスター集>

警察官とその町に暮らす人々のエピソードを描く「警察日記」(昭和30年)。キネマ旬報ベスト・テン第6位。

 

「続・警察日記」(昭和30年)。

東宝「駅前」シリーズの第2作「喜劇 駅前団地」(昭和36年)。

本作からタイトルに「喜劇」が入った。

 

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★「路傍の石」第4回映画化作品

詳細をアメブロ(2021年7月9日)に投稿しています。

ストーリーは下記を参照下さい。

https://ameblo.jp/sinekon/entry-12685419933.html

 

昭和39年公開の東映作品。

監督・脚本は家城巳代治

 

社会派監督の名匠“家城巳代治”は、「雲ながるる果てに」(昭和28年)、「裸の太陽」(昭和33年)などの名作映画を残した監督で、本作では、吾一が東京行きの汽車に乗る原作の中盤までを描いています。

 

<吾一少年(池田秀一)と母おれん(淡島千景)>

 

既に原作を読まれた方はお判りでしょうが、映画の脚本(家城巳代治)は原作と多少異なり、初恋の相手、伊勢屋の娘おきぬは吾一に優しく、母も病死せず、鉄橋にしがみつく有名な場面も割愛されています。

 

家城作品らしい、母と子の愛情と親友の絆を丁寧に描いて、抒情性とヒューマニズムが、遺憾なく発揮された涙を誘う名編に仕上がっています。

吾一役は池田秀一が演じました。

 

キャストは

吾一:池田秀一、母おれん:淡島千景、父庄吾:佐藤慶、

京造:住田知仁(現・風間杜夫)、作次:吉田守、

秋太郎:江沢一、きぬ:萩原宣子(現・水原麻記)、

次野先生:中村賀津雄、伊勢屋喜平:杉義一、

忠助:織田政雄、 おとき:清川虹子

 

現在は「機動戦士ガンダム」など、声優界の重鎮として活躍の池田秀一。

吾一役は、初回の片山明彦の名演(田坂具隆監督作品)が語り継がれていますが、当時、天才子役と言われた池田秀一も秀逸でした。

<池田秀一>

 

吾一の初恋の人、きぬ役の萩原宣子(現・水原麻記)は、中村梅之助主演のTVシリーズ「遠山の金さん捕物帳」(昭和45年)のレギュラーで、元スリのお光を演じていた女優さん。

 

<きぬ役の萩原宣子(現・水原麻記)>

 

<家城巳代治監督作品ポスター集>

特攻基地・学徒航空兵の青年たちの悲運を描く名作

「雲ながるる果てに」(昭和28年)。

 

国鉄職員の生活を生き生きと描いた「裸の太陽」(昭和33年)。

 

紡績工場で働く若者たちの青春ドラマ「素晴らしき娘たち」(昭和34年)。東映スコープ・総天然色のロゴが懐かしい。

 

愛と性のめざめを明るく描いた家城監督の遺作。

当時15歳の原田美枝子デビュー作「恋は緑の風の中」(昭和49年)。

 

<「恋は緑の風の中」の原田美枝子>

 

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★未完の原作

山本有三は昭和15年「路傍の石」掲載誌に「ペンを折る」を掲載し、「日一日と統制の強化されつつある今日の時代では、それをそのまま書こうとすると、これからの部分においては、不幸な事態をひき起こしやすいのです。」と発表し、当時の時代背景の影響(検閲など)から「路傍の石」の断筆を決意、小説「路傍の石」は未完に終わっています。

「ペンを折る」は、印西市(千葉県)図書館で借りた「路傍の石」に掲載されていました。

文中、敬称略としました。ご容赦ください。