第一部第一話「始まり」2
第七学園「ラーフ」の二回生、火尾納ホナミは友人の水面ツキミ共に第七学園第1アリーナに来ていた。今日は噂の男の魔力持ちがラーフの学園一位古城ハナミと学園への入学をかけた勝負の日だ。
それに合わせて第七学園を含む全学園が休みとなり、他の学園の生徒もこの第1アリーナに押し寄せていた。外にはアリーナに入れなかった人が溢れており、この試合の注目度がよく分かる。
二人も席には座れず立見席でこの試合を観戦する事となった。
「いやしっかし、こう見ると私たちの学園だけが浮くねぇ。アリーナに入ってから視線をびんびん感じるよ。」
と周囲を見渡してツキミが言う。
「仕方ないでしょう。私たちの制服はあれなんだから」
はぁ、ため息をつきながらホナミは答える。
第七学園「ラーフ」の制服は他の学園と比べてかなりの異色を放っている。
第七学園「ラーフ」の学園長が掲げる理念は「羞恥心は人を殺す」
実際に戦場で戦っていた彼女はその目で実際にそのような場面に出くわしたことが多々あったらしい
それで学園長の如月ココハは権限を使い制服と学則を規定した。
第七学園「ラーフ」の制服の丈は短く胸の下部分が少しだけ見えている。スカートの裾も短く少し屈めばその中身が見えてしまいそうになる。更に極めつけは下着類の着用を一切認めないというこの学則、これを決めた学園長の頭は大丈夫かと密かにささやかれている。
そのせいで入学したての一回生は公の行事、参加が義務付けられていない行事には滅多に出てこない。二回生、三回生も同様に二回生で半数、三回生でも全員が出席する事はない。
この場に出てきたホナミとツキミは二回生の中では物好きな方に分類されるだろう。
二人は別にみられても別にかまわないと思っている。どうせ減るものでもないから、と。
アリーナ中から感じる全身を舐め回すような視線、彼女たちにとってはもう慣れた視線だ。
さらっと受け流しながらホナミはリングに目を向ける。ツキミは手に持っている携帯端末に目を向けている。
リングには既に第七学園学園一位シャルロッテ・ファーランドが既に佇んでいる。
黒を基調とした第七学園の制服に彼女の鮮やかな金髪、そのコントラストは彼女の美しさを引き立てる。彼女は誰から見ても美しいと言われる絶世の美女。彼女の容姿、体付きその全てが絶妙なまでに混じり合い彼女の美しさを引き立てている。
彼女の手にはレイピアが握られている。そしてそのレイピアはパチパチと音を立て帯電している
その目つきは鋭くリングに繋がる反対の入口の方をずっと見ている。
「お、ミレイユ様が来たぜ」
リング上にこの試合の審判を務めるミレイユさんが姿を現していた。
その手にはマイクを持っている。
「さぁお待たせしました!これより試験を始めさせてもらいたいと思います!」
ミレイユさんのその言葉にアリーナから一斉に歓声が上がる。
「まずは主役の前に対戦相手のご紹介をさせていただきます!彼女は第七学園学園一位シャルロッテ・ファーランド!7つの学園の中でも屈指の実力者!彼女相手に今日の主役はどう立ち回るのか見ものですよ!」
ミレイユさんの言葉に続いてシャルロッテがお辞儀をする。
その仕草だけでも会場から歓声が沸いた。
「さぁ、続いては今日の主役、黒城カナタさんの入場です!!」
その言葉に続いて反対のゲートから黒城カナタが入ってくる。
『おい・・・なんだあいつの恰好は』
『やだ、なにあれ』
反対のゲートから現れた黒城カナタは端的に言えば全員黒ずくめだった。
真っ黒のコートで口元まで隠し、黒の帽子を目深く被っているせいで顔が見えない。
コートの下に見えるズボンと靴も黒一色だ。
その手には彼の魔光騎手だと思われる刀が握られている。
そんな異様な恰好にアリーナがどよめき立つ。
そんな中シャルロッテは彼を警戒していた。
自分の約50メートル前に立っている彼だが、その立ち姿に一部の隙も無い。
対峙したからこそ分かる。彼は戦いなれている。
油断してはならない相手だと認識し身構える。
それに対してカナタは構える事もなく、素人目から見たらただ持っているだけのように見える。
「勝負の決着方法は私が「止め!」というまでか、どちらかが降参の意を示したらその時点で試合を終了とします。両者よろしいですね?」
ミレイユの言葉に両者は頷いて皇帝の意を示した。
「では試合を始めます。レディー…GO AHEAD!」
試合開始のその言葉と同時にアリーナの空気が一変した。
冷たく自分を押しつぶすような重たい空気、そして死を宣告してくる重圧
アリーナで見ていた観客のほとんどが宣告される死を恐れ、怖がり自分の身体を本能的に抱いていた。それはこの試合を見に来ていたホナミとツキミも例外ではなかった。
(な、何なの…これ…⁉)
この死を宣告してくる重圧を出しているのは間違いなくカナタだ。
まだ学生の身で戦場に出たことがないホナミは、彼がどのような経験をしたらここまでの重圧を、ここまでの死刑宣告が出来るのか彼女には分からなかった。
なぜ彼がここまで、と思うのはシャルロッテも同じだった。
彼女もホナミと同じように今まで戦場に出たことはない。
どのような経験をしたらここまでのことが出来るのか…ここまで恐ろしくなるのか
押しつぶしてくる重圧に対して彼女は学園一位としてのプライドで何とか対抗していた。
学園一位として情けないところを見せるわけにはいかない、そして男を学園に入れてはいけないという気持ちが彼女を奮い立たせた。
奮い立つ闘志を目に宿し、カナタの事を見据える。
カナタは自分の放った気で屈しない相手を見て少しだけ安堵した。
学園一位がこんな事ぐらいで心折れているようでは拍子抜けにも程がある、と。
だからこそ彼はこう思った。
(少しだけだが本気を出そうか)
そして彼が動いた。
対戦相手のシャルロッテには彼が突然消えたように見えた。
シャルロッテは彼の動きを見逃さぬようにしていたはずなのに、カナタの姿は忽然と消え、トスッという軽い衝撃と共に鈍い痛みが彼女を襲う。
シャルロッテは恐る恐る下を見る。
そこにあったのは自分の腹を貫いて飛び出している刀だった。
カチッという音がしたのと同時に形容しがたい痛みが彼女を襲う。
(な、に…これ…!)
どう表現していいのか分からない痛みの暴力が彼女を襲った。
斬られる、焼かれる、潰される、侵される、千切られるetc…ありとあらゆる苦痛で感じる痛みを全て同時に体内で彼女は味わった。
悲鳴を上げる事すら許されず、ただただ痛みに蹂躙される。
口と刀が突き刺さった場所からは血が溢れ出す。
カナタが刀が彼女の腹から抜くとシャルロッテはそのままリング上に倒れこんだ。
シャルロッテが倒れたのと同時にミレイユが彼女の元に駆け寄る。
シャルロッテ本人には何が起こったか分からなかっただろう、ただ離れたところで見ていたホナミは何が起こったのかが少しだけわかった。
(あんなこと…人の身体でできるの・・!?)
彼女が見た事をそのまま話すのであればこうだ。
カナタが少し横に動いたかと思うと次の瞬間、音も立てず風も立てず、一瞬で彼女の背後にまわり彼女の背から刀を差しいれたのだ。
(もしそんなことが可能ならあの人は既に学生の域を超えている!私達が適うレベルじゃない!!)
ホナミ自身も学園の中では上位に入る上位ランカーだ。
少しは彼女も自分の力には自信を持っていた、だが、彼の目の前では彼女の自信、力などちっぽけな蟻同然、蟻が象に適うわけもない。
ホナミは再び震え上がった。こんな化け物じみた人が第七学園に入学してくるのか、と
リング上ではミレイユによってシャルロッテの状態が確認されていた。
状態を確認したミレイユは立ち上がってマイクを手にした。
「勝者、黒城カナタさん!」
アリーナに歓声と悲鳴が湧きあがる。
歓声は彼を受け入れることに肯定的だった女子とほぼすべての男子、悲鳴は彼を受け入れたくないと考えた女子から上がったものだ。
「ミレイユ・スタッカートの名の元、あなたは学園に必要な人だと判断し、あなたを第七学園「ラーフ」への入学を許可します!ただし、学園に来るときはその恰好はやめてね?」
湧きおこる歓声と悲鳴
(私たちの学園はこれからどうなるのだろうか…)
心配するホナミをよそに隣で試合を見ていたツキミは楽しそうな笑みを浮かべるのであった。