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あなたにどうか、
とどいてほしい、
わたしのこころ。


甥に、あたらしいこどもちゃれんじの絵本がとどいた
表題は、「なかよく はんぶんこ」

ドーナツをはんぶんこしあう、という、お話にはなっていない、いたってシンプルな内容。

「ドーナツはんぶんこ!」甥に言いながら、姉といっしょに、赤い子と、青い子に、おもちゃのドーナツ、マジックテープをはがして はんぶんこにしてみせる
甥がまねをした。「おお! すごい!」ふたりで感動した


でも… これって…


奥がふかいよね。

「なんでも」はんぶんこできたなら…。だれものこころのなかに、そういうきもちがあったなら…

きょうだいはいつでもなかよしだ
夫婦もなかよしだ
恋人もなかよしだ
学校でも… 職場でも…

日本でも… 世界でも…

なかよし同士 戦争もない、平和な世の中になるに ちがいない

「はんぶんこ」は、しあわせをわかちあうことに相違ない


いまはただ、わたしたちのまねをしているだけの甥。
この絵本の奥ふかさに気づくほど成長するときが いつかくる

いっしょにかんたんなごはん テイクアウトして食べたこと あったね

左利きのわたし。右利きのあなた。左でものを掬うわたしに右でおはしをあやつるあなたの左手が わたしの右手をとって つないだ。「きみが左利きだから できるんだよ」と
ふふふと、こころからほおえみあった


あの日のわたし ジーンズで 「あぐらかいていい?」って訊いたんだよね
あなたはおもしろそうに 「いいよ」と言った。おぼえてる


家に帰って母にそのこと告げたらひどく怒られたんだ。「女の子がなんですか!」って
でも「それがあなたの魅力だったのね」と のちにぽつりと 母は言った

天真爛漫でどこか傍若無人で。自分で言ってなんだけど、おとななのに少女みたいで。


皮肉だね。いっしょにいなくなることで また あなたに出逢ったころのわたしに なったと 母は言った 

姉夫婦の家は、わたしの家から5分ほどのところにある
わたしは母に会いに、姉の家を 訪う

「ちょっと買いものしてくるから、そのあいだこの子のことみてて」

姉に甥のめんどうをたのまれる。「ええー。できるかなー」訊くと、「自分の遊びにむちゅうになってるから、だいじょうぶ」

姉がいなくなる。甥はたしかに自分で遊んでいる

しばらくすると…

とたとたと、おぼつかない足どりで、わたしのところにやってきた
なに? わけがわからない。なにかを期待しているようだけど、わからないから、甥のうしろにまわる
甥がわたしをおいかける。わたしはうしろにまわる。くりかえす。まわる、まわる…

目がまわった

そばにあるふとんに、ばた、とたおれると、甥の手に絵本がにぎられていることに 気がついた。本を読んでほしかったのか!

いつもは「ママしかすきじゃない」と、わたしのことなんて、みむきもしないのに。
にわかにかわいくおもえて、絵本を手にとる

こどもちゃれんじの5月号。季節がちがうけれど、まだ2歳に満たない甥には関係ない

「こいのぼり~。ほら、なんどでもはがせるシールだよー。はってみよ~」
わたしがシールをはがして甥の手につけると、甥はすきなところにシールをはる

1冊読み終わった。よし、やすもう

ところが、こんどは6月号をもってきた
「かえる、かえる、ぴょ~ん!! こぉーんなにあがったよ~!」

読み終わる。裏表紙をみせて、終わったよとおしえると、
足音、とたとた…
…5月号ではないの!


…けっきょく姉がもどってくるまで1時間ちょっと、ずっと ずっと 5月号と6月号の絵本を 交互に読みつづけた

かわいいけどしんどい。しんどいけどかわいい


わたしにも子どもがいたら、こんなきぶんになったのかな。…

母が入院してから1週間が経つ。けれど、まだ退院のめどはない
わたしはまいにち母の病室まで足をはこぶ。母にさみしい思いをさせたくないから


たのしい話たくさんするの。いっぱいいっぱい笑ってもらうの


ほかの患者さんにはもうしわけないけれど、ほかの患者さんがうらやむくらい、母には心配してくれる家族がいるんだよって
孤独な病人じゃないんだよって


まいにち母を見舞いたい

そして、笑顔で。笑顔で退院してもらいたい
真夏に太陽に向かってほほえむひまわりのような顔で、いっしょに家に …うちじゃなくてもいいよ 帰りたい

母親というのは、子どもにとってなんて命づなな存在なんだろう

この1週間、姉が主に母の看護をしていたら、甥がおかしくなった

いつものように、にこにこ楽しそうに笑っているでもなく、
かといって、わがままに泣きわめくでもなく…

ふとしたついでにわたしがようすを見に行ったら、ぼんやりと、どこかうつろな目でわたしのことを見た
それだけ。
なにも言わない。泣かない。どこか、あきらめたような…顔。

こんなの、子どもがしていい顔じゃない

姉を呼ぶ。いそがしいさなか、姉が姿を見せると、とたんに笑顔になる

ママって、子どもにとってすごい生きものなんだ

そうだよね。わたしだって、母は母。ひとりだけだ
子どものときも、いまも…
親は無条件に子どもを愛するというけれど、子どもだって、無条件に目のまえの親の愛を乞うのだ


「ママ」…


ひさしく呼んでいなかった、「ママ」ということば。
くちずさんで、すこし照れくささと、あまずっぱいきぶんに 胸が 捩れた

1週間まえからからだの不調を訴えていた母。
きょう 緊急入院した
聞いたことのないで入院した
心因性のものだと 病院で言われた

母の背中に背負われていたときから、「これがわたしの母のしるし」とおもっていた、尽くしぼくろ、というほくろが、母の首のうしろにある

そのほくろの名まえのとおり、母は家族のだれにもこころを砕いてた

たとえば…

父が腰の病気したとき、まいにちおみまいに行った。父が退院してからもまいにち、自分より重い父を車いすで、動けない父の気分転換のために、とおい とおいところまで バスや電車に乗せてまで 連れていった

そういう母だから…

むりしすぎたんだよ
自分のことをいちばんにかんがえなきゃいけないのに、まわりのことをかんがえてしまうから、からだが「だめだよ!」って信号おくってきたんだよ

とうぶん入院することになっている

からだ、しんどいだろうけど…
いまは、父のことも、わたしのことも、心配しないでいいから、ゆっくり休んでね


もう尽くさなくていいよ

尽くしぼくろが消えてなくなってしまうくらい自分のこと、かんがえて

わたしと母は、わたしが子どものころ、コミュニケーションがほとんどとれていなかった

わたしは母が語りかけないからしゃべらなかったし、母は姉がほうっておいても自分から話しかけていたから、わたしが好んで「しゃべらない」子どもだと思っていたという


いまでも憶えてる

たまにイチゴオレ買ってもらうの
うれしいから、うれしさをはんぶんこするつもりで母にイチゴオレはんぶん「あげる」言うの
でも母は子どものものなんてとれないから、「いらない」言うの。わたし「いらない」言われるの

かなしいような、さびしいような、
胸に、かたい石ころつまったような痛みおぼえながら、のこったイチゴオレ飲みほすの。…

おたがい言えばよかったね

「飲んでくれたらうれしいよ」ってわたし。
飲んでもらって「おいしいよ」って母。


そうしたら、きっとイチゴオレは 2倍にも3倍にも おいしくなったに ちがいない

想いはシャボンのように あわいね。はかないね
でもそのあわさを、はかなさを愛する時間は、永いね。その愛は、永いね
数えられない、永いね。…

わたしずっと 背負ってゆくから。これまで出逢ったひとたちとの想い出、キヲク、背負ってゆくから
すべて擁きしめていたくても砂つぶのようにさらさらとこぼれ落ちてゆくけれど、できるかぎり、持ってゆくから。わたしの知らない世界にででも、持ってゆくから


きょうは、やさしくて、だけどさびしいが。聴きたいな
うっとりとうっとりと。聴きたいな。…

わたしは仕事おぼえがよくない。仕事ができない
1度に2つのことを言われてもかたっぽ抜けてしまうし、ぼーっとしていて気も利かない

だから、しぜんと態度がひかえめになる。ひとから「おとなしい」とおもわれる


でもこころのなかはおしゃべりだよ
言いたいことも、不満も、ひとなみにあるよ


だから、というか、わたしはピアスをきもちひとつ多めにあけてある

言われたことがある。「あなた、軟骨にピアスあけてるの! ?︎」驚いた声で。

そう。わたしは軟骨にピアスをあけているのだ

好みでもあったし、「こういうことをするのも自分」という主張でもあった

うつぶせでねむるのがすきだから、耳たぶのピアスは痛くてじゃまで、たまにしかつけないけれど、
軟骨のピアスはいつもはずさず 耳でひかりを放っている

近所に、せまいバス通りがある
ごみの日の朝、買いものにでかけたら、まだ回収時間じゃないのだろう、集積場所にごみが山づみになっていた
そのなかのひとつに、紙に、きれいな字で書かれたごみ袋があった

「猫の死体です。持って行ってください」

いっきにぐあいがわるくなった。読んだことを後悔した

帰りは、その紙をみないようにとおった

きっとその紙を書いた主は、ねこがきらいなんだ。飼ったこともないんだ
でも片づけられるくらいに根性はたくましく、きもちはずぶといんだ

なんで「死体」なの? 「遺体」じゃおおげさだけど。
そうだ「遺骸」だ。ちがう的確な日本語なんてどうでもいい。

ねこだってたましいをもって生まれてきたんだ。そのねこの生き方があったはずだ
「死体」じゃない。そんなかんたなことばで、それこそ片づけてほしくない


毛の色も、ひとみの色もしらない。けれど。
わすれない。わたしはわすれないようにしよう。そのねこのことを。

そうおもった