。+°:*.氷花.*:°+。 -HiKa- -13ページ目

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あなたにどうか、
とどいてほしい、
わたしのこころ。


台風。タイフーン。サイクロン。
どれも、言語、発生地がちがうだけでおなじもの


    うれしいときには笑うもの
    かなしいときには泣くもの


台風も、感情も、とても 似ていると おもう

ただ、台風が とてもわかりやすく 感情が わかるひとにしか わからない それだけ。

…「飢えている」…

家も家族も喪い、飢えさえもがまんするしかない状況にある。うれしくてもかなしくても、感情を外に出せない環境にある
ただ、それだけの ちがい

日本人は、感情をおしころすきらいがある

でも、ころさないでよ
ころさないでよ、あなたの感情

うれしかったら、笑って、それいじょうに、感動したなら、泣いて
かなしかったら おえつをかくさずに 泣くのよ

それが、わたしたちにあたえられた さいごの 癒しだから


     うれしかったら。
     かなしかったら。


生まれた感情を、どうか、ころさないで
ころされたこころは、肉体をも 破壊する威力がある

つつじのそばで、近所のおばあさんはたおれていた
ゆたかに咲くつつじのそばで おばあさんはたおれていた

歌を、夢見ごこちな きれいな声で 歌いながら…。

みつけたわたしたち家族
救急車をよんだけれど

深夜、かの女は亡くなった


「年老いても、あのおばあさんみたいに生きたいね」姉と言っていた
はつらつと、げんきよく、こころをほどかすような

あれから1年がたった

ものをおもい出すのは、まず嗅覚。つぎに聴覚だと 言われているけれど
視覚で わたしははじめておばあさんをおもい出した

「視覚」ではじめておもい出すのがこの死だったとおもうと
もの哀しく、やるせなく
おもう。

異国の地を踏もう」姉が言った。けれど、わたしは英語がまったく話せない。
でも姉といっしょにいればだいじょうぶ。なんの準備もしていないけれど、きっとなんとかなるだろう。
そうおもい、わたしはうなずいた

なのに。
現地に着いたはいいけれど、日にちがおしていて、わたしたちは別行動をとるしかなくなった
姉に言い聞かせられたとおりにあるいたけれど、どうしたことか、わたしはまよってしまった

どうしよう…

とりあえず、陸つづきだから、あるけるだけあるこう
あるいた場所を、ひきかえす

それでも、みたことのある景色はなかった

コインはすべて姉にあずけた。電話もかけられない
携帯電話もないから、ホテルにいる日本人に電話することもできない
姉にたよっていたから、地図もない
もちろん、話せないから、ひとがいても、訊くことも むだ

わたしはまったくの、異邦人

そんなとき、ほかのひとはどうするだろう?

パニックにおちいるだろうか。絶望するだろうか。むやみに、またあるきつづけるだろうか

わたしは空をみあげた

「わたしが“ここ”にいることを、だれがしっている?」
姉はしらない。もちろん、両親もしらない。だれも、しらない

わたしは、「ひとりだけ、わたしがここにいることをしっているひかりがある」と 空のした、おもった


「神さまはしっている」
わたしがここにいることを
「神さまはここにいる」
わたしとともにあるいてる。


わたしは動揺しながらも、落ちつきも もっていた

そしてわたしはいま、日本にもどってきている

あなたは子どものころ、後悔したこと ないだろうか
たとえば…

「きょうはおやつにいちごジュースつくるからね」母がつくって
いっぱいめ、ついでもらって
「おかわり!」
2はいめ…
コップをさしだしたその手がつるん…


がしゃん!


はっきりと音がした
いちごジュースの、そのなかで…
まちがいなく 割れているだろう 音

いっぱいしか飲んでいない
もっと飲みたい
けれど
「もうだめだわ」
母に言われた

「飲む!」言うわたしに
「だめ」つくったばかりのジュースをかたづける母

たとえのどを裂いてでも飲みたい

あのとき ほんとうに
そうおもった

劇的なサウンド なめらかな 歌声


ああ。なんて うつくしい…


わたしを癒してください わたしのこころの 昏き闇を はらしてください
ひたすらに、ねがう…
きよらかさもとめ 自分のうちにもとめ この世界を わたし生きぬいてきたのです

ひとすじの ひかりを
ひたすらに。…


かの女の声に… 未来ををかんじ そして
天使を 夢みた

「いらないったらいらない!」
父は“胃が痛くなる”なんて そんなことないのに、子どものようにがんぜなく つっぱねる

でも、父がげんきになるためには必要なくすり、錠剤なのだ

10日たち、20日たち、どんどん 父のぐあいがわるくなってゆく

どうしたら飲ませることができる?
それがわたしたち家族の 課題だった

「そうだ! とかして飲ませるのよ!」姉がおもいついた
あくまで父には、わからないように。

さっそく母は、実行してみる
くすりをお湯にとかしてくつくつと…


父は朝食のあと、かならずコーヒーを飲んでいる
そこに、しろいしずくをすこしだけ。…

父はコーヒーをまいにち、飲みつづける

家のなかで、膿んだこころを吐きだすと
家いっぱい 充満してしまうって しってる?

わたし気づいたの。きのう

外で、母のぐちを聞いたとき

家で聞くのと、外で聞くのとでは、ちがう、な、って

なんだろ…
そやかな風が、母のぐちを さらさらと さらってゆく
わたしが聞く間もないあいだに

「ああ…、いまならそよ風がくるしいすべてをさらってくれるから」
「わたし、母のおなじぐちでも聞いていられる」

…わたしは聞いていないんだものね


もし、「聞いてほしい」というひとがいて それは 自分にとっては くるしいことでも

外であるきながら 聞いてあげてみて

風の妖精が… シルフが…

あなたのかわりに 聞いて よどみを 浄めてくれるわ
あなたのかわりに すべてを 風にながして くれるわ

どこでおとしてきたの
わたしのだいじなだいじな がらすの靴

…いろんな夢があったよね

絵描きになること
小説家になること
だいすきなひとに

とびきり「おいしい!」と言われる食事をつくること。…


おちた靴をさがしているのは
ほかのだれでもない

わたしだった

さいごの日のひとみは、くるくるとうごいていた
年老いて、さいきんはけだるそうに薄目にしていたのに
くるくるとおおきくみひらいて どこへともなく 視線をただよわせて わたしたち家族を 不安にさせた

なにをみているの

ふと、このをおもいだした

「みえないものを、みている」。…

わたしはぽん、ぽん、と、心臓がとくりと脈うつ拍子で あたまをなぜた
「だいじょうぶだよ…」
なにがだいじょうぶか、自分でもわからなかった
だけど、“わたしだったら”言われてみたいせりふだった

なんの保証もくれなくていい。無責任でかまわない。だれか、言って。

    だいじょうぶだよ。…

言うと、なぜかひとみがわたしに焦点をあわせた


深夜、息絶えていた
カレンダーは、2月をすぎ、3月1日になっていた
「さむい冬じゃなく、春に逝ったのね」母はしろく息をはきながら 春の花 梅の花を買ってきた

わたしは「夢みる時代をともにしてくれて、ありがとう」と なみだをにじませながら、ゆっくりと 手をあわせた     

わたし、あなたのことがすきなの
だから、しあわせになってほしい
たとえ結果、自分の手をよごしたとしても。

わたしはエゴイスト
相手のためだとおもったら、なんでも、そう、なんだって
やる

そして「おもいやり」というなまえの魔術をかけている

「しあわせをねがっているなら、いいじゃない」

やさしいひとは言う

でもね、このおもいはコインの表と裏
きっとわたし、不幸のためだって、なんだってやるだろう

わたしはさみしきエゴイスト
「あなたがしあわせじゃなきゃいや!!」とだだをこねるてんで子どもで孤独なエゴイスト


魔術師は、たねをあかせない 孤独な生きもの