雨の日の朝、鈴木さんのところに契約に行ったときの話です。
駐車場に隣接する一軒家の呼び鈴を鳴らすと、鈴木爺が私を出迎えてくれました。
傘はここにおいてくださいと言われた場所が、玄関を入ったすぐ左にあった洗面台でした。
洗面台というか、こんな感じの洗面器です。

もちろん、こんなにきれいではなく、相当年期入ってました。
(え? ここに傘を置くの?)
いきなりジャブどころか、ストレートを食らった感じです。
靴のままでいいから
私が洗面台に工夫しながら傘を置いていると、鈴木爺から声をかけられました。
振り向くと、鈴木爺がソファに座ってこちらを向いていました。
コンクリートの床に応接セット、これが鈴木流です。
あ、でも、全然おしゃれではないです。すべてが古びていて、あちこちに書類が積まれていて、オフィスというか、事務所は雑然としています。
私も鈴木爺の対面のソファに座りました。
机の上に通帳のようなものがおいてありました。

(何だろう、これ?)
書いてある文字が読めなかったので、ちょっとくすんだ色の銀行通帳なのかな、と思ってました。
そんな疑問を持ちつつも、契約のやり取りが始まりました。
鈴木爺に呼ばれて奥さんが契約書を持ってきました。
テーブルに契約書が置かれまして、読むようにと促されました。
それで、読み始めたのですが、2ページ目に入ったところで、
司法書士の先生が書いたものだから適当でいいよ
と言われまして、読むのを止められました。
年寄りは気が短いのです。
くすんだ銀行通帳のほかに、もう一つ気になっていたのが、駐車番号と氏名とハンコが押されたノートです。
鈴木爺がこうやってるんだって、ノートを指さしてまして、駐車場の16番と20番が空いているって言われました。
確かに16番と20番のところは、2月の欄にハンコが押されていませんでした。
(え? これって、ひょっとして……)
あの、お支払いはどのようにすればよいのでしょうか?
晦日にここに持って来てください
「振込って知ってますか?」という言葉を飲み込み、はい、って答えました。
(そもそも、「みそか」って聞きなれないんだが、三十日のこと?)
ただ、さすがに車庫証明の書類は書き慣れているようで、奥さんがすらすらと記入をしています。
えっと、期間は今日から2年でいいのよね
あ、そこは4月1日からでお願いします
って、まるで人の話を聞いてねえ。しっかり今日の日付書いている
ちなみに、鈴木爺は何をしているかというと、さっきから16番の人のどうでもいい話をしています。
いや、もう予想の斜め上を行く出来事ばかりで、このままやられっぱなしでたまるかと思いまして、契約に行ったのに印鑑を忘れるという離れ技をやってきてやりました。
さすがの鈴木爺も、苦笑いしてました。
何とか一矢報いることができたと思っていたのですが、最後に領収書帳を手渡されました。
(え? これって俺が持つの?)
中を確認したところ、毎月の支払に対する領収書が冊子になったものでした。
駐車料金を毎月末に手渡しすると、ここにハンコを押してくれるそうです。
こんなの初めて見ました。
ここにこれから2年通うのか……。あ、そうだ、娘にやらせよう。