古い橋。
1年間自転車通学で通っていた古い橋が、
この春撤去されていた。
僕の地元はむしろ橋をどんどん掛けているような街なので、
橋が撤去されたというのは、かなり違和感のある出来事であった。
僕の記憶が正しければ、その橋は昭和7年にできた橋だった。
古いといっても木製ではなく、鉄筋コンクリート製の橋で、
それがかえって古くささを与えていたぐらいである。
去年の夏、大雨が来る度に
あの橋が流されてしまうんじゃないかと心配したくらいだ。
だって、本当に橋の脚が鉄筋むき出しになっていたのだから…。
でも大学に行くのには一番の近道だった。
とはいっても、通学時間は3分も変わらなかったと思うけど。
それと関係するのか、僕はこの春から自転車通学をやめてしまった。
特にその3分にこだわりがあるわけではないのだが、
あの橋を渡らないのなら…、という謎の条件が心の中にとどろく。
その橋を渡らない限り、二度と通ることはないであろう路地。
秋になるといちょうや柿がたくさんなっていた木の下の道。
橋と同じく、いつ倒壊してもおかしくないんじゃないかと思えた古い民家。
お参りに来る人はいるのか、それでも前を通る時には心の中で拝んだ神社。
臭くて、虫がたくさんいて、夜は本当に足元も見えないほど真っ暗になるけど、
夏には鮮やかな緑、秋には頭を垂らした黄緑の稲が広がる田んぼの中の道。
それまでつまらないと思っていた通学路が、
なぜこんなに美しく、面白いと思えるのだろう。
今のホームはここなのに、なぜ懐かしさを感じるのだろう。
大学で授業や人間関係に疲れて一人家へ向かうその道の景色を観ながら、
実は僕の心は癒されていたのだ。
これからその道は僕の通学路ではなく、
息抜きのサイクリングコースになることであろう。