10番との出会い 第1話
1978年6月25日、日本時間深夜。
水色と白色の縦じまのユニホームを身にまとった、ボサボサに見える長髪をなびかせている選手がいた。
背番号10をつけたその男は、パスを受けると絶妙なボールタッチで、オレンジ色のユニホームを着た二人の選手を一瞬でかわし、ペナルティエリアへと侵入した。
左足で放ったシュートは飛び出してきたGKにはじかれ、そして自分の体に当りながら宙を舞った。
次の瞬間、オレンジ色のユニホームの選手二人が寄るよりも一瞬早く反応し、右足裏で押し込むようにゴールを奪った。
男の名は、マリオ・ケンペス。
アルゼンチン代表のFWで、エル・マタドール(闘牛士)の愛称を持つ、1978年ワールドカップの得点王だ。
歓喜の瞬間、かじりついて観ていたテレビ画面には、紙吹雪で真っ白くなったスタジアムの映像が映し出されていた。
「すげぇー、ケンペス!アルゼンチン最高だ!!」
1978年FIFAワールドカップ・アルゼンチン大会のファイナル。
アルゼンチン対オランダの延長戦でのゴールシーンを、深夜のテレビ放送で見ていた小学校4年生の亮は興奮していた。
これまで観てきた、ダイヤモンドサッカーというテレビ番組の試合とは違う。
世界最高だと思っていた西ドイツよりも、躍動感があり、魅力的で、それでいて強いサッカーがある。
そして、何より、自国の代表を信じ、狂喜するサポーターの姿がそこにはあった。
「やっぱ、10番だよな。ドリブルをしてシュートだよな!!ワールドカップってすげぇー!!!」
亮は、一夜にして、マリオ・ケンペスという10番を背負ったスーパースターの虜となった。
・・・第2話 に続く
