10番との出会い 第5話
ディフェンダー二人を一瞬にして置き去りにした仁の目の前には、最後の砦、GKがいるのみだ。
GKは、腰を落とした低い姿勢で、仁との距離を一気に縮める。
右か?左か?上か?それとも下か?
距離、スピード、立ち位置、重心。
時間にするとコンマ数秒の間だろう。
仁の頭の中ではあらゆる仮説を立て、瞬時に最善の方法を探りだした。
「仁君、早く!」
グランドの外から、亮が叫んだ。
GKは、体を横倒しながら突っ込み、勢いを殺すことなく、シュートコースをブロックしながら、ボールを奪いに行く。
しかし、ボールを奪ったと思った瞬間、目の前のボールと仁の姿が消えていた。
仁は右足のつま先でボールをつつく、いわゆるトゥーキックでGKの右わき腹の下を抜き、衝突を避けるために、ふわりと宙を舞ったのである。
GKが素早く後ろを振り向くと、着地した仁の向こう側で、ゴールネットが揺れていた。
「やった!やったぜ!!」
グランドの外では、稔が興奮して、「やったぜ」という言葉を繰り返し叫んでいる。
応援している選手たちも、異様なほど盛り上がっている。
グランドでは、右手を高々と上げる仁の周りに、洋光イレブンの選手が駆け寄り、得点の喜びを爆発させていた。
「まだ終わっちゃいね~ぞ!!ラスト、しめていこうぜ!!」
味方ゴール前から、まるで怒っているかのような晃輝の声がグランドに響き渡った。
喜びに沸く洋光イレブンの気持ちを引き締めるために、あえてきつい口調で仲間を鼓舞した。
残り時間はほとんどない。
プレー再開のホイッスルがなり、相手プレーヤーがドリブルを仕掛けた瞬間、試合終了を告げる主審の笛が大きく鳴り響いた。
その瞬間、グランド内の洋光イレブンの選手は、ひと固まりとなり、喜びを爆発させた。
そして、その中心にいたのは、背番号10だった。
「亮!県大会優勝だぜ!」
「ああ・・・」
大興奮の稔とは裏腹に、亮の声は沈んでいる。
「亮?嬉しくないのか?」
「いや。嬉しいよ。けど・・・」
「けど?なんだよ?」
「・・・」
試合終了の合図とともに、喜びを爆発させている洋光イレブンの選手たちの中で、亮だけが静かに一点を見つめていた。
その視線の先には、仁がいた。
第6話 に続く・・・
