第5章:「“失うこと”が教えてくれた、本当の豊かさ」

僕はたくさんのものを失いました。
記憶、言葉、人間関係、自信、夢――
それは、音もなく一瞬で崩れ落ちていくような、そんな体験でした。

まるで、ブレーキのないジェットコースターに乗って、
日常生活を送っているような感覚。

猛スピードで駆け抜ける時間の中、
思考も感情も置き去りにされて、
丁寧に生きることすら忘れそうになっていました。


■壊れていった友情、消えていった信頼

一番つらかったのは、人との信頼が一瞬で壊れたこと。

仲の良かった友達が、急によそよそしくなって話しかけてもくれなくなる。
小学生でもできるようなことができなくなった僕を見て、
人は静かに、でも確実に、離れていきました。

気持ちに余裕がなくなり、怒りっぽくなる自分に、
「こんな自分は自分じゃない」と思いながらも、どうすることもできない。
それが、高次脳機能障害による社会的行動障害でした。

でも、その痛みがあったからこそ、見えた世界もあったのです。


■「一つしかできない」僕だからこそ得た、集中の力

僕はマルチタスクができません。
だから、**“一つのことに集中する”**という生き方に切り替えました。

それは、同時にいろんなことを抱えず、
“思い”に一点集中する人生。

雑念がなく、純度の高い思考は、
まるで“願いがそのまま現実になる”かのように、
驚くほどの引き寄せを生み出しました。

たとえば、思ってもみなかった人から合理的配慮が提案されたこと。
魂で共鳴する人たちと出会い、夢が動き始めたこと。
すべては、今この瞬間に集中して生きていたからこそ、訪れたギフトでした。


■「もしあれがなかったら…」と思うことも、今は感謝へと変わった

かつては思っていました。
「もし器械体操をしていなければ」
「事故さえなければ、普通に暮らせたのに」と。

けれど、今は思います。
「普通の生活ができること」は、どれだけ恵まれていることか。

あの喪失がなければ、
きっと僕は“豊かさの本当の意味”に気づけなかった。


■豊かさとは、瞬間瞬間の充実に宿る

僕にとっての本当の豊かさは、
「目の前のことを一生懸命やる」こと。

何気ない日常でも、今に集中し、全力で取り組むことで、
一瞬一瞬が輝き始める。

以前はただ「大変」で終わっていた毎日が、
今では、心から「生きている」と感じられる瞬間に変わっていきました。


■心の中を先に豊かにする

斎藤一人さんの教えも、大きな転機でした。

「足りないものではなく、“足りているもの”に意識を向ける」
「心が先、現実があと」
「心を豊かにすれば、それにふさわしい現実がやってくる」

――そんな言葉に出会い、
僕はまず、自分の**“心の中”を整えること**を始めたんです。

そして気づいたんです。
**「本当の豊かさは、外側ではなく内側にある」**ということに。


今、僕は伝えたい。
この体験は、困っている誰かの光になれると信じています。

失ったものが多かった僕だからこそ、
人生の知恵として伝えられることがある。
それが、僕にとっての**“贈り物としての障害”**なのかもしれません。


次回:
第6章「魂はつながっている〜目の前の人は、過去の自分〜」