オーストラリア製スプレーガン? | 黄昏オヤジの暴発日記

黄昏オヤジの暴発日記

退職後の第二の人生を手探りで進むオヤジのモデルガン+独り言。黄昏に染まりながら気まぐれに発火しつつ、この世の由無し事に毒を吐く(令和4年5月20日・タイトル一部修正)

 これまで取り上げた銃はどちらかというと古いものが多かった。

 大概のものがそうであるが、新たに開発されたり発見されしばらく経つと、様々なアイデアが淘汰され、より効率的合理的な形に収斂していく。

 銃も同様で、形も含めて個性的で独創的なものは古い時代に多い。

 そんな中、今回紹介するモデルは1990年代と新しい。

 それでも先達に負けないくらい変である。

 

 今回のモデルは、1990年代に開発された「エンフィールドアームス」製の「TC-10ミニガン」というセミオートピストル。エンフィールドというと「あぁ、あのイギリスの」と思ってしまうがそうではない。こちらのエンフィールドはオーストラリアの会社である。

 9ミリ口径でマガジンの装弾数は32発!全長20センチで重さは1.1キロ。バレルやボルトといった内部パーツは金属製であるが、ボディは樹脂で出来ている。

 ボルトの形状は、ラップアラウンドボルトと呼ばれるバレルを包み込むタイプ。オープンボルトファイアリングと思われるが、ストレートブローバックではなくディレード(遅動)ブローバックとなっている。最大の特徴はそのスタイルにある。どうだ?

*念のために申し添えるが、向かって右がマズル側である。トリガー前方の突起は前部グリップらしい。人間工学に基づいたそうである。本当か?

   

 上部の光学サイト?は抜きにしてもすこぶる妙な形である。まだ庭の水撒き用のスプレーガンの方が格好良い。トリガーの形状も怪しいが、その前方のいびつな穴に中途半端な尻尾の切れ端のような造形にざらざらとした表面と合せて、まるで古代の土器の化石ように見える。

 ちなみに設計者はロン・オーウェン(RON OWEN)という人物。オーストラリアのオーウェンと聞くとあの「オーウェンSMG」を思い出すが、その関係は分からない。ただ、もしかするとオーストラリア人でオーウェンという名の人物は、変なスタイルの銃をデザインするよう運命づけられているのかもしれない。

 なお、写真が見当たらず形状は確認できなかったが、カービンモデルに変換するための延長バレルとショルダーストックが用意されていたらしい。きっとそれもおかしな格好をしていたのだろう。

*内部構造。全部の部品が揃っているのか分からないが、とにかく構造の分かる資料はこれしかない。ボルトのストロークは驚異的に短い。前後の円筒状のものがボルトで、左右1本ずつのロッドで連結されているようだ。バレル周囲にスプリングを配置し、ラップアラウンドボルトを採用することで全長を短くしている。ちょっといじっただけでフルオートに出来そうであるが、その際のサイクルは相当なものになっただろう。

 上の写真を見ると、左右貼り合わせのもなか構造のように見えるが、外部からはネジなどの固定用パーツが見当たらない。まさかはめ込み?そんな程度で9ミリパラベラムの衝撃に耐えられるのか?接着だとしたら内部のメンテナンスはどうやるのだろう?不思議で仕方がない。

 

 写真を見るとボルトはバレルを間において前後に分かれ、それが左右のロッドで連結され一体となっているようだ。ほかの写真をみると、ボルトがコックされた状態ではマズルの周囲がへこんでおり、コッキングされていないときはマズルの周囲に前部ボルトが見えるからそのように考えるのが妥当だろう。

 バレルの後部(チャンバー・ブリーチ部分)の周囲、ちょうどトリガーの真上の中央に溝のある短いパイプ状のパーツ部分、一見するとボルトの一部だがよく見ると別パーツのようだ。下側を見るとボルトと段差がある。バレルの一部かバレルを固定するパーツだろう。

 

 何よりも気になるのは、ディレードブローバックのシステムがどんなタイプなのかということ。

 ご存じのように、ディレードブローバックはシュートリコイルのようにロッキング機構をもたないが、なんらかの方法でスライドの開放を遅らせるシステムのことをいう。H&KのMP5のようなローラー遅延式や同P7やステアーGBのガスロック、MABの銃身回転によるものなどが有名。中にはトーマス45のように射手の握力に頼るものもある。

 上に突き出したコッキングハンドルを引くと前後のボルトが一体となり後退し、トリガー斜め上のシアが前方のボルトの下部をロックする。トリガーを引けば、シアが外れバレルの周囲の圧縮されたスプリングの力でボルトが前進。その際マガジンからカートを抜き出し、後部のボルトフェイスに設けられているだろうFピンにより発火。ここまでは分かる。そこから先が分からない。

*100円ライターとの大きさ比較。マズル周囲に前部のボルトが見える。本体上部のコッキングハンドルの位置からレストポジションと推測される。前後の向きが逆でもあまり違和感はなさそう。茶色に塗って少し土をかければ、発掘されたばかりの縄文式土器と勘違いしてしまいそうである。

*マガジンを装着した状態。何で32発も必要なのか?将来はフルオート化を見込んでいたのかも・・・。マイクロウージーよりもまだ小さいような感じ

*こちらはコッキングポジションにあると思われる。マズル周囲の前部ボルトが引っ込んでいる。手書きの「0107」の意味は不明。どうしてこんなざらざらとした表面処理なのかも分からない。子供のおもちゃでももっと出来はいいぞ。それに射撃中、左右に分かれてしまいそう。本当に大丈夫だったのだろうか?

 

 

*上のモデルとは少し違いがある。上部がスムーズでフロントサイトらしきものがあるし、リアサイト固定用のあり溝らしき加工も見て取れる。試作品か?なお、こうやって両手で保持して射撃するのが正しいようだ。人間工学的デザインか・・。

 どうやってボルトの開放を遅らせているのだろう?前後に分離されたボルトに秘密があるのだろうか。前のボルトに何か仕組みが隠されているのか。MABのように弾丸が通過する際のバレルの回転を利用しているのか。オヤジはお手上げ。

 

 なお、この設計者のロン・オーウェンという人物のフェイスブックがある。

 それによるとこの人物、元は英国の近衛歩兵連隊「グレナディアガーズ」所属の近衛兵だったようで、現在はオーストラリアのクイーンズランド州で「Owen Guns Trust Museum」という銃の博物館を経営している。ここでは、南北戦争やズールー、ボーア戦争などで使用された古い銃を専門に展示しており、所蔵する銃は3000挺以上を誇る。南半球では最大の銃の博物館との評判とのこと。

 この「TC-10」に関する記述もあり、それからすると、1996年、販売する段階になって新たな銃規制(同年発生のポートアーサー事件を契機として厳格化されたものを指すのか?それともメインターゲットだったアメリカのことか不明)に引っかかったものと思われる。そのため、販売会社との約束が反故となり在庫を抱えたままおそらく計画は頓挫したみたい。その時点で1,000挺ほどの在庫があったようだが、それがどうなったのかは不明。

 

 …フェイスブックでディレードブローバックの仕組みを聞いたら教えてくれるだろうか

 などとつぶやきながら、今回も中途半端にここでおしまい