ヨンは俯いていた顔を上げ、立っている場所を理解すると身体を強ばらせた。
自分は何時の間に湖の中に入っていたのか。
魚釣りをする為に来た筈が無意識にここまで入ってしまったのだろうか?
手を見ると竿も籠も持っていない。
なのに、ここまで入ったというのか?
「隊長ー!」
声が聞こえ其方を見ると慌てているテマンが叫んでいた。
「・・・参った」
自分にか、弱くなってしまった精神にか。
ヨンは身体半分ずぶ濡れになり微かに重くなった身体を動かし、バシャバシャと音をさせ湖から上がって行った――。
わあわあと泣きながらヨンに近付いて来たテマンを手で制し、大丈夫だと声を発したが何時もと違いテマンは引き下がらなかった。
「典医寺に行きましょう!チャン侍医に診て貰えば・・・」
「何を診て貰うんだ?」
怪我をしている訳でも無く身体はちゃんと動く、診て貰う箇所等全く無いと言うと違いますとまた言い返される。
「と、トラウマによる精神的疲労で・・・え、と、幻覚と幻聴と―」
「テマン」
「は、はい?」
「それは“誰が”言ったんだ?」
「・・・あ」
チャン侍医から聞いた事も無い言葉を聞き尋ねたが、ヨンの想像は当たっていたらしい。
問われたテマンはよりいっそう動揺し、あちこちと顔を動かせた。
――やはり、あの方か。
はぁと長いため息を吐き出しながら濡れた服を絞り出すが、湖の生臭い匂いに諦め着ている服を脱いだ。
濡れた服を魚一匹も入っていない籠に入れ、上半身裸のままヨンは家へと歩き出した・・・が。
「・・・・・え?」
家に近付く程に身知った気を感じ始めた。
身知った・・・というより、久しぶりに感じる華やかで清々しい、この地では嗅いだ事もない香り。
この国の泥臭さを浴びたら消えてしまうのではないかと不安になり、心配にもなった。
・・・・心配だった・・・?
違う、『恐ろしかった』
常に血と泥に塗れた自分の近くに置くべきでは無いと直ぐに理解出来た。
自分よりもチャン侍医に任せた王様に内心納得してもいた。
――申し訳ない。
自分の命で償おうとしたが、それも拒否され当然かと行動を起こした自分に呆れ・・・、
そして王宮を退いた。
地位も名誉もいらないとそれに便乗し、
自分は――逃げたのだ。
自ら望んで建てた藁葺き屋根の小さな家の前に白く細いあの方が立っていると何て場違いな所にいらしたのかと、此方が恥ずかしくなる程だった。
柵代わりの古板を触っていたあの方が近付いた我々に気付き振り返った。
「・・・」
ヨンはただ黙って頭を下げる。
此方を見た天の方は一瞬戸惑ったが、コホンと小さく咳をした。
「・・・ま、まあ、お腹の傷が治っているのなら、良かったわ」
その言葉にヨンは自分が裸なのを思い出し、焦りを見せぬ様に籠から羽織りを取り出すと肩に掛けた。
濡れている為気持ち悪かったが、女人に、いや天の方に自分の肌を見せたくは無かった。
・・・何の罪悪感なのだろう?
これみよがしに腹傷を見せたくないだけだ。
そう考え、持っていた籠や竿を持ち直した。
「・・・何か、ご用でしょうか?」
後ろにいるテマンが落ち着き無く立っていて、来た内容は大方わかっている。
「チャン侍医はどこですか?侍医とご一緒では無かったのですか?」
「私、一人よ」
「は?」
ヨンが顰め顔でテマンを振り返ると小さく頷いている。
どうやら、テマンがこの方だけを連れて来た様だ。
「・・・何を―」
必ず付き添いを付けろ、と言葉を吐きそうになり直ぐに口を閉じた。だが、此方を見ていた天の方はヨンが何を言おうとしたのか予想は付いたらしい。
「私が、テマン君に頼んだのよ。別にいいわよね?貴方は関係無いんだから」
「・・・」
手を腰に当て、強気な眼差しを更に強くし此方を睨みながら言って来るこの方に言い返す資格も無い。
「・・・某にご用なのですか?」
天の方の横を通り過ぎ、土間に道具を置きながら尋ねると少し後に付いて来ていた天の方は再び小さく咳をして――。
「・・・貴方、取り憑かれてるのかもしれないわね」
「・・・・・・・は?」
少し間を置いたが、理解出来ない。
ヨンはゆっくりと身体ごと振り向き天の方を見つめた。
この方は、再び。
「だから、悪いモノに取り憑かれてるかもしれないって事」
「・・・・・・」
「・・・あらあら、やっぱりね。――自覚はしていたみたいね」
静止しこの方を凝視したのが悪かったのだろう。
此方の内を読んだ様に天の方はそう言うと、ゆっくりと微笑んだ――。
――その微笑みが更に強く恐怖を感じるのは何故なのか?
約束を守れなかった事の罪悪感。
・・・それだけの筈なのに。
ヨンは何時の間にか溜まっていた唾を無意識に嚥下していた――。
ガサガサと荒れた道を歩きながら、ウンスはチャン侍医の話を何度も思い返していた。
「はあ、はあ、だから、非科学的な事って大嫌いなのよ!・・・とはいえ、自分がこんな時代に来るなんて夢にも思っていなかったけど!」
出来るなら夢であって欲しかった。
次の日起きたら見慣れた自分のベッドに入っていて、何時ものつまらなく、忙しい毎日に戻って欲しかった。
だがそんな望みも暫く経つと、消えてしまった。
諦めた訳じゃない。
だったら、帰る手段を探したい!
・・・なのに。
「何なのあの男は!一人気楽に暮らしてるんじゃなかったの?どちらにしろ腹が立つわ!」
悠々自適に過ごしているのなら、怒りをぶつけ、罵倒しこの気持ちを吐き出せる筈だった。
なのに、苦しんでいるのは何故なのか?
――いいじゃない、昔の恋人を思い出しながら一人寂しく過ごしてれば・・・・、あー、でも、それは確かに・・寂しいけど。
そして話を聞く限り、ウンスにはどうにも言い難い違和感があった。
王宮から出発して時計を見ると数時間は経っている。
まさか自分がこんなに誰かの為に歩くとは想像していなかった。
もう少し離れた場所にいるのだと思っていたが、意外と早く着いたのはテマンが近道を使ったからだろうか?
・・・だって獣道ばかりだし。
「・・・少し騒がしくなると思うけど、大丈夫かしら?テマン君?」
前方を周囲を気にしながら歩くテマンに声を掛けると、彼は直ぐに振り返り大きく頷いた。
「た、隊長が元に戻るならいくらでも騒いで下さい!」
「治るかはわからないけど、何でそうなった位なら判明するかも」
「それでも良いです!」
テマンは再び頷き、早く早くとヨンが住む場所へと促している。
道を隠す様に茂っている枝を小太刀で素早く切り進む彼に、
『もう少し、舗装された道は無いのかな?』
と、ウンスは言えなかった――。
⑦に続く
△△△△△△
来たー、ウンスさんが😃
お久しぶりですねー☺️
最近の天気と気温の変化で体調おかしくなっていませんか?
台風🌀も近付いて来ておりますよね、皆様ゆっくり出来る時は本当に休んで下さいね(:3_ヽ)_
🌕
本日はフラワームーン
23時台が綺麗に見えるとか
見えましたかね?😘
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