底から⑦ | ー常永久ーシンイ二次創作

ー常永久ーシンイ二次創作

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底から⑦




曇天は嫌いだ。


 長く親しんだ場所を失った日も自分の人生を共に歩む筈だった仲間が亡くなった日も、こんな今にも雨が降りそうな曇り空だった。

 空気も重苦しく、何一つ良かった思い出も無い天候の日はヨンは任務をするのでさえ億劫だった。 

次の任務の為にまだ慣れない隊を引き連れ目的地に向かっていると、ふと荒れた道の端に小さな石像があった。 顔だけはその石像に向いていたのだろう、背後にいるチュンソクもまた同じ方を見て“あぁ”と声を出した。


 「あれは道標です。この場所から郡主が変わり、納める税もまた変わるらしく誰かが置いたのだと」


 群主によっては高い税を収めなくてはならないとは、おかしな話です。


国政が上手くいっていない証拠なのだと彼は此方が聞きもしない話をつらつらと述べ始めたが、ヨンは今見た石像が頭から離れなかった。 


・・・そうか?

そうだったか?


 石像の表面は風や雨で汚れ、苔なども生え何が書いてあるかさえわからない。

 だが、ヨンには微かに削られた部分に名らしき彫りがあった様に見えた。 


 まだ自分が赤月隊にいた頃、師匠が道脇にある石像に手を合わせていた事もあったが、あの時師匠は何と言っていた?


・・・思い出せない。 


あぁ、そうか、メヒは掠れていく昔の記憶を無くさない様自分を呼び続けているのか。 



 あの頃は、そう信じ想っていた――。 




 『・・・貴方、取り憑かれてるのかもしれないわね』



 天の人の言葉に心臓が一瞬止まったのかと思った。

次に激しく打ち、何時もの表情が出来なかった。 


 自分はあの世界の異様さと人々の奇抜な格好を知っており、その中からこの女人をお連れしたのだと理解もしている。

 だから、この方の言葉をまともに聞こうとはしなかった。 いや、聞いたら自分の何かが揺らいでいくだろう。

 そんな予感がしたからだ。




 ――あぁ、やはりな。





 湖の水で濡れて泥臭くなった羽織りを肩に掛けたまま、ヨンは動けずにいたが土間に水が滴り落ちていくのを見たあの方が部屋内を伺っている。 


「・・・もしかして、着替える途中だった?外出てるけど・・・」


 変な気を使わせてしまったとヨンはいいえと首を振り、 


「ここでお待ち下さい、着替えて参ります」 


近くにあった着物を手に取りヨンは急いで外に出て行った。



 土間から湯を沸かす音と薪がパチパチと火の中で弾く音だけが部屋内に響いている。 

 先程いたテマンはウンスだけを残し何時の間にか外に行ってしまい、ウンスとヨンは少し距離を置く形で座っていた。

 湯が沸くとヨンは土間に下り、盆に乗せた湯呑みをウンスの前に差し出した。 


 「俺は茶は詳しくないので・・・」 


あまり自分で煎れた事が無い。

 ウンスがその湯呑みをまじまじと見つめている事に、チャン侍医と比べられても困ると言おうとしたが、ウンスは素早く湯呑みを取り飲み始めていく。


 「もう、喉乾いちゃって!良かったわぁ」 

「・・・そうですか」 



謙遜しようとした自分にコホンと咳を一つすると、今度はヨンはウンスの正面に座った。







「先程の事ですが―」



 ヨンの言葉に湯呑みを下ろしウンスは何故か肩を竦める。まるでつまらないという態度に見え、ヨンは言葉を止めるとウンスは先に言っておくと前置きをした。 


「はっきり言って、私の時代では信じる信じないは人それぞれで、私は否定派だと断言しておくわ。

・・・とはいえ、今更ファンタジーなんて!て言うバカな事も言わないけどね」

 「・・・して、ご用とは?」


 天界語が入り交じった言葉を聞き流しウンスに尋ねると、逆に向こうが不思議そうに見つめて来た。


 「・・・ここは、貴方の大切な思い出の場所なの?」

 「はい」 

「本当に?」 

「何故そう思うのです?」 


 うーん、と呟きウンスは頬を指で掻く。 


「この辺の事をチェ尚宮様にお願いして調べて貰ったの」 

「叔母上?」 


 ここに来る前にウンスにチェ尚宮が会いに来て、大まかにだが何処かの地図を見せてきた。

それは今ヨンが住んでいる町の地図だったのだが、この時代にちゃんとした地図も無く大まか過ぎる構図と漢字だらけの名前にウンスは目が点になるだけだった。

構わずチェ尚宮は紙面を指しながら説明を続けていくが、店、酒楼屋、反物屋、他にも家主の名が点々と付いている。
だが、それも十数年前の事であり、今はあまり店も家も無くなってしまったという。

 端には小さな湖もあり、それがこの場所だとわかったが見るだけでも本当に小さな集落だったのだと理解出来た。 


  「・・・で、この土地はある豪族が治めていたという事もわかったの」 

「湖の先は漢江に繋がっております故、そうでしょうね」


 漢江近くは川の流れを利用し業者や貿易が盛んな所もある。 



 「まあ、兎に角珍しい程にお金持ちな地主さんだった様ね。

・・・それこそ何人も奥さんを娶れる程には」



 「・・・・・」 



ヨンの瞼がピクリと動いたが、他には何も無い。



 「貴方ちゃんと見たの?その大金持ちの御屋敷て?」 


 「・・・・・・・いいえ」



 ウンスを見つめていたヨンの視線は、 

何時の間にか机に向いていた――。 










⑧に続く

△△△△△



調べてないヨン氏・・・。








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