とある一つの物語【前】 | ー夢星石ーシンイ二次創作

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とある一つの物語【前】





どうして俺を信じてくれなかった?
お前になら背中を預けられると伝えた筈なのに。
伝え切れなかった何かがあったのだろうか?

彼女が自分を信じるまでには何が足りなかったのだろう?



「あの医員、帰ったら婚儀を挙げるらしい」

渡された質素な飯を受け取りながら仲間の話に耳を傾けていたヨンは誰だ?と聞き返した。
飯を渡して来た男はあそこにいる奴だと空いた手を炊き出し場に向けた。
自分達先陣部隊の軍では無く、飯炊きする下っ端と共に動く面々の中に目立つ白衣の数人が見える。

「どの医員だ?」
「あの中で一番背が高い奴。一応後方支援部隊の責任者でもあるな」
「何故責任者が飯炊きなどしている?」
「知らん。あの男は少し変わっているんだ」

出身は元より向こうの西域らしいが更に西から来たのではないかとも言われているという。

「・・・待て。元だと?“草”ではないのか?」

草とは敵国に忍び込み数年暮らし根を生やしながら、機密情報を送り続ける間者の事で見つけ出すのは中々に難しかった。
しかし、険しい顔になったヨンにその男はへらりと笑い返す。

「だと思うなら、この飯にも毒が入っているだろうよ。あの男はこの十日間ずっと炊き出しをしているよ」
「・・・・・」

去って行った仲間の背中を見ながらヨンは舌打ちをしていた。

――何なんだ。
この緩み切った状況は。

元々いた部隊が特殊な者達の集団だったのは自覚しているし、師匠で隊長だった者は王宮が一目置く程の存在だった事も知っている。
常に周囲に目を向け微かな気配さえ油断するなと教えられたヨンには、配属されたこの軍隊が堕落しているとしか思えなかった。

食べ終わり空いた器を返しに行くとまだその医員は忙しなく動き回っている。
医員で後方支援部隊の責任者なのだからさっさと天幕に戻れば良いものをと眺めていると男は傍に寄ったヨンに気付き視線を向けて来た。


しかし。

「・・・」

無表情で何も言わずその男は静かな眼差しをヨンに向けている。

――・・・何だ?

敵意は全く感じない。
だが、親しみが篭っている訳でも無い。

「器を」

ヨンが言うと、

「はい」

一言言い男は受け取り近くの水桶に入れた。

「・・・・・」

男から此方に会話をしてくる気は無い様で、再び無言で見返して来る。

「王宮では見なかったが?」

そう言ったヨンに男はゆっくりと頷き、

「先陣部隊が出立したのが四年前で、その後直ぐに典医寺に来ました」

典医寺という事は、高麗国内でも優秀な医員という証でもある。
確かにこの男の言葉使いは本土には無いものを感じたが、それ以外はまだ違和感は見えない。

「どうやって外の者が典医寺に入れたのだ?」
「・・・高麗にはもう十年以上住んでいますし、私の師は朴(パク)氏ですが・・・」

朴とは数年前まで典医寺にいた医員で王様の御医でもあった。王が崩御し周囲の内官や参尚、医員も処分を受けたがその中に朴氏も入っていた。
宮殿を出された彼だったが恩恵で市井外れに住む事で許されていた筈と、ヨンが思い出している間に男は下っ端と一緒になり器を洗い始めている。

まだ話は終わっていない。

そう言おうとしたヨンに男はふいに顔を向けた。

「チェヨン殿」
「?!」

何故自分の名前を知っている?

使わなくなった内功が反応したのか右手がぴくりと動く。
だが、男は変わらず静かな瞳で見つめて来る。

「何故俺の名前を知っている?」
「知っているでは無く、有名なだけです。貴方は生きた伝説ですから」
「は?」

――生きた伝説とは?

「・・・それ以上は『緘口令』ですので」


『緘口令』

その言葉だけで直ぐに理解出来た。
町外れまで自分の話は流れていた様だ。
部隊が解体され直ぐにここに出立命令で自分は来たが、それでも面白おかしく話だけは回っていたのだろう。

酒のつまみにまで成り下がった赤月隊か――。

「それは喧嘩を売っているのか?」
「何を?・・・。これは私が失礼でした」

すると、ここで初めて男は目を丸くし不思議そうな顔になったが、理解したのか座りながらぺこりと頭を下げヨンに謝罪した。

「違います。近しい人が教えて下さいました」
「女人か?」
「はい?」
「帰ったら婚儀を挙げるのだろう?仲間が言っていた」

殺伐とした中で他人の幸せな話は少なからず心が落ち着くのだと、昔兄弟子が話していたのを思い出した。

最早自分にはそんな関係を結ぶ者もいなくなってしまった。
剣に巻いた布はあっという間に泥と返り血で薄汚れていき、まるであの時の場面の様に見えた。
それでも。

『私を忘れないで』
『大丈夫。私も何時も一緒よ』
『ここで待っているわ』

赤と黒で汚れただけなのにそう聞こえる。

――メヒ、早く会いたい。
こんな世は散々だ。

だが、他人の婚儀に興味がある訳も無いのに男に振ったのは何故か・・・。

「・・・・・」

再び無表情になった男は口を真一文字に結び、下を向き器を洗いだす。
帰還した後だのと、後方支援部隊の者が軽はずみな会話をしたと自覚した男はそれ以上何も言わなかった。

会話の無くなったヨンも自分の天幕へと戻って行く。




「大丈夫ですか、チャン先生?」
「有名なチェヨン氏に、私も余計な事を言いました」

“緘口令”の言葉は少なからずチェヨンにとって侮辱的意味にも捉えられるだろう。

国内でも有名な特殊部隊の壊滅は一瞬で、その理由は単なる王様の気まぐれ余興の一つに過ぎなかった事も市井では話題になっていた。
崇拝していた者は惜しみ、悲しんだ。揶揄し笑い話にする者もいた。

だが、チャンビンはその話を聞いた時、別な感情が湧き上がっていたのだった。


「・・・ですが私は、あの方はあまり好みませんので」

「え?」

普段穏やかで人当たりが良いチャンビンからその言葉が出るとは思っていなかった下っ端軍人は驚愕し、隣に座っている彼を見つめたのだった――。








薄暗い森の中徘徊し、辿り着いた場所にそれはあった。


一瞬思い浮かんだのは小さい頃誰かが新春祝いで持っていた傀儡だと思ったがそうではなく、昨日まで自分と同じく息をしていた人だと理解出来た。

見てしまった事実は動かない。
記憶だけを消す事も無理だろう。
閉じても瞼の裏に見える光景にヨンは何時の間にか抗うのを止めていた。

そうだ、これはメヒが語り掛けているのだ。

『忘れるな』と自分の脳裏に焼き付けている。

もっと長く付き合っていくのだと思っていた筈が意図も簡単に砕かれたからか、何も感じない訳ではなかったが徐々にこの世から色が無くなっていく。

抜け殻になった自分は何時死んでも良いとこの地に飛ばされたのだろう。
謀反を起こせば家諸共(もろとも)罰すると後ろでは手ぐすねを引いて待っている。

――今の王政に誰も期待していない。

再び新しい王が来ると話もあったが、叔母上が話すには『幼すぎる、あれでは前と同じになるだろう』と心配していた。
結局は、元と親元派の重臣が場を固めているのだ。思惑通りに事が進んだに過ぎない。


荒れ果てたこの場所にいる自分にはそんな事どうでもいいがな。






「向こうの敵も随分と減ったが、先陣部隊もかなり減ってしまった。また次の部隊が来るそうだ」
「そうか」
「鴨緑江はすっかり様変わりしたな」
「敵が越えて来るのはこの場所しかないのだから仕方ない。持ち場に戻れよ」
「やれやれ」

鴨緑江の長い流域を挟みお互いが睨み合っている。
時々奇襲が来るが何とか食い止めている状況で、それでも多勢に無勢高麗軍の不利さは変わらなかった。


そんなある日。



「何だそれは?」

「知っているか?これは“薬莢(やっきょう)”と言って火薬を詰め込むが、中に毒をも仕込む事が出来るらしい」

「・・・?」

言っている意味がわからない。

仲間が顔を高揚させ説明するが、手の平程の筒が何の役に立つのかと片眉を上げながら訝しんでいると、

「後で披露する、まあ見てな」

とだけ言った。


数日後、自分と同じ戦前に立つ仲間は弓矢の先にそれを付け河岸近くまで来ていた敵に矢を放った。
筒内に火薬が入っていたのだから、火花と煙幕に周囲は騒ぎじめる事はわかっていた。
だが、今度は敵の数人が蹲(うずくま)り苦しそうにもがき苦しみ始めている。

「爆発したと同時に中の毒も広まってそれを吸ったって事だな」

即効性のある毒なのはわかったが、その説明にヨンは肩越しに振り向くと、

「教えたのは誰だ?」
「医員だが」
「あの婚儀を挙げるとか言った奴か?」
「ああ」
「やはりな」
「え?おい!」

そう言うとヨンは後方へと走り出した。


まだ自分が赤月隊にいた頃、似た様な武器を扱う輩(やから)がいた。
倭寇かマッラ国か、東方で教えて貰ったと死ぬ間際吐いていたのだ。
やはりあの男は“草”ではないか?
本当に西域から来たのか?
まだ見えない何かを持っている筈だ。
まだ炊き出し刻でない為に更に後ろにある天幕へと駆けて行く。

戦いで負傷した軍隊が天幕の周りに集まり自分の番を待っているのを早足で通り過ぎ、ヨンは内へと入って行った。
いきなり入って来たヨンに何事だと驚いているが、構わずヨンは問い出した。

「おい、聞きたい事がある」
「突然来て何かと思えば・・・見ての通り治療中なので」
「本当に西域から来たのか?あの武器を何故知っている?」
「武器?」
「毒が入った筒を矢に付ける事だ」

ああと思い出したのか男は素直に頷いた。

「確かに教えたのは私ですが」
「どこで知った?」
「知ったというより・・・、あの方、・・・知人に教えて頂きました」

一瞬、男の閉じた事でヨンは気が付く。

――別に教えた者がいる。

「まさかその者、倭寇の一味ではないのか?」



その途端。



「・・・・・はい?」



一瞬で天幕内の空気が冷え、男はゆっくりと立ち上がった。


ヨンと同じ位の体躯があり、大男が狭い天幕内で睨み合う姿に中にいた患者達は急いで端へと逃げて行き、声を聞いていた者達は入口から興味深気に二人を見ている。

目線が同じ位置になったヨンは瞳だけで怒りを放って来る男を冷たく見つめ、男もまた普段出さない怒気をヨンにぶつけるが如(ごと)くただ静かに見つめていた。

「あの方を侮辱するのは許しません」
「俺は疑問を聞いているまでだ」
「・・・チェヨン殿。世を嘆くのは構いませんが、それでも一緒にされたくないものもあるのですよ」
「何がだ?」
「私は来たくてここに来ている訳ではありません。あの方のお願いを聞いているに過ぎない」

確かに典医寺に勤める者が戦場の最前線になど来る必要はない。
この男が変わり者だと思ったが、事実はそうではなく助言した“何者”かが異質なのか。

そして、その何者かは『女人』だ。
『女人』がこの医員を戦場に向かわせていた。

自分の叔母上の様に長く王宮に使える者ならわかるが、男の許嫁になればまだ三十前。

――典医寺の医員を動かせる『女人』などいたのか?

「誰だ、その者は?お前の許嫁か?」
「・・・」
「女人がその戦術を知っているのは不思議だと思わんのか?」
「思いません」
「何?」
「あの方は、とても聡明(そうめい)な方故(ゆえ)」
「は」

鼻で笑うヨンの胸ぐらに音も無く男の手が伸びたが、素早く下から掴む。

「上に対する無礼だと思うのであれば、処罰なり吊るすなりご自由に」

真っ向から男はヨンに謝るつもりは無いと周囲は戸惑いながら見ていたが、
一人の軍人が慌てて天幕に駆け込んだ事で皆の注視が逸れた。


男はヨンの手を払い除ける際、



「貴方が、“チェウォンジクのご子息”でなければ・・・」



――何故自分の父の名を?


再び肩を掴もうとヨンが手を伸ばそうとしたが後ろから名を呼ばれてしまい、
急いで下ろすと戦場へと踵を返し走り出したのだった――。







【中】へ続く
△△△△△△△△

長い、暗いでゴメンよ〜♪(*´³`*) ㄘゅ・・・ゲロリ。
(吐くんじゃない、飲み込め)
“とある一つの”なのです。
何が無いかというと、迂達赤隊が無い世界。
チャン先生も冷たいねぇ・・・。

3話完結ですので、一つが長いかもー。


今日は三日月🌙『月の剣』だって🪷



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連休はどうでしたか?
忙しい方も休めた方も、横になりながら寝る前にでも読んでくれたら嬉しいワ♡

キーホルダー届いている様で安心しました😊
まだの方はもう少し待っててネ

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