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永久機関と君と⑧
血が出ている腕を抑え、ヨンとメヒを唖然と見ていたウンスの傍にチャンビンが駆け寄って来た。
「大丈夫ですか?ウンスさん!」
「はい・・・」
しかし、ウンスの血の滲んだジャケットを見てウンスの手を退かし傷を凝視しチャンビンは険しい眼差しになる。
「これは・・・早く病院に行きましょう」
座り込んだウンスの身体を支えながら立ち上がらせたが、ウンスはそれよりもと2人に視線を向けると押さえ付けられたメヒはまだその怒りをヨンに吐き出しており、それを何の感情も映らない瞳のチェヨンが静かに見下ろしている。
――これは、恋人同士では無い。
彼女の発言とチェヨンのメヒに対する眼差しは恋人とは到底言えるものでは無かった。
つまりはお互いに腹の探り合いをし、不正が見つかったメヒは海外に逃げた。
・・・という事だろうか。
「アンタなんか、私が声を掛けなきゃ社内で孤独な御曹司だった!」
「そうか」
「大人しく騙されておけばあんな事故にだって遭わなかったでしょうに。そのまま眠っていれば良かったのよ!」
「言いたい事はそれだけか?」
ピクリとヨンのこめかみがひくつき、空気が冷たくなっていく。
「隊長」
チャンビンが静かに呼ぶとヨンはちらりとチャンビンとウンスに目を向けた。
「・・・ふん。もう直ぐ警察が着く、それまで好きに吠えさせているだけだ。冷静が欠いた者程自ら墓穴を吐くからな」
「何ですって?!」
更に興奮したメヒは金切声を上げ悪態を吐いていたが、バタバタと騒がしい足音をさせ警察官らが着くと観念したのか顔を項垂れ黙ってしまった。
「クライアントとは・・・?」
ウンスの言葉にチャンビンははぁと頷き、
「大凡の想像はつきます。それは私が請け負いますのでウンスさんは早く病院に」
チェヨンも慌ててウンスに近付き怪我した腕を見ると瞬時に顔色を無くし、申し訳ないと頭を下げた。
――微かにチェヨンが怯えた表情になっていたのは何故なのか?
ウンスはふとそう感じたが、
2人に促されチャンビンの運転でウンスが勤務する総合病院へと車を走らせたのだった。
ウンスの怪我を見たパク主任とシムは驚愕し、同僚の外科医師はこちらにとウンスを処置室に連れて行った。
しんと静まりかえった待合室の椅子に座り、黙って終わるのを待っている男性2人をシムは離れた場所から睨みつけている。
ウンスの治療をしている間詳しくは聞かなかったし聞く気も無かったが内容は直ぐに気付いた。
「・・・そもそも何故ユ先生が傷を負ってしまったのか・・・。彼女が傷付く必要はあったのか?甚だ疑問ですね」
シムの言葉は気遣うつもりなど更々無く、責任は2人にあるのだと責めている。
パク主任はそうね、と眉を下げため息を吐くしかなかった――。
ぐるぐるとウンスは目眩の様な視界の揺れを感じていた。
自分はどうしたのか?
あぁ、病院には到着したのだから治療中なのかもしれない。
だが、つい先程見た奉恩寺とは違う景色が流れていく。
海面の様にゆらゆらと揺れ光が近付き、遠ざかり暗く生暖かい海の底に引き摺り込まれている筈なのに何故か別な暖かいものに包まれている気がした。
――なるほど、これは母親の胎内なのかもしれない。
そう納得した。
しかし――。
『せめて守護神なら格好良いのに』
――はい?私そういうスピリチュアルな考えは信じないの。
『理数系か。医者だからそれもそうか』
・・・この声。
聞いた事がある様な・・・だが、この違和感は何なのか?
『もうウンスさんの傍に行かないと』
――私が“ウンス”ですが?
『・・・ああ、そうか』
くくくと小さく笑いその声は聞こえなくなった――。
「小さい医院を建て経営するのが若い頃からの夢だったんです。でもこの地では難しい事だと知ったので」
「・・・はぁ、若い頃って先生まだお若いでしょうに」
「やだあ、そう見えます?これでも・・・コホン。ま、まあ、許嫁はいるから帰ったら直ぐに婚儀は挙げますけどっ」
若いと言われてもこの時代の女性もやはり結婚は早かった。自分と同じ年頃で既に働きに出る子供がいる人も診察を始めてわかってきた。
そうは豪語したものの、ヨンの元に帰ったら婚儀など挙げてくれるだろうか?
彼は良くても周りが反対するのではないか?
改めて冷静に考えていくと、あの“崔瑩”なのだ。
大将軍と讃えられ歌まである人が周囲から狙われない訳はない。
今はまだ一部隊の隊長でも数年後にはやれ我が娘をと押し掛ける重臣も出てくるのだろう。
「・・・夫婦になったら私は側室なんて認めませんけどね!」
「おやまあ、嫉妬深い奥方になるんかね」
一人暮らしの自分を心配して頻繁に来てくれるお客もいて、こうやって少しだが会話を楽しむ事も出来る様になった。
数人の年配者だとしても周りに人がいる安心感に勝るものはない。
「しかし、ユ先生は凄いわねぇ。この間なんて腕を切った男の怪我をあっという間に治してしまったのだから」
「・・・あぁ、いえ、血は出ていたけど傷は大した事無かったの」
なるべく道具の使用は避けていたが、どうしても必要な時もあり必要最低限の助手だけを入れ部屋内で治療をしていた。警戒心が高くなったのも数ヶ月間高麗にいたからと自覚している。
・・・私が帰る場所はチェヨンが生きているあの時代だもの、よく考え行動しないといけないわ。
――そんな考えは少し彼に似てきただろうか?
1人考え苦笑していると、また山道を登り人が入って来た。
「あら、キムさん。また腰が痛くなったの?」
「前に頂いた付薬が無くなってしまって・・・」
老婆のキムは義理息子だという男性におぶられながらそうなのと頷いた。
「ユ先生、もうそろそろここを離れた方がいい。どうやらアンタの話が王宮に伝わったらしく、『崔家にそんな関係者はいない。だが女人が医者とは』と興味を持ったとの噂だ。直ぐに禁軍が来てしまう」
「本当にお家を貸して下さりありがとうございました。この御恩は一生忘れません」
ウンスが今の崔一族と何の繋がりも無い事は直ぐに知られてしまったが、薬材や練薬の扱いに長けたウンスを見て医員なのは間違いないと家主夫婦は家を貸してくれた。
あれから一年、お世話になりましたとウンスは頭を下げ夫婦に礼を述べると着替えなど軽めの物だけを風呂敷に詰め、早々とウンスはその家を後にしたのだった。
計算するとあと少しであの門が開く。
それまで近くで待機しておかなくてはならない。
最近ではすっかり使わなくなってしまった医療道具や充電が切れ見れなくなったプロジェクターを夫婦に預けた。
何時かはキチョルの手元に流れていくのかもしれないが、あれも自分がチェヨンと出逢う運命の歯車の1部なら抹消はしない方が良い筈だ。
一応保険を掛けたが、はたしてどうなるかしら・・・。
ウンスは一年前下りて来た荒道を再び歩き始める。
雨が降るのか先程まで青かった空は曇天に変わっていった――。
⑨に続く
△△△△△△
一年経ったのでウンスは家を出ました。🙂
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プレゼント企画応募された方々本当にありがとうございました😊
順次発送しておりますので少々お待ち下さいませ(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
1週間経っても届いていない場合は申し訳ございませんがメッセージにてご連絡下さい🙇♀️
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徐々に写真等も増えていくと思いますので、興味がある方は是非見て頂けると嬉しいです♡(っ ॑꒳ ॑c)
まぁ、そのうちちらりと私も載るかもですが、基本はヘルプでデザイン係のりまです😊
(お店デザイン・メニュー表は別な方が作成。サロンのチケットやチラシ等は私です)
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