永久機関と君と③
あれから私は民族博物館などには近付かない様にしている。
きっと、あれから自分の調子が悪くなったのだ。
元々小さい頃から苦手だったのだから今更克服しようとも思っていない。
アン先輩とは彼が大学を卒業してから一度も会う事は無く、自分もくだらない事に時間を費やしたとばかりに研究に没頭した。
少なからず先輩との噂が広まり同期達の話のネタにもなったが、反論する気もその女性達と喧嘩する気も湧かなかった。
「内定は貰っているのだから、私はもう大丈夫。望んだ将来へと進んでいる」
自分に言い聞かせる様に毎回口に出す。
何回そんな事をしたのか。
後ろを振り返ると見えるのは、
はたしてこれは正しい道だったのか?
私は幸せへとちゃんと進んでいるのか?
『医師』という道を逸れた友人達が、傍には優しい旦那さんと可愛らしい赤ちゃんを腕に抱き心から笑っている。
――私は今、本心で笑ってる?
私の傍に誰がいればあんな顔になれるの?
諦めない。
まだ、人生の半分も生きていないじゃない。
大学時代から希望していた江南総合病院に勤務し始め、仕事に慣れればそれなりに周囲を冷静に見れる様になっていた。
確かにソウル市で1番の発展都市だと思う。国内外の最新機器が集まり、見たい、試したいと思えば直ぐ触る事が出来る。
「幹細胞研究を止めないで良かった!仕事しながらでも時間は取れるかもしれない」
病院の医師の中には自分と同く大学時代研究室をしていた者もおり、病院の近くにある製薬会社と懇意にしているという。
「凄いですね」
「やはり“江南総合病院の医師”というネームは強いね。ユ先生も一度交渉してみると良いよ」
「わかりました、ありがとうございます」
韓国内にある製薬会社はそんなに多くは無い。しかし、病院内で使う道具や薬剤は最近では海外製も多く製薬会社も何かしら契約出来るツテを探していると先輩の男性医師はウンスにアドバイスをした。
数日後、言われた通りに製薬会社にアポイントを取ると快い返事が直ぐに返ってきて、ウンスは思わず手を上げ喜んだ。
「先に材料をくれる所を探して・・・その次に、彼氏でも探してみようかしら〜?」
昔みたいに猪突猛進に貢ぐなんて事はしないけど、自分を大切にしてくれる人がいたらあんなトラウマはさっさと忘れて幸せまっしぐらよ!
連勤続きで疲労は溜まっていたが、
上手く事が進む事に気分が少し晴れたウンスだった――。
「おめでとう、ユ先生!」
「大学の研究は無駄じゃなかった!仕事はするけど、これを生かさなければ!」
製薬会社との交渉を経て研究に必要な材料を貰える事になり祝う為にウンスは同僚と2人、江南区に出来たレストランでグラスを乾杯していた。
「でもやっぱり自分だけでは継続は難しいと思うのよねぇ」
「どうしたいの?」
「やっぱり彼氏とかぁ・・・」
グラスを持ちながら話すウンスに同僚は驚き、大丈夫?と尋ねて来る。
ウンスが男性に対し少なからず対抗心を持っている事は知っている。
そんな彼女が恋人を作るなんて・・・。
「それで、考えたんだけど結婚も視野に入れてみようと思うの」
「え、えぇ?!ユ先生?」
それはちょっと待った方がと言う同僚にウンスは大丈夫よと手を振る。
「調べたら私みたいな年の女性も結構登録しているみたいなの」
「登録?」
「ふふふ、実は私、結婚相談所に登録しようと思って!」
「え、えぇー?!」
ウンスが満面の笑みで言う内容に正面にいた“同僚”は驚愕し、呆然と口を開けたのだった――。
「イムジャ、俺から三歩離れないで下さい。
何かあっても直ぐに守れなくなってしまう」
「三歩、てずっと傍にいるつもりなの?」
「はい」
「ト、あれ、・・・厠は?」
「そこまでは行きませんよ。入る前に中は確認しますが・・・」
ウンスの質問に途中から無愛想に応え、男性は顔を逸らし前を向いた。
随分と整った横顔だとウンスはちらりと見ながらそう思う。
「貴方、モデル出来るんじゃない?」
「も?」
「色々なお洒落な服を着て、最新はこれですと皆に教えるの。ファッションリーダーにもなれるわ!」
ウンスに質問した男性だったが、眉を顰めると再びウンスから顔を逸らし話を聞いているのかジッと前方の暗闇を睨み始めた。
「聞いてる?」
「いいえ」
「はあ?」
「言っている意味がわからない。それよりも直ぐ寝て下さい、朝は早く出立します故」
「・・・っ―!・・・もうっ」
――だからこの男はっ・・・!
「本当に、サイコよね!」
暴言なのかそう吐き捨てるとウンスは敷いた御座の上に寝転び、
その金切声に一瞥した男性だったが持っている枝を前にある焚き火にポイッと投げ捨てた。
少しの間の後、
静かになった空間を確認し男性は傍で寝ているウンスの顔を覗き込んだ。
長い髪で顔の半分は隠れてしまっているが、細く通った鼻、白く柔らかそうな頬が見える。
よく話す女人で寧ろ苦手な筈なのに、黙ってしまうと心配になってしまう。
ちゃんと息はしているか?
このまま目覚めないなどはならないか?
男性はぎこちなくウンスの肩にそっと手を寄せると、じんわり伝わる熱と上下に動く肩にふぅと息を吐いた。
「・・・“サイコ”とは何だ?」
答える訳が無いのはわかっているが、
男性は小さな声で囁いた。
ウンスは照明を落とした自室で目を覚まし、そのまま顔だけを左右に振った。
やはり、一人住まいの為近くには誰もいない。
「・・・何、今の?」
夢にしては見た事も無い鬱蒼とした森の中にいて、テントも無い寒い場所で自分は寝ていたのだ。
草や虫が付いてしまうし、ありえない。
もぞもぞ毛布を被り直しはたと動きを止めた。
以前もこんな夢を見た事はなかったか?
大学時代怪我をした時おかしな夢を見た筈だ。
あれからあの夢を見る事は無く、博物館にも行っていない為確認も出来ていない。
「やっぱり夢と混合していたのかしら?」
意識を失った際に夢と現実が混ざり、混乱したに違いないと結論付け過ごしてきた。
また数年経ち似た様な夢を見るとは・・・。
ハッとして枕元に置いた携帯電話を手に取り画面を出した。
明日は休日で出掛ける予定がある。
その中には・・・。
少し前に夢診断というアプリを同僚がしていたのを思い出し、知人だろうが他人だろうが不気味だったり不穏な夢は“何かの警告”と言われあまり良くないという。
もしかしたら意味不明なあの夢も自分に警告していたのかもしれない。
しかし、何故こういう時に限ってこんな夢を見るのか?
「・・・ちょっと止めてよー。
まさか何かあるとかじゃないわよね?」
大学を卒業してから順風満帆とまでは言わないが、それなりに良い方向に進んでいる。
不吉な夢は消えて欲しいと手をバタバタと振り回し、夢が残らない様に願いながらウンスは再び目を閉じた――。
「ユウンスです。はい、江南総合病院で医師をしております。
仕事が忙しくてお相手を探す事は出来ないんです・・・ええ、はい。
そうですね、好きなタイプは――・・・」
「ありがとうございます。ユ様はとてもお美しいですし、きっと良いお相手が・・・そうそう年に数回ですが会員様限定食事会などもあり色んな方とお話する機会もあるんです―・・」
頷きウンスの言葉を聞いていた女性社員は、
そう言うとにこりと微笑んだ――。
④に続く
△△△△△△
どのウンスかわかりましたかね?
わかった方は挙手🙋♀️でどうぞ✋
彼らに会うまであと3年。
ちょいちょい似た様な文も入ります✨
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