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永久機関と君と①
2002年の春。
ウンスは大学の長期休みを利用し両親をソウル市に呼び短い都会観光へと繰り出していた。
長年農家をしている両親だったが高速バスでソウル市に来た段階で父親は疲れを顔に出している。
「もう、これから江華島にも行くのに、大丈夫?」
「違うのよ、バスの中で団体客が騒いでて眠れてなくて・・・」
「騒いでいるのは、何時もの事よ。やっぱりこの時期になると観光客も多いのね」
そう話しながらウンスが両親の旅行バッグをタクシーのトランクに入れ、その際に両親は後部座席へと腰を落としていった。
「それにしても、江華島だなんて・・・」
不思議に尋ねるウンスに父親はそうかい?と目を丸める。
「そのあとは仁川市にも行きたいと思っているし、今まで行きたい場所があったから楽しみなんだがね」
「・・・もっと、江南の街や東大門だってあるのに」
「それは明日に行くさ」
「はいはいわかったわよ。運転手さん江華島にお願いします」
ウンスが助手席からそう言い、タクシーは江華島へと走り出した。
両親のお願い事だからと車を進めたが、あまり気乗り出来ない旅行だった。
実はウンスは昔から歴史物や祠堂などが嫌いだからだ。
今は偉人として色々伝説や功績がある武将や王宮で行われた煌びやかな行事を行ってきた歴代の王様達。
だが、そういう物を見るならテレビや雑誌、教科書で学べば充分でありわざわざ現地に行きたいとは思った事が無い。
あれは今だに不思議なのだが大邱市にある民族博物館に小学校の体験学習で寄った際、展示物に近付いた途端気味悪さを感じ急いでその場を離れた。
後から担任に伝えると年配の先生は、
「折角貴重な体験が出来たのに、それは勿体ないね」
と的外れな言葉を掛けられ、
“何故皆は大丈夫なのか?”と逆に怖くなったのだ。
――やはり、私は過去より未来的なものが良い。
そう考え、最新医療を学べる医大へと進学し細胞膜や再生細胞の研究に没頭した。
亡くなった者より、これから産まれて来る先の人間の方が遥かに大事だ。
自分はその為に学び、それを必ず生かしていく。
発展都市のソウル市に来た意味はそういう事だとウンスは考えている。
江華大橋を渡り、目的地の歴史博物館に辿り着くと両親は先程の疲れなど忘れたかの様に近くの公園を散策し始めた。
逆に足が重くなったウンスは近くのベンチに座り芝生に展示されている石仏をぼんやりと眺め、あちこち見渡すと両親だけでは無く他の旅行客などもパンフレットを持ち歩いている。
「ふーん。仁川空港からそう遠くないから、確かに来やすいのかな?」
両親は公園のかなり先に行ってしまい、何時戻って来るかわからない。
振り返ると博物館の入口にはコーヒー販売のマークがあり、ウンスはそれを目的に館内に向かい歩き出した。
「とりあえず、探し始めたら携帯電話に連絡来るだろうし・・・」
館内の隅にある小さな販売店でコーヒーを買い、ちびちびと口に含んでいると、館内のガイドなのか年配の男性がにこやかにウンスに近付いて来た。
「何か興味のある物はありましたか?」
「いいえ、まだ・・・」
しかし、興味無い上に館内を歩き回るつもりも無いウンスはそれ以上は言えず口篭ってしまう。
男性ガイドはそんなウンスの内心などは知らない為に、ここが如何に重要文化財が沢山あるかを話し始めていく。
「あの、今公園を両親が歩いていまして・・・きっとそのお話を聞いたら聞き入るのではないかと」
「おや?ご両親は歴史に興味があるのですか?素晴らしいですね」
気さくというより、自慢話をしたい様にも見えウンスはいい加減場を離れたいと身体を後退りしようか悩んでいると、ガイドはふとおかしな話を切り出した。
「・・・そういや、少し前の話なんですが別な職員がおかしな事があったと言って来たんです」
ウンスの引いた気配を感じ取ったガイドは引き留めに来たのか違う話を振って来る。
別に良いです。
そう断り去れば良かったのだが、自慢話とは違う雰囲気に思わずウンスはガイドを見つめてしまった。
「――夜中に、何も無い所から急に風が吹き葉っぱなら窓からだと思うんですが、何故か瓦礫や石クズなども床に落ちていたというんです」
「館内でですか?」
「はい、何処も壊れてなんていないのに、ですよ。不思議ですよねー?」
「・・・誰かが撒き散らしたとか?」
「いやいや、瓦礫なんて瓦や藁が混在しているおかしな物で、調べたらその瓦礫の造りは昔造っていた土壁の残材だとわかりました。・・・それには、布の破片も混ざっているとかで」
「ヤダ、怖い話ですか?」
不思議話がホラー話に変わろうとしており、ウンスは思わず手を振りもう充分と声を出した。
「・・・一応、研究室に持って行った物もありますが、残りは入口の階段の端に置かれてありますので、もし良かったら見て下さいね」
それだけ言うと男性ガイドはウンスから離れ、受付中の客へと向かって行ってしまった。
「何なの?結局ホラー話?」
ヤダなぁと顔を顰めつつ、身体はすぐ傍の入口を見てしまう。
――まさか、どこかに穴でも空いてそこからぼたぼたと落ちて来た――とか?
そんな不可思議な話を映画で見た事があったが、あれは海外映画だったか?
そんな事をふと思いながら、入口に向かったがその瓦礫などが落ちている様子は無かった。
「無いけど?」
館の外壁をなぞる様に視線を先に向けていくと、建物の隅の方に小さい箱があり、簡易な雨避けとして上からブルーシートが掛けられている。
随分とぞんざいな扱いに、本当にガイドが話のネタにする程の貴重な物なのか?と疑ってしまう様な状態にため息を吐きつつもウンスはブルーシートへと近付いて行った。
ブルーシートの隙間から確かに崩れた瓦礫や石が見えウンスは少しブルーシートを上げ、更に覗き込む。
だが・・・。
「・・・・これは」
――布と言っていた様な気がする。
確かに服の破片だとわかるが、切れ端には薄く黒く変色している部分もあった。
「・・・血、じゃないの、これ?」
研究で何十回何百回見た変色した血のくすんだ色。
瓦礫をよく見ると砕けた物の中に鋭利な刃で割いた様な滑らかな裂け目もある。
しかし、館内にどさりと落ちていただけで人はいなかった様だった。
――あ、また。
この陰湿な暗さにウンスは少し顔を上げる。
館内の独特な空気も匂いもダメだったが、これもまた嫌な匂いがする。
何か鎧か武器が入っていた箱にでもこびり付いていた年代物だろうか?
だとしたら、この切れ端の布や変色した血もまた古い誰かのなのだろう。
「あぁ、ダメだわ、本当に・・・」
言葉を吐いてブルーシートを被せ直そうとそれを拾おうと手を伸ばしたが、
どさり。
傍で上から掠めた風と僅かに歪んだ空気に一瞬身体を止め、肩越しに音がした方へと顔を振り向かせ――。
「――ッ、ヒッ!」
砂利の中に落ちていたのは、
手首の少し下から鋭利なもので切断された様な手が一本、
ウンスの足元に転がっていた。
袖だったものに付いた血は今さっき付いたばかりの褐色で人の身体内から出たものだとはっきりわかる。
握っていたのは元は刀だったのだろうが、それが粉々に粉砕されているのか握りしか残っていなかった。
「きゃあああ!」
ウンスは叫び急いで逃げようとしたが、パンプスを履いた足がおぼつかず力が入らない。
それでも壁に背中を付け、助けを呼ぼうと震える手を伸ばし入口に向かおうとした。
「誰か!殺人・・」
しかし、次には空から箱に入っていた様な砂利や土壁の塊が落ちて来た。
ガンッ。
バチバチ。
悲鳴と怒号。
「きゃあ!何なの!」
ウンスは最早考えるよりも避難が先だと屈みながら砂埃が舞うその場から逃げるしかないとパンプスを脱ぎだした。
「イムジャ!」
どこかから聞こえてきたのは、男性の声。
助けかとウンスは声がした方を見上げたが、そこにいたのは時代劇ドラマで見る様な軍服を着た若い男がウンスに向けて手を伸ばしている。
「・・・え?」
よく見ると男の腰から下がぼんやりと見えない・・・いや、歪んでいるのか・・・無い様に見える。
土や変色した色を服に付け、乱れた髪は簡単に結んだ為に解けそうになっていた。
今彼は誰を呼んだの?
私では無かった。しかし、手を伸ばしているのはこちらになのだ。
「イムジャ!手を・・・手を掴め!・・・ウンス!」
「?!」
彼が助け様としているのは私だわ。
咄嗟にウンスは手を伸ばし、厚みのある男の手を握り締めた――。
②に続く
△△△△△△
🐥🐥🐥🐥🐥
やあ、りまです。
これは来年になってから出すやつなのですが、先に1話だけ載せました。(けして、載せるものが無いとかそういう・・・ぶるぶる:( ;´꒳`;):)
書いてみたかったお話なのですが、また私の世界観が混ざるので途中•́ω•̀)??になるかも・・・笑
しかし、高麗ヨンは出て来るのでそこは大丈夫よ!ちゃんとシンイの世界の話よ。
(˙˙*)?
🐥🐥🐥🐥🐥
今続いているのはそのまま続けますので、こちらは気まぐれ更新と考えて下さいませね〜🙂
そういや、最近昔のお話を修正しようかと考えていますので変な更新連絡ありましたらすみません💦
あと、十六夜も移そうかと・・・😅
(多分こちらは限定になりますが・・・。)