イトシイイトシイイウココロ㉝ | ー夢星石ーシンイ二次創作

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イトシイイトシイイウココロ㉝




ん?

ウンスが典医寺から出ると、ポツリポツリと雨が降り始めていた。

「あらら雨?」

薬草園に干し敷いた薬草を思い出しチャン侍医に教えようとして、はたと足を止めた。
確か今は王様の往診に行っていた筈。

しまったと思ったが普段の彼らの動きを思い出し、ウンスは薬草園に戻ると茣蓙(ござ)に干した薬草を籠に戻し始め、薬草特有の青臭さと湿った雨の匂いを嗅ぎウンスは大学時代の研修期間を思い出した。
既に化学薬品しか無い時代だったが、時々研修では薬草から細胞を採取してもいた。
時々講師に来ていた東洋医学の博士号を持っていた助教授は、

「今では現代医学が無ければ人の生命は助からないとわかっているが、それでも我々の先祖は漢方医学だけで治療を行っていた。私は伝授されず消えていった技術もあるのではないかと思っている」

・・・等と言っていた様な気がする。

「・・・確かに。あの隊長のXメンみたいな技は現代人では無理だものねぇ」

・・・文明の機器が発展していくかわりに、特殊能力者達は減っていったのだろうか?
・・・なんて、今頃考えてももう遅いか。

ふと取った薬草を鼻の近くに寄せてみた。
この時代の薬草の方が少々匂いがきついかもしれない。

しかし、薬草を弄っていると研究室にいた時の辛かった経験も思い出しウンスは小さくため息を吐き出した。

授業も、恋愛も。
あまり良い記憶は無かった。


「・・・本当に吹っ切りたいと思っても中々難しいわね」

叶わないと知りながら捧げた時間と、直ぐ先にはあっという間の失恋。
報われない気持ちに荒み、それでも一生孤独でいるのは辛いから何時かは誰かを探し結婚して家族を作る。
そんな妥協だらけの人生だと思っていた。

なのに――。




「・・・早くしまわないと濡れますよ」

「え?」

いきなりの声にびくりと肩を上げ隣を見ると何時の間に来ていたのか、ヨンがウンスの横に座り同じく干していた薬草を取っている。

「チェヨンさん・・・」
「他の薬員は?」
「呼んでないわ」
「・・・」

微かに眉を顰めたヨンは素早く集めるとその籠を診療所へと持って行く。

「そこに誰かはいるでしょう、その者に任せましょう」
「え、ええ」

二人は診療所に向かい、チャン侍医の代わりに診察をしていた医員に籠を渡すと近衛隊長のヨンとウンスに渡され彼は恐縮しながらそれを受け取った。


”他人に無関心で、王政や自分の立場にさえ興味が無い人だった。“

仲良くなった薬員や女官の会話を聞くとヨンのそういう話がちらほらと出ていたが、最近では近衛隊長になったからかよく動くし軍会議にも参加しているらしい。

――どういう心境の変化か?

そんな話を思い出しウンスはまだ小雨が降る空を見上げた。

実はウンスは酒楼に行った際、テマンと女店主が会話をしていたのを盗み聞きしていた。
そんな事をするつもりは無かったが、ヨンの名前に思わず足を止めてしまったのだ。
話はてっきり噂の彼の想い人だと思っていたが、今考えれば昔の女性の事だったのだろう。

『あいつも中々忘れられなかったからね――』
『でも、その人はもういない――・・・』

年齢的にも自分とそう変わりはしないのだから、誰かはいただろう。

だが、
彼らはヨンは吹っ切れたと話していたが・・・。

・・・そうなのだろうか?

時代も変われば考え方も違う。

強く生きなければならないこの時代では人の生き死にもまた違う考え方もあるのかもしれない。

などと考えていると、
いきなりヨンがウンスの顔を覗き込んで来た。

「何をしているんです?」
「え?いいえ別に」
「・・・そうですか?」

何故か納得していないヨンの表情を見てウンスもまた何?と聞き返す。
あの酒楼での時から彼の距離感が近くなった気がすると、距離を取ろうとするウンスにヨンはどうします?と尋ねて来た。
先程から此方に聞いてばかりな彼にウンスの目も丸くなる。


「だから、何かあるの?」


「・・・」



ヨンもまた不思議そうに見つめて来るウンスにどうしようかと悩んでいた。

兵舎から出た途端小雨が降り出し、何故今日なんだと思わず舌打ちが出てしまった。
以前ウンスが市井に出掛けたいという許可を漸く今日貰い、急いで薬草園に向かおうとしていた矢先にこの天候とは。
それでも薬草園に近付くとウンスの背中を見つけた。だが、彼女は忙しく薬草をしまっておりヨンには気付いていない。

声を掛け様としたが、
「あの草だって今の時代には無かったな。
・・・本当に吹っ切りたいと思っても中々難しいわね」

それはこの時代では無く彼女が本来いた場所を懐かしむ言葉だった。

薬草を集める背中は儚く寂しく見えるのに、偶に見える横顔は苦笑していてそれを懐かしんでもいる。

楽しい時を、懐かしい人を思い出していたのだろうか?

声を掛けるとヨンがいる事にウンスは驚き、目を大きく広げ此方を見て来る。
まさか自分が来るとは想像していなかった表情に気持ちが沈んでいくのと、少し前の他人に対する嫉妬心とは違う感情にヨンは思わず足を進めた。
目線だけを向けるとウンスは再び思案し始めている。


――俺は邪魔していたのだろうか?

この場所に来たのがチャン侍医なら彼女はここまで驚かなかったのではないか?


雨が降ったからか、ウンスの意外だという表情を見たからか、少々苛立ってしまいウンスから籠を貰うと急いで診療所に移動し薬員に強引に渡してしまった。

視線をウンスに向けると彼女は雨が降る曇天を見上げている。


彼女の中に自分の何かを残せば良い、自分も密かに残った何かを大事にしよう。
最初はそんな事しか考えていなかった筈だ。
チャン侍医は自分と違う考えだと言った。
彼女の思うままに従うのだと。

だが、自分はおそらく逆だ。
自らの気持ちをも押し付けたくなるだろう。

“それが男の浅はかさ”なのだとチャン侍医の瞳は言っていた。


――・・・女人の好きな様にするのも己の好感を上げる為ではないのか?
・・・フン、結局どちらも男心が見えていたではないか。


「何をしているんです?」

近付き覗き込むとウンスは微かに仰け反り、別に何もと言う。
遠い先の懐かしい何かを思い浮かべていたのだとわかる顔に誘う言葉も躓く。
それでも、雨だが行かせたい、一緒に行きたいと思う気持ちは離せない。



「何かあるの?」

「・・・」

ちらりとヨンはウンスを見ると雨が降る曇天を見上げた。

「・・・以前言ったではないですか。市井に連れて行くと・・・王様から許可を頂きましたの―」
「えっ!いいのっ?」

徐にヨンの言葉を遮るウンスの声に見上げていた顔を下げウンスを見つめた。
口を丸くしていたウンスは次にはニンマリと笑みを浮かべ、可愛らしい・・・いや、何やら企む笑顔になっている。

「・・・?、行きますか?」
「行くに決まっているじゃない!」
「しかし、雨が降ってきましたし、また明日にでも・・・」
「何言ってんの?小雨位で・・・こんなの傘さえいらないじゃないわ」
「・・・傘はささないのですか?」

あの煌びやかな土地では少しの雨にさえ防ぐ何かがあると思っていたが・・・。

「私小雨位なら傘なんて必要無い女なの。そもそも邪魔だし」
「まあ、確かに」


薬草園にもう無いかとあちこち見渡しながら二人はウンスの部屋に入ろうとしていたが、ヨンがふと足を止めた。

「・・・そういえば」
「ん?」
「先程から何か考えている様でしたが、それは良いのですか?」
「・・・何か?・・・あぁ」

するとウンスの口がもごもごと口篭り素知らぬ方へと視線を向けてしまった。

「・・・何か?」
「え、いや、・・・別に何も」
「・・・心配事がありましたら、先にそれを済ませてからの方が良いかと思いますが」

自分が住んでいた土地の想いならヨンは何をする事も出来ないのだが・・・。

「・・・ち、違うわよ。チェヨンさんは前はあまり動く人じゃなかったと偶に聞くから・・・大丈夫なの?と・・・」
「はい?」

――大丈夫とは?

ウンスの話の意図がわからずヨンの眉が寄せられていく。

――・・・これは言いたくないなぁー・・・。

恋愛経験が乏しいウンスにさえ他人のプライベートを掘り下げ聞き出す事はしたくない。
明るい話なら進んで聞きたいが、雰囲気的に暗くなる事は理解しているのだ。

「ま、まあ、歳も取れば色々あるのが人間だから・・・」
「はあ、・・・で?」
「だから、チェヨンさんを心配していたのよ・・・ウンッ」
ま、ま、それは置いておきましょう!

ウンスが扉を開け中へと促そうとすると、いきなり扉が動かなくなった。


「・・・イムジャの先程からの考え事は俺の事だったのですか?」
「え、え?まあ、そう、かな?」

「・・・・・」

間近で聞いて来るヨンに少し身体を離し、肯定するとウンスの顔を見ていたヨンは少し間の後、大きく頷いたかと思うとウンスの部屋にズカズカと入り、棚の上に置いていた笠と羽織りを素早く取り戻って来た。

「さ、市井に行きましょう」
「は?」
「雨も後に止むでしょう。止まなければおさまるまで店にいれば良い、さぁ、早く」
「え?」

グイグイとウンスの背中を押し薬草園を出たヨンはその勢いのまま典医寺をも出て行く。

「・・・何だぁ?」

引っ張られる様に連れ去られたウンスと真っ直ぐ前を向き歩いて行ったヨンの様子を薬員達は唖然と見送っていたのだった――。





「・・・はあ、そうですか。報告ありがとうございます」


帰って来たチャン侍医は報告を受けこめかみに手を当て長いため息を吐き出した。

疲れたと椅子に座った途端にそんな報告。
ウンスが見当たらないと少なからず探した自分が何故か情けなく感じるのは気のせいか。


――言わない。
そもそも、自分はそういう人間では無い。
王宮の医員になる事への覚悟を忘れた訳では無く、生涯この地で生きると決め高麗に来た。

だからか、ヨンの気が直ぐにわかるのだろう。

離れたいと過ごしていた彼から今は違う空気を感じている。

「あの、チャン侍医?」
「隊長なのだから暫くしたら戻って来ます。私は書き物がありますので・・・」


そう言いチャン侍医は書斎へと入り扉を閉めた。
閉める際、
まだその中からは匂い袋の甘い香りが漂っていた――。




㉞に続く
△△△△△△△△

凄いお久しぶりですのこの二人。
あ、何かいきなり元気になったヨンがいる。
という・・・。
ちょいちょい前の話のも載せていくかと。



🐥🐥🐥🐥🐥
年末に向けて仕事も中々忙しくなってきましたよ・・・🥲
それでも、クリスマス話をどれかで書きたいな。
🐥🐥🐥🐥🐥







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年末歌謡祭が沢山❣️楽しみ!