あの場所でもう一度◇(15)
ふと気付いたのは2人で夕食をし、他愛無い会話をしている時だった。
どうしてそんな時に?
思い出した自分にも呆れてしまうが、考えたらとめどなく溢れ逸らそうとしても戻って来てしまう。
2人で立ち寄った何気無い定食屋。向かいに座ったウンスはにこやかに話しながらも手を動かし食べ物を口に運んでいる。
「へぇー、ジムに行き始めたの?」
ヨンが最近再び通い始めた事をウンスに話すと、時間は大丈夫なの?と不思議そうな眼差しを向けながらも凄いわね、と褒めてくれた。
「でも、どうしてまた始めたの?」
「・・・最近筋肉が落ちた様な気がしてね」
言葉を出す迄に若干の遅さが出たが、ウンスはわからなかった様だ。
――いや、今まで自分でもはっきりわかっていなかった。
あぁ、そうか。と気付いた途端、
ジムに通う事をウンスに話した自分に後悔し今の話は無かった事にして欲しい、と思わず口に出しそうになっていた。
いや、違う。
本当ははっきり言ってしまえば良いじゃないか。
だが、自分より彼女の気持ちを優先したいという感情で喉元まで上がったものをヨンは飲み込んだ。
「でも、今日はウンスさんがいるから沢山食べようと思います」
「うふふ、ではどうぞ」
「ありがとうございます」
ウンスが酒瓶を差し出し空になったヨンのグラスに注いでくれ、ヨンは嬉しくて自分もとウンスのグラスにも入れた。
ウンスが笑い場が明るくなる。
これで良いじゃないか。
酒や食事を間に挟んで取り留めなく交わす会話は
仕事の疲れを癒すには充分な時間だった――。
――ウンスのご両親に会ってから1ヶ月。
ヨンは考える。
別に1ヶ月に拘っていないし、何ならウンスと出会って付き合いを始めて既に1ヶ月は過ぎているのだからそこで悩む必要は無い。
始まりがお互い毛嫌いした状態だった為、色々誤解をしていたが騒ぎ後は気持ちを伝え合い恋人という立場にまでなった。
昔、メヒと付き合った時に比べると強欲な感情が自分にあったのかと驚いてもいる。
誰かと出掛けるのでさえ許せないと思い、追いかけた事が既に独占欲丸出しなのだと周囲にはバレてしまった。
でもそれで良いと思う。
だって、自分とウンスは恋人同士なのだから。
しかし――。
色々動き心騒がせているのは自分だけで、ウンスはただ何時も通りに過ごしているのだ。
その間、騒ぎに巻き込んだのも自分。
怪我をさせてしまったのも自分が原因。
イ医師との共通の過去が悔しくて突撃したのも自分。
以前ウンスは気にするなと言ってくれた。
その言葉で少なからず救われ、更にウンスに対して深く考える様になった。
「大丈夫?足元気を付けてね」
ふらついたヨンに気付いたのかウンスが心配しながらゆっくりと歩き出す。
粗方食事も片付き話も尽きた所で2人は店を出て家路へと歩き出していた。
お互い飲むつもりだったので車は無く、ではタクシーで早く送る気も無くてぽつりぽつりと会話をしていると、ウンスがあぁ、そうだと声を上げた。
「週末までクリニックで研修があるから、夜遅くなってしまうの」
「じゃあ、土曜日はどうですか?」
「うーん、どうかしら?」
「何かあったら連絡下さい」
「ええ」
――無ければまた2人で出掛けましょう。
ヨンの言葉にウンスがにこりと微笑んだ。
やはり、この笑顔が自分は好きなのだと改めて感じる。
ではまたね、と手を振りウンスは駅へと入って行く。
ヨンも片手を上げ暫く手を振っていたが、
彼女の姿が見えなくなると手を直ぐ様下ろし――、
「・・・酔ってないんだけどな」
はぁー。
――小芝居をした馬鹿な自分にうんざりする。
俯いたヨンの瞳は夜のせいか、
より暗い影を落としていた――。
(16)に続く
△△△△△△
久しぶりの更新であの場所からです。
これもまだ途中でしたからね。
また何一人で悩んでんのか。