![](https://stat.ameba.jp/user_images/20230916/20/simrst/90/d9/j/o1076033015338855473.jpg?caw=800)
誓約恋人㉘〔最終話〕
三日経ってもチェ製薬会社の話題がメディアで流れ続け、お客もまた店に来て繁盛している。
普通の女性が財閥入り出来た話題性と実はヨンとウンスのご先祖の繋がりを結び付け、
『まるでドラマの様だ』と盛り上がっている。
それに加え、ヨンの顔が俳優なみに美形でもあり何処かの事務所がスカウトしに来たとかで――。
「あらあら、私には来なかったわねぇ・・・」
ムスッとするウンスを見て、
『何を張り合っているんですか?』
とスタッフ達に呆れられてしまったが、どうやらウンスに話に行く事はチェ家から強く止められているのだとスタッフ達は話した。
「チェ家では無く、多分チェ氏の圧がスカウト等に効いているのだと思います」
自分の恋人が美しい事を誰より知っているヨンは、スカウトだモデルだの誘いがウンスに行かない様チェ家の名前を使い抑えているのだという。
「あぁ、でもチェ氏が“もしクリニックの宣伝になるのならモデル等してみても良いとは思う”と言っていましたが・・・?」
「何それ?しないわよ、そんな事」
今でさえユ家のご先祖様があの夫人だと知られ、何故か女性客が異様に増えたのだ。
彼女達が言うには、
『有名な偉人に見初められた夫人といいユ先生といい、きっと幸運を持っているに違いない。
私達もそうなりたいのです!』
「・・・」
――・・・縁起良いものにされてしまったのだろうか?
まあ、いいか。
商売繁盛は良い事なのだから。
「ありがとうございます。そう思って頂けるのはとても光栄です。
外見だけでなく内面も美しくなりたいと願う人のきっかけになれる様、私達もお手伝いをしていきます。それにはまず――」
「チェ社長、ユさんのクリニックが幸運のパワースポットとして人気なの知っています?」
部署内にいたトルベにそう声を掛けられ、ヨンは何?と目を丸くした。
「・・・パワースポット?何だそれ?」
「チェ社長、婚約者なのに知らないんですか?女性の客が出逢いの運が上がるとクリニックに通っているとか」
「それは何の情報なんだ?」
「いや、ネットや口コミで書かれていますが・・・?」
そう言われヨンは急いでウンスのクリニックの評価を探し、幾つかの口コミにも目を通した。
すると、ウンスのチェ家との縁談や先祖があの夫人だった事、一般家庭の女性がチェ氏に選ばれた事がシンデレラストーリーに拍車を掛け同じくなりたいと希望する女性のコメントやクリニックに通い良い出会いがあったコメント等が50を超えている。
「・・・あぁ、そう?」
いまいち意味がわからないヨンはきょとんとその文面を読んでいたが、横からトクマンが羨ましいと声を上げた。
「いいなぁ、俺も通ってみようかな・・・」
「あ?行ったら殴るからな」
ヨンの低い声に“恋愛運を上げたいだけなのに・・・”と内心ぼやいたが、トクマンは頬を膨らませるだけにした。
「出会いも何も俺とウンスは幼なじみなのだが・・・」
「それでも、ドラマの様な展開に他の人が夢を見たのでしょう」
帰って来たチュンソクも笑顔で、クリニックと化粧品店の売り上げが良いのは喜ばしい事だと話し出した。
どうやらチュンソクはウンスを認めているらしく、
『チェ社長の家柄や外見で態度を変える女性で無いのが素晴らしい』
とヨンに話し、詳しく過去を知らないチュンソクにヨンは『俺が馬鹿な事をしてウンスが許してくれただけです』とは言えず、ただウンスは良い女性だからとだけ返したのだった。
週末に2人はウンスの実家に向かい自分の婚約者として、そして後にはチェ家の一員として迎え入れたいとヨンは頭を下げた。
驚くだろうか?と不安に思ったウンスだったが両親はにこやかに了承し、ヨンに末永くよろしくお願いしますと返事をして来た。
ウンスもだが、ヨンもすんなり了承された事に戸惑っていると母親は実はと話し、
“ヨン君のご両親も訪問されて、どうにかウンスを頂けないかと頭を下げて来た”という。
「ええ?」
唖然としたヨンにウンスの母親は苦笑し、
「ヨン君には最近まで婚約者がいたでしょう?でもずっとウンスを好きだったと聞いて、家の掟で貴方を苦しめてしまった、ウンスさんにも悲しい思いをさせてしまったと自分達の至らなさが原因だとお話していたわ」
「・・・そんな事は・・・」
しかし、長年苦しんだのは事実でヨンが口篭ってしまうと隣りにいたウンスがヨンの手を握り、
「でも今は私達は幸せだから、もう気にしていないわ」
そう言い穏やかな笑みを向けたウンスを見つめていたヨンも両親に向き直ると、そうですと言葉を出した。
「今はウンスと一緒にいますし、これからもいれるので・・・両親を憎む事は無いです」
今迄も両親にでは無く、何時から出来たのかわからない決まり事を恨んでいただけだとヨンは話した。
両親は素直で真面目故にそれに疑問を持つ事が無かったのだろう。そう考えれば自分が異端なのだとも彼は話し、
それにウンスや彼女の両親は笑い、
「大丈夫よ、ユ家もあまり真面目な人達では無いし、ウンスなんて頑固者だから」
「はあ?」
けらけら笑う母親を睨むウンスを見てヨンは、
なら良かったと漸く心からの笑顔を見せた。
あれから正式にチェ製薬会社のHPにも載せ、国内外に通達をしたのだがそれが他の会社に伝わり、利用者に伝わり元々先にメディアで放送されていた事でウンスのクリニックに影響が出たのだと思う。
――・・・良い方に向かっているのなら。
とはいえ、それはそれでヨンの中でもやもやが沸いて来る。
「変な客も増えるかもしれないからな・・・」
「そう言って同棲を始めたんではないのですか?」
「う・・・」
「良いではないですか。自分の婚約者が商売繁盛しているのだから」
――あまり束縛すると後々何かに響くかもしれませんからね。
「・・・」
チュンソクの最後の言葉に撃沈し、
ヨンはデスクに突っ伏したのだった――。
だが――。
「しつこい!」
「いや、心配で・・・」
「結婚式も婚姻届も半年後と決めたでしょう?私だってマンション解約やクリニック名義変更にも時間が掛かると伝えたと思うけど?」
「・・・」
「それを言うんだったら、貴方最近テレビ出演多くなってない?」
「え?」
テレビ出演というよりは国内発信の動画サイトに出て化粧品の紹介をした事を思い出し、ヨンは腕を組んで考え出してしまったがその反応にウンスは拗ねた表情を向けて来た。
「貴方だけ自由にして、私には制限があるのは良くないと思うのよね。まだ結婚まで時間はあるし私はユとして色々仕事をしたい訳で・・・」
「その間に危険な事が起きたら」
「だから、無いって。私の後ろにはチェ家が付いているって皆理解しているのだから」
「いや、うーん、しかし」
「あのー!」
「もう私達帰っても良いですか?閉店作業も掃除も終わりましたから」
「あ、はい」
2人はハッとし周囲を見渡すと、呆れた顔を向けているクリニックのスタッフ達の存在に気付き言葉を止めた。
「では、ユ先生、チェ氏お疲れ様でしたー!」
「お先に失礼します!」
「あ・・・お疲れ様」
「・・・お疲れ様です」
もごもご言う2人に対しスタッフ達は元気に挨拶をするとさっさとクリニックを出て行き、
いかにもこの空間にいたくないと言わんばかりな様子に2人の勢いも削がれてしまった様だった。
「・・・帰ろうか?」
「そうね・・・」
漸く落ち着いた2人はわたわたと自分の荷物を纏め始めた。
「あの2人の会話を聞いている此方が恥ずかしいんだけど」
「お互い単に焼きもち焼いてるだけじゃない、あれ気付いてないのかしら?」
「多分気付いてないわね・・・と言っても、帰る場所は同じなんだから次の日には元に戻っていると思うわ。
とりあえず私は仲直りしているにフラペチーノを描けるわ!」
「え?私もそっちにアップルパイを」
「えー?2人共?意味無いじゃない・・・。今日寄って行く?新作出たんだけど」
「よし、行きましょう!」
賭け事はあの2人には意味が無いだろうと、さっさと中止にして3人は期間限定のフラペチーノを買いにコーヒーショップに向きを変え歩き出したのだった。
叔母さん曰く、
「別に予定が早ければ早い程都合が良い。それだけお前達の子供の顔が見れる日が早まるだけなのだから」
「・・・」
内心恥ずかしいと思いつつ挙式を早めたいと話すヨンに叔母さんはさらりと返して来て、両親からも似た様な言葉を貰った。
ヨンとしては嬉しかったが、それまでにウンスを何度も説得し早めてくれと頭を下げた事は秘密である。
ヨンとウンスが迎えた日は、柔らかい陽射しが降りそそぐ美しい日だった。
空は真っ青の中に少しだけの雲、見下げれば青く透き通った海というヨンの大好きな色に挟まれ、傍にはずっと望んでいたウンスの真っ白なウエディングドレスに身を包む女神の様な姿に幸せ過ぎて胸が苦しくなり、彼女を見る度に身体が止まってしまう。
「緊張してるの?」
そんなヨンに横に立つウンスがとうとう心配そうに声を掛けて来た。
「していない」
「どうしたの?」
「ウンスがあまりにも美しくて」
「ぐ。それはもういいって・・・」
実はヨンのその言葉はドレスを選ぶ時から聞かされ、当日もチラリと見ては小さい声で“嬉しい”とウンスに話し掛けて来る。
緊張していたウンスだったが、ヨンの相変わらずの様子にやはり彼は彼だと納得している自分がいた。
自分と彼は一言では語り尽くせない経緯の末に、結婚という誓約を迎え10年前の自分は想像もしていなかった事だろう。
結婚式を早めた後はヨン側もウンス側も色々予定変更し、忙しく動いていた。
その中でふと耳に入れた事はサラは何時の間にかチェ化粧品店を辞め、違う会社に就職していたとの事だった。何かを調べていたらしいのだが、ヨンとウンスの仕事が右肩上がりで衰える事は無く報告する物が無くなったからだとも話が出たが、ウンスの中ではサラはきっぱりとヨンを諦めたのだろうと感じた。なので、結婚式にも出席はしていない。
熟(つくづく)あの女性は頭が良く自分を持っている人だとウンスは思い、自分がいなければヨンも気に入っていただろうという恐れを感じた人でもあった。
そしてメヒさんだが、彼女はアメリカに帰り向こうにいる母親と住む事になったという。ただ母親は普通の家庭故に彼女がその生活に耐えられるかは謎だとヨンの叔母様は話し、
『まあ、今までが恵まれていたのだと理解して生活すれば苦しくはないとは思うのだがね』
彼女には国内に叔父もいるから帰って来ても苦労は無いとの話にそれ以上聞く事はしなかった。
彼女にも違う人生があり、幸せになれる権利もあるのだとウンスはそれだけを願った。
「上層部はすっかり大人しくなり、本社に不満を持つ者はアメリカ支社に行きました」
アメリカ支社に行ったからといって叔母の目が光っている訳だが、本社にいるよりは羽根が伸ばせるのかもしれないとヨンは話し、どうやらサラの父親もアメリカ支社に転勤したらしい。
両親との意見も食い違って来た事が決め手だったのか、はたまた娘が化粧品店を辞めたからなのか理由は不明だが重鎮の彼がいなくなると一気に上層部は静かになったという事だった。
「イ部長に付いていたイ氏は若いながらに聡明な男で、若い社員達が苦労しない様にと社内でも間に入っているらしい。
・・・どうやら、彼はサラさんに惚れている様で頑張ってアタックしているみたいだ」
おまけの話のが気になったが、ヨンの製薬会社も暫くはいざこざが起こる事は無いだろうとウンスは安堵した。
「――では、指輪を・・・」
2人の前に立つ神父に促され、ウンスとヨンは向かい合い彼の手が優しくウンスの指に触れた。
何度も触れられていたが今日は心做しか微かにぎこちなくも感じウンスは小さく笑い、ウンスが笑った理由を理解したヨンは小さく咳をする。
「・・・少しは、緊張しています」
「・・・そうね、私もだけど」
「ええ」
ふっとヨンから吐息の様な息を感じウンスが目線を上げると、ヴェール越しにヨンが微笑んでいる顔が見えた。
「・・・俺のわがままを何時も許してくれてありがとう」
「・・・」
「・・・俺は何時もウンスに許されてばかりいる」
「・・・約束したでしょう?」
「え?」
「私とクリニックの面倒を一生見てねって」
――・・・本当は、“責任を取ってね”だけど。
同じだから大丈夫だろう、うん。
ウンスはにっこりと三日月形の笑みを浮かべヨンを見つめる。
「あ、はい」
再び惚けてしまったヨンを突き、ウンスも彼の指に指輪をはめるとヨンは手を強張せながらもウンスのヴェールを捲り、一瞬ちらりと客席に視線を向けたヨンにウンスはくすりとなる。
今更ながらに彼も見られる事が恥ずかしいと思うとはと可笑しくなった。
親しい人々に祝福されたこの上なく幸せな結婚式。
会場は海外でも高級ホテルでも良かったが、何故かウンスとヨンは江華島にある小さなレストランのガーデンテラスを選んだ。
ここで見つかった壺が2人を助けたからか、単に景色が良かったからかはわからなかったが穏やかな雰囲気が2人の心に染みたのかもしれない。
両親や新旧入り交じった親しい人々からの祝福の言葉とこれでもかという程に花びらを浴びせられたが、
ウンスは白いタキシード姿のヨンに顔を近付けそういえばと言いヨンが不思議そうに屈み込む。
「ずっと言っていなかったけど、ヨンてイケメンよね。私、イケメン好きだから」
「ッ」
途端顔を手で覆ったヨンにウンスが隠れていない耳を見ると、見た事も無い程に真っ赤になっている。
「あはは!」
「ウンス、今言わなくても!」
大きな声で笑い出したウンスとヨンの声に、周りは不思議そうな顔になった。
私達はこれで良い。
色々な事があったけどそんな時間も含めて自分達は此処に辿り着いたのだと思う。
かわりに今後何があっても、多少の事では揺るがない自信が出来た。
周囲がご存知の通り2人はまだ未熟だけれど、
2人で歩いて行けたらきっと最強で最高な夫婦になれると思っている。
「・・・と、いう訳でこれからもよろしくね、ヨン」
「ん?え?はい!」
突然のウンスの声に慌てて顔を上げたヨンの頬に、
ウンスはそっと唇を寄せたのだった。
誓約恋人―終わり―
――――
ここまで読んで下さり本当にありがとうございました🌺🌺
ジグザグと似てでも少し違うドタバタな2人でしたが、無事挙式まで辿り着きました!
結局は心が広いウンスさんなんじゃん?的な感じもしますがね笑
挙式場所は江華島と決めておりましたので、
そこも書けて満足です♥️☺️
とりあえずこの2人は末永くお幸せにーですね🌸