数日経って。
少し前の宮殿内の騒がしさも無くなり、色々憶測の無い噂話も落ち着いていた。
だが、隊長の想い人は一体誰だったのか?
市井まで下りていた理由ははたして妓楼に通っていたからなのか?
そんな疑問は残っていたが、女人ものの手巾を触るヨンの姿をすっかり見なくなっていた為に、その真相さえわからずじまいで噂さえも消えそうになっている。
宮殿内の囁かな楽しみでもあったそんな噂話を残念がる女官達は、本人に聞けないのなら別な人達から聞いてみようか?そんな思惑を含ませながら彼女達は典医寺へとやって来た。
しかし。
「・・・さぁ、知らないわねぇ」
医仙もまたわからないと言う。
近くにいたチャン侍医に視線を向けると、
「貴女達は何を聞きに此方にいらしたのでしょうか?」
と眉を下げるだけだった。
結局、迂達赤隊長の戀話は今だに判明していない。
ただ周囲が見掛けるのは、以前より隊長が頻繁に典医寺に向かう姿を目撃するという事だ。
故にこの二人が知らない訳がない様に感じるのだが、中々目の前の壁も手強そうだと女官達は思うのだった。
「・・・わかるけどねぇ。そういう他人の恋愛話が知りたいとか」
「へえ・・・他人の」
「へ?」
典医寺の端に作られた、小さな小屋の前で後片付けをしていたウンスは背後からの声に慌てて振り返った。やはりそこにいたのはヨンで、腕を組んでウンスを見下ろしている。心做しか微かに口端が上がっているのは気のせいだろうか?
「・・・何笑ってんの?」
「笑っていませんが」
彼が今この状況を面白がっているのだけはわかっている。まだ諦めていない女官達の追求を終息出来るのは、正に彼だけだからだ。だが、皆が問えないのはこの無愛想な男のせいであり、それを自覚している彼は珍しくこの状態を楽しんでいる様だった。
何故なら。
「別に俺は言っても良いのですが」
「止めてよ!『わー!私そういうの好きよー!』とか言って、話に参加しちゃった私が馬鹿みたいじゃない」
それを聞き、ヨンは腕を組んだまま肩を揺らし笑い出した。通り過ぎて行く薬員が驚きながら見ているのだから、そんな姿も珍しいのかもしれない。
一頻り笑ったヨンは息を吐くと、少しウンスに近付き少しだけ首を傾げて来たが、立派な体躯の男の筈なのに、そんな仕草が少し可愛く見えるのは何故なのか?
何?とウンスが眉を顰めて見上げると、ヨンは今度ははっきりと口角を上げた。
「以前手巾を買った店を覚えていますか?」
「店?えぇ、覚えているわ」
「今度は俺が護衛として付きますので・・・行きませんか?」
「市井に?いいの?」
それは甘い誘惑だと思うのに、滅多に宮殿から出れないストレスで思わず食い付いてしまう。
しかしウンスが自由に使えるお金はそんなに多くなく、診療所で働く治療代として王様から幾らか頂いている。
最初にお金は少しで良いんです、
なんて言った自分を今更後悔しているのだが。
「俺が出しますので、気兼ね無く買って構いません」
「は・・・」
「は?」
「い、いえ、何でも無い!い、いいのかしら?」
「ええ」
小さく笑い頷くヨンを見上げていたが、ウンスは持っていた籠に目線を落としてしまった。
――初めて男性から奢って貰うかもしれない。
いや今まで無い訳では無かった。だが、それは自分が甘え可愛い女を演じ強請るという、プライドを捨てた行動だったと自覚している。男の下心の更に上をいってやると頭を使い、可愛い女を演じ、そんな自分に嫌悪感を抱き途中で止めてしまう。そんな繰り返しで、結局は男性だって拒否をして来る。
自分は何時からお金さえあればと考える様になっていたのか・・・。何とも可愛く無い女だ。
「・・・私、本当は買い物大好きなの」
「でしたら沢山買って下さい」
「・・・うん」
鼻の奥がつんとしてしまったのは、
きっと籠の薬草のせいだろうウンスはそう思う事にした。
㉝に続く
△△△△△△
前はテマン君だったね。
ヨン氏、体面気にせずアプローチをする方向に向いたそうです。(*´`)アラ☆
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