エントランスホールで女神は微笑む⑩
ウンスは機嫌が悪いまま1日の勤務時間を終了した。
周囲は昼間まで気分良く働いていた筈だが?と首を傾げていたが、そんな事など構わずウンスは荒々しくロッカーに自分の白衣をしまうと更衣室を出てさっさと玄関に向かって行く。
「今日は彼、迎えに来ないの?」
「来ないです。親睦会に行っていますので」
通り過ぎにパク主任が尋ねても、拗ねたウンスはそう答え一人出て行ってしまった。
「どうしたのかしら?ユ先生?」
「・・・また、あの人達絡みでしょうかね?」
シムはいい加減にして欲しいと男性達を恨んだ。
しかし、ウンスはバス停に向かいながらスマホを操作していた。
それを耳に当てると――。
『――電源を切っているか、電波の届かない・・・――』
「・・・ほほぅ?今から繋がらないと?」
時刻はまだ20時だというのにチェヨンの携帯は既に繋がらない状態になっており、益々ウンスのこめかみに血筋マークが浮き始めていく。
高級ホテルだと?最上階では無く、地下だと?まるで見つからない様にしている様ではないか?どんなパーティーなのかしらねぇ?
繋がらないスマホをジッと睨んでいたウンスだったが、
一瞬スッと目を細め、
再び画面をタップし始めた――。
「はあ、ただいま」
とはいえ、声を出しても誰も返事する訳でも無く、チャンビンは廊下の照明を付け靴を脱いだ。
何時ものルーティンで鞄を廊下に置き、そのまま浴室に向かおうとすると鞄から着信の音がしたが、無視して浴室に入って行く。しかし、服を脱いでいると再び掛かって来て顔を顰めた。
「誰だよ、執拗いな・・・」
鳴り止んだ音に動きを止め待っていると、また着信音がする。
「何だ?バグでも見つかったか?」
しつこく掛けて来るのは同じ部署しか考えられず、今開発中のソフトの件かと仕方なくスマホを取り出し耳に当てた。
「・・・何?ユンさん、バグでも見つかりました?」
チャンビンの不機嫌な声に向こうも、落ち着くだろうと思ったが――。
『・・・・は?』
「ッ、?!」
女性の、しかし、チャンビンよりも更に不機嫌な声が聞こえ、その声にチャンビンはスマホを落としそうになった。
「い・・・、ユさん?!」
まさかウンスが自分に掛けて来るとは思っていなかった。最近ヨンは彼女と連絡を取り合える様になったと嬉しがっており、自分の役目はもう無いだろうと考えていたからだ。
――何かあったのか?
今日はヨンは親睦会でウンスを迎えに行けないと落ち込んでいたのだ。つまりは今ウンスは一人という事で。
「・・・何かありましたか?」
また何かあったのか?不安になり尋ねたが・・・。
『“何?”・・・今日、彼は親睦会よね?』
「・・・は?はい・・・」
『チャンさんは招待されていないの?』
「あ、ああ、私はそういう場所は苦手ですので、行くのは・・・」
結局今日になってから欠席の連絡をし、殆どのスタッフも断っていた。煌びやかな空間で自分達が話す事等何も無い、というのが全員の意見だったのだ。
『・・・と、するとチェヨンさんには誰も付いていないって事ね』
――・・・あ、怒っている。
スマホの向こうで小さく笑うウンスの声に、
チャンビンは何か言葉を発し、
更に彼女の怒りを増してはいけないと咄嗟に悟った。
『・・・・1時間以内に今から言う場所に来て』
――必ずお洒落な格好で来なさいよ。
わかったわね?
そう言いウンスの電話は切れた。
「・・・・・・・・え?」
ウンスの、
今までに無い威圧的な声。
最近、周りに振り回される事ばかりだ。
それもこれもチェヨンに会い、
記憶を蘇えさせられた事が始まりで、
悩んでもいたが、
しかし、
記憶の無いウンスやトギに再会出来たのも悪い事ではないと思っていた。
――だが、今回は、確実に嫌な予感しかしない。
「・・・あー、どうすれば?」
何故自分に?
本当に、何しているんですか隊長?!
上半身裸で立ち尽くしていたが、
我に返りスマホで時間を確認したチャンビンは、
慌てて浴室に飛び込んだのだった――。
ヨンはホテルに入り、エントランスロビーの受付に向かうと送られた招待状を見せた。
受付スタッフはヨンの招待状を確認し、ではあちらにどうぞとパーティー会場に向かう通路を教えて来る。
〘フロアに入る時は、スマホの電源を切るかマナーモードにするなど、御協力をお願い致します。〙
「ん?」
会場入口前に立て掛けてあるパネルを見たヨンは、ポケットに入れていたスマホを一度確認すると、画面を見てもウンスからのメール等は来ておらず、小さくため息を吐いた。
「・・・親睦会が終わったら、一度掛けてみるか」
まだウンスが起きていれば良いが・・・。
そう言い、電源を落としたのだった――。
――時刻は20時だった。
⑪に続く
☆☆☆☆☆☆☆
掛けたのと、切ったのは同時刻――。
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