蝶が舞う頃に④
「“いいなぁー”じゃねぇよ!とんでもない事だぞ?」
「?」
「歩けない医仙様の世話は誰がするんだよっ?」
「・・・だよな?そうなるよなー」
トルベの言葉にトクマンはやはりとため息を吐いた。
ちらりと見ただけでも、ウンスが一人出歩くのには数日は辛いかもしれない。だが、ウンスの足から靴を脱がせ見ていたチャン侍医の横顔を見て、トクマンは羨ましいやら、落ち着かないやらで慌てて兵舎に帰って来たのだ。
ウンスも医者だが、あの方はどうやらこの地の薬草云々がよくわからないらしくチャン侍医から学んでいる。自ら濾して作る事は出来ないだろう。
・・・と、いう事はチャン侍医はウンスのあの白く滑らかな足に触れるのか。
「わぁ・・・」
口を抑えトルベを見るトクマンと、何やら悩み出したトルベは先程とはうってかわり静かになってしまう。
チャン侍医も男で、女人の身体を知らない年でも無いだろうが、数年間見て来てはたして女に興味があるのか?とさえ思う程、女の影も出て来ない。妓楼は勿論行かず、女官とでさえ親しげな所を見た事が無い。
頭の中は医学の事しかないのか?という程話もつまらないのだ。
そんな男が女の肌を触っている。
・・・何か騒ぎが起こるだろうか?
「・・・あのチャン侍医だからな、何も起こらんだろうよ・・・」
「本当かぁ?」
「・・・・・」
何が?誰に対して?
言葉に出さなかったが、二人の胸内で広がる不安は何なのか?
しかし、
二人の予想通りになるのはあっという間で――。
診療所の診察の合間にチャン侍医はウンスの部屋へと向かっていた。
それは朝夕、または夜になってまで行く姿に噂が上がらない訳も無く。
「窓から見えた医仙様は羽織りを脱いでいて、下着のままだった」
「チャン侍医が甲斐甲斐しく湯浴みまで世話をしているらしい」
「深夜になっても出て来ず、朝方早くに慌てて自分の部屋に戻って行った」
「もう良い!」
チュンソクはうんざりとため息を吐き、報告をして来るトルベの言葉を制した。
何と馬鹿馬鹿しい話か。
しかも殆どが見てもいない話で確証も無い事ばかりなのだ。
だが、とうとうテマンまでもが何とも泣きそうな顔で近付き尋ねて来ていた。
「・・・トクマンが見たって。チャン侍医が天人を抱きしめて部屋まで連れて行ったて・・・」
「侍医は医者だ。・・・お前達がそんな事まで心配する必要は無い」
「だ、だって隊長が」
「隊長が、何だ?」
「・・な、何でもない」
「・・・全く」
だが、チュンソクもそれ以上はテマンにも言わなかった。
――最近隊長の様子がおかしいのをチュンソクも感じていたからだ。
天人を王命でこの地に留めてしまった罪は隊長自ら制裁を受けた。天人の情けで命を助けて貰い、きっとその時に隊長の考えも何かが変わった様だとも。しかし天人は攫われる様に王宮を離れる事にもなってしまった。
そこからだ、隊長の様子が変わったのは。
自分達に何も言わず宮殿から出た事に胸が苦しくなったが、謀反の疑いで尋問されそうになった隊長を牢から救ってくれたのもあの方なのだ。
再び天人が隊長を助けてくれた――。
チュンソクは思い始めていた。
――・・・隊長が連れて来た天人が違う者を慕う様になったら、
隊長は、
高麗はどうなるのだろうか?
チュンソクは嫌な想像にゴクリと喉を鳴らした――。
⑤に続く
△△△△△△△△
次はテマン君(隊士は最後よ)
過去編とヨン氏側が交互に入る可能性があります。
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