エントランスホールで女神は微笑む⑧
チャンビンは自宅に戻り、脱力した様に長い足をソファーからはみ出させ寝転んでいた。
――・・・まさか、トギがいるとは。
いや、いないと思っていなかった訳では無く、そこまで想像していなかったのだ。
そんな奇跡が重なるものか?とヨンとウンスに出会って考えていたのもある。
「・・・待てよ、とすると・・・」
他にも誰か・・・?
寝転んだまま腕を組み考えていると、ガチャリと廊下の方からドアが開いた音が聞こえ、そのままドアを見ていると、やはりリビングに入って来たのはチェヨンだった。
「・・・何だ?珍しいな、侍医がだらしなく寝ているとは」
「だらしなく?私だってくつろぎたい時もありますよ」
はぁとチャンビンがため息を吐くと、
チェヨンもまた同じにため息を吐き出し、何気にお互いの顔を見た。
「・・・週末の親睦会は一人で行く」
「あー、そうですか」
確か彼は各企業が集まる親睦会に今年は出ると言っていた。勿論チャンビンが勤めているIT企業も参加する事になっており、社員にも招待状が来ていたが行きたいと思わないチャンビンはユン氏に代表として行って貰う様と考えているが、煌びやかな場所が苦手という性格ばかりで今だ譲り合い状態なのだ。
それに、今回の主役は当然チェヨンだろうと会社内でも噂になっており、ある意味隊長も可哀想にとも思っていた。
――・・・一人?確か・・・。
「・・・あぁ、医仙は行かないと・・・」
「ああ。・・・おい、何時まで寝ているんだ?」
何か飲み物でも出せ、とヨンの態度が物語っている。
どうやら、ウンスに断られヨンの機嫌も悪くなってしまったらしい。
・・・が、自分だってそれなりに落ち込んでいるのだ。
起き上がらないチャンビンにヨンが眉を顰めたが、当の本人はくるりとヨンに背を向けた。
「・・・そんな気分では無いので、自分で用意して下さい」
「・・・全く」
ヨンは勝手知ったるという様に、キッチンに向かって行く。
ウンスの独立の話を聞き驚愕したが、
それよりもチャンビンは気落ちする事になり――。
シムの話が終わり、そういう事だからよろしくお願いしますと言い彼女は席を立った。唖然と今だ呆けているチャンビンに、再びシムは顰めた眼差しを送って来る。
だが、彼女の顰めた顔を見慣れているチャンビンはあの、と声を出した。
「何か?」
「・・・今、幸せですか?」
あの後、彼女はどんな暮らしをしたのだろうか?ちゃんと典医寺にいただろうか?チェヨンがいたのだから、無下にはされなかっただろうが彼は離れていた数年もあると言っていた。
では、その間典医寺はどうなったのか?ヨンから聞こうと思えば聞けた筈なのに、今迄何故か聞けないでいた。
彼女の様子から記憶がある様には見えない、だが、せめてあの後穏やかに過ごして欲しいという願いはあった。今医者にもなりウンスの傍にいるのだから、きっと徳を積んだ生涯だったのだろう。
――・・・今の人生が幸せなら、それで良い。
チャンビンは、ただそれだけが気になっていた。
シムは、はぁ?と片眉を上げチャンビンをじろりと見ていたが、
「えぇ、私は恋人もいるし、そのうち彼の事業を応援するので病院を辞めるつもりですが?」
「え?辞めてしまうのですか?」
医者の道はトギには合っている、そう思っていたのに――。
驚くチャンビンにシムは不思議そうに首を傾げている。
「私には将来設計がきちんとありますので。だけど、ユ先生の一番の夢は独立だった。なのに、貴方達に関わって色々大変な目にあうし・・・。はっきり言って私、貴方達みたいな人達あまり好きではないんです、でもユ先生が彼を信用している様だから黙っているだけで。
ユ先生にまた何かあったら、彼も貴方も確実に訴えるつもりでいます。
それを忘れないで下さい」
――大企業の息子?IT企業?だから何よ?
彼女の言葉にチャンビンは再び唖然とし、今度はそんな彼を放置しシムは店を出て行ってしまった。
暫く放心していたチャンビンだったが、ハッと我に返り振り返ったが既に彼女の姿は無く。
シムの言葉に何故か傷付いている自分がいた。
「・・・凄く嫌われていないか?」
確かにウンスには迷惑を掛けてしまい、怪我までさせてしまった。大変申し訳なく、何か不便な時は必ず助けるとも約束をしている。医者として小さな傷でさえ致命傷になるのは、チャンビンは十分にわかっているからだ。
やはり、同業者の彼女には自分達のせいでウンスの人生が変わってしまう不安があるのだろう。
「・・・参ったな」
再会した仲間は、自分達を毛嫌いしているとは――。
うーんとソファーに寝転び唸り出したチャンビンを一瞥し、ヨンは自分で入れたコーヒーを持ち普段チャンビンが座っているパソコンデスクに向かい椅子に座った。
「・・・ふん、名簿は出来たのか?」
ヨンの問いに漸くのそりとソファーから身体を起こしたチャンビンは、少し乱れた長めの前髪を手櫛で掻き上げ直すと。
「・・・勿論です」
返事を聞き、
ヨンはそうかと口角を上げるとコーヒーを口に運んだ――。
⑨に続く
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拗ねた隊長と、凹んだ侍医。
週末は隊長一人よ・・・。
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