君に降る華(18)
宿屋を出てからどの位経ったのか――。
馬車の振動でおしりが痛くなり、ウンスはうんざりし始めていた。
だが、正面にいる王妃は慣れた様子で何も言わず静かに座っている。違う国のお姫様という事は言葉が通じないだろうか?と疑問に思ったが、馬車に近付いて来た隊士の誰かに幾つか質問をしており言葉は通じる様だとわかった。とはいえ、ウンスが話し掛けても一言二言しか返してくれず王族とはそういうものなのかとため息を吐いてしまう。
「お腹が空いたな・・・」
朝も急いで宿屋から出た為に朝食さえ食べていない。しかも馬車に乗る前に食事休憩はあるのか?とチャン侍医に尋ねると無いと即答されてしまったのだ。
何も食べず、飲まずで半日馬車とは・・・
ぐったりとしているウンスを正面から王妃はジッと見て来る。あのお供の女性が実はスパイだったとヨンから聞かされ、初めは落ち込んでいたが諦めた表情になりそうかと返事をしていた。
・・・同じ国の人がまさか敵だったなんて辛いだろうに・・・。
「・・・真に天界から?」
王妃の声にウンスは項垂れていた顔を上げ前を見た。
「天界・・・ねぇ。チェヨンさん達はそういうけど、私も普通の人間なんだけどね」
「迂達赤隊長と親しい様だが・・・」
「数年前に会った事があるんです」
「前もこの地に来ていたと?」
「少しだけですが。でも会ったのはチェヨンさんだけでしたが」
そんなに頻繁に天界から来る事が出来るのか?王妃はその事が気になるのか興味深気に見つめて来る。
「・・・そこなのよねぇ・・・はたしてまた出るのかしら?」
木を倒したとヨンは言っていたが、山に行って自分は現代に帰れるのだろうか?
帰った所で病院の引き継ぎと、再び支援者を探す生活に戻るだけなのだが・・・。
すると馬車に誰かが馬を寄せたのか、再び外から声が聞こえて来た。
「あと少しで到着します」
「このまま入るのか?」
何処かで綺麗な服と、せめて化粧を直す時間が欲しいと言う王妃に外からは、
「申し訳ありません」
との一言で、離れて行ってしまった。
狼狽え始めた王妃を見て、ウンスは隣りに座り自分のバッグから化粧品を幾つか取り出したのだった――。
「王妃が着替えたいと言っているのですが・・・」
「これ以上は無理だ」
チュンソクの問いをすぐさま拒否し、ヨンはちらりと王妃の馬車を見た。
着替えると言ってもあの女人もいないのにどうやるのか?ユウンスが出来るとも思えないし、またそこで足止めになり敵に好機を与えかねないのだ。
空を見上げると日が真上から傾き始めており、ヨンはため息を吐き出した。今のうちに進まないと王宮に着く頃には暗くなってより危険な状態になってしまう。
それに、結局はウンスも危険な状況の中に置かれてしまっている。ヨンは王宮に着き次第ウンスを別な場所に避難させたいと考えていた。
・・・叔母上に言うつもりだった。
チェ家の財産だ屋敷だを管理しているのだから、近くに匿う家位用意出来る筈だ。
・・・チェ家の本貫でも良いが、あそこは宮殿から遠い。
自分が王宮にいるのに会えなくなるのは辛い。
ハッと気付くと馬車の中からウンス達の軽やかな笑い声が聞こえ、隊士達が不思議そうに視線を向けている。
それを一瞥しヨンはふと薄く笑い、再び顔を前に向けた。
「隊長、あれは?大丈夫なのでしょうか?」
「ユウンスだから、大丈夫だ」
「・・・はぁ」
そう言うとヨンは列の最前へと向かって行ってしまった。
・・・あの髪飾りの、女人なのだな。
チュンソクは光る天門から現れた麗しい女人をヨンが抱き締めた時に、あの髪飾りと虚ろな目でヨンが兵舎に戻って来た数年前を思い出した。
逃がしたというが、何処に逃がしたのかどの様に女人が去ったのか誰も知らない。ヨンが自分達の前でその話をする事も無く名さえ言う姿も見た事も無かった。
ただ雪が降ると時々山を見ては、髪飾りを握り締めている。
もしやその女人は既にこの世にいないのだろうか?と思った時もあったが、まさか天界からの使者だったとは。
誰かが見て見目が麗しかった話は間違いでは無かった。
あの髪色も肌も顔も見た事が無い。
「・・・妖魔、ねぇ」
チュンソクはそれも思い出し、苦笑をしてしまう。
ヨンが誤魔化す為とはいえ、その話をあの天の者が聞いたら怒るのではないだろうか?
「・・・まぁ、言うつもりは無いが」
見知った町並みを遠くに見つけ、チュンソクも自分の場所へと戻って行ったのだった――。
宮殿に着くと、鷹揚軍の数人が門前に立って迎えていた。
だが。
「実は・・・」
馬から降りたヨンは開いた宮殿内を見て眉を顰めてしまう。
――王様を迎える雰囲気では無い。
「とりあえず、中に・・・」
鷹揚軍の兵隊達は此方にと宮殿内に入る様に促し、馬車が中に入ると急いで門を閉めた。
「何故出迎えが無い?」
ヨンが尋ねると兵隊の一人がヨンに近付き、王様には聞こえない様に小さい声で話して来た。
「宣恵亭(ソネジョン)に集まっていた二十四名の重臣が、何者かにより殺されました」
ピクリとヨンのこめかみがひくつき、黙ったままぐるりと宮殿を見渡す。
開京を出る前にヨンがその重臣達から話があると言われていた。その話の内容は以前から聞いていた為またかと辟易もし、王様を迎えた後にと濁していたのだが――。
宮殿内でも犠牲者が出た事で、ヨンはふとその重臣達が危惧していた事が起こったのだと気付く。
――まさか重臣迄狙うとは・・・。
ヨンはある男の名が浮かび上がっていた。
重臣達がその者に対し、警戒していたからだ。
女官が小走りでヨン達に近付いて来ると頭を下げて来た。
「宣仁殿にチェ尚宮がお待ちしております」
「わかった」
ヨンは王様の馬車に向かい王様や王妃を降ろすと、
二人を迂達赤隊で囲み周囲に目を配らせた後、ウンスを降ろし始める。
「ユウンス、大丈夫か?」
「流石に腰が痛いわ・・・」
歩けるが足が痛いと言うウンスも心配だと思っていたが、すかさずチャン侍医が近付き男物ではあったが医員の羽織りをヨンに渡して来た。
「これをあの女人に」
ユウンスの服は奇異過ぎて何かと目に付いてしまうとの考えはヨンと同じだったらしく、受け取ったヨンはそれをウンスの肩に掛けた。
「ユウンスは何も心配せずに」
「何かあるの?」
「ええ、色々と」
疲れた様なため息混じりのヨンの言葉に、ここはあの高麗時代だったのだと改めて自覚してしまう。
「とりあえず大人しくしているから、大丈夫よ」
・・・とりあえず?
それよりも。
「ユウンスに会わせたい人が・・・」
「へぇ?」
――誰だろうか?
「宮殿に長年仕えている叔母上がこの先で待っているのだ」
「うんうん」
「叔母上に会って貰いたい」
――・・・・?
「チェヨンさんのご親族に会うの?」
「ああ」
ウンスの問いにヨンは少し恥ずかしそうに、小さく頷いた。
「・・・・・・・」
ヨンは王様達の集団に向かって行ってしまい、ウンスの傍にはチャン侍医だけが周囲から守る様に立っている。
「・・・何か、おかしな事言っていなかった?彼」
「チェ尚宮に貴女を会わせるのでしょう?特におかしな事は言っていませんが」
何が変なのかチャン侍医にはわからない。
「・・・あぁ、そう・・・・?」
ウンスは首を傾げながら、
王様達の集団に後ろから付いて行くのだった――。
(18)に続く
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