△△△△△△△△△△
ジグザグ(21)
「・・・・・」
「最初は患者かその家族か?と思っていたらしいのですが、患者が知らない情報もありこれは流石に内部の者だとなったそうです」
「・・・で?」
看護師は表情を変えずイ医師を見ているだけだったが、イ医師も肩を竦めながら話を続けている。
「最初は事務室に、次に人事部に、でもランダムにメルアドが変わるので複数では?とも言われてました・・・が、おそらく誰かが捨てアドレスを使い、送っていたのではないかと・・・私は考えまして」
そこで一旦イ医師は言葉を切り、チラッと横にいるヨンを見たが直ぐ看護師に戻すと、
何故か、
看護師はうっすらと笑っていた。
「一つは・・・ユ先生のクリニックのお客が使っていた物がありました・・・」
「フン、やっぱりね!
あの人、自分のクリニックのお客の情報を部外者に教えた訳ね?それは経営者としてどうかしら?」
「・・・・・」
笑顔で話す看護師の言葉を聞いて、ヨンは無表情のまま見つめていたが、何故この女がウンスのクリニックに行ったのか?
今になって漸く理解したのだった。
自分が疑われたとして、その情報をウンスが教えなければわからない。自分だと知られたとしても、ウンスの経営者としての素質も一緒に疑われてしまう。
そこまで考え、この女はわざわざクリニックに通っていたのだ。
目だけを動かし周りに向けると昼食時間というのもあり、かなりの数の職員達が自分達を見ている。ウンスを知りクリニックだって知っている職員だっている筈なのに。
「・・・・・」
ふぅと静かに息を吐いて落ち着けと自分に言い聞かせ、ヨンは拳を握り締めた。
だが。
「何を言っているんですか?貴女が他のメールで送って来たんじゃないんですか?」
イ医師はまだ淡々と話を続けていた。
・・・他のメール?
ヨンは今度は顔もイ医師に向けたが、看護師も眉を顰めて来た。
「そんな事・・・」
看護師の言葉に被せる様に、イ医師があぁ、と言い顔を上げた。
「実は私が間違えて、送信元の名前を人事部と打ってしまったんです」
「・・・?!」
意味がわかったのか、途端に看護師の顔色が変わっていき、顔を戻したイ医師は再び看護師を見つめた。
「送ったのは一つのメルアドにでしたが、色々なアドレスでメールが来ましたよ?“事務室”に」
イ医師が返信したのは、ウンスから教わったメルアドにだった。
『チェヨン医師についてもう少し詳細を教えて下さい』
しかし、返って来たのは複数のメールからだった。
「貴女は今日、自分も人事部に呼び出されると予想はしていた筈で、昨日急いでメールを送ったと思うのですが。スマホだったり・・・病院のパソコンからだったり。・・・送っていないですかねぇ?」
「・・・ッ」
人事部から今迄返信等無かったのに、ヨンが廊下で騒いだ事により人事部が気に止め始めた。
院内用スマホはメールは送れない。
だが、早く送らないと自分が優位に立てないかもしれない、
自分のスマホだけでは怪しまれない様に病院内のパソコンからもメールを送りそれは削除した。
「・・・とかね?」
イ医師が静かに話を続けているが、反して看護師の表情は強ばり始めている。
壁から離れたイ医師は何時の間にか来ていたテスが持って来たコピー用紙を手に取り、看護師を睨み付け。
「・・・そもそも、昨日誰からチェ先生が酷い状態だと聞いたのでしょうか?」
その言葉に看護師は、驚愕して口を開けてしまった。
――
「えー?ヨン先輩やっぱり帰っちゃったんですか?」
「少し仮眠室にいたみたいですけど。やっぱり恋人と何かあったの?」
外科のスタッフルームに来たキムはヨンを探しに来た様で、早退したと看護師達から聞くとはぁーと肩を落としていた。
そこに何時もヨンの近くに行く看護師達が近付き、やはり心配しつつも恋人とのトラブルか?と興味深けに聞いて来たのだった。
「あぁー、まぁ、何時もの事ですけどねぇ」
「でも今回は重症じゃない?指輪も無くなっちゃったのでしょう?ユ先生怒ったわよね?」
指輪を病院内探し回っていたヨンの様子はすっかり職員達に知れ渡っていて、女性陣もヨンを可哀想と思いつつ指輪を無くしたら流石にウンスも悲しいだろうと同情はしていたのだった。
「いや、指輪は漸く見つけたんですけどね」
「あら、本当に?それは良かったわね!」
では何故ヨンがあんなに落ち込み、ふらふらな状態なのか?
「ウンス先輩とヨン先輩の気持ちがね・・・。今回は少し拗れ過ぎなんで・・・」
――話し合いすら出来るのか?ですかねぇー。
キムが更に肩を落とし呟く姿に、看護師達は貴方迄落ち込まないの、と肩を叩かれ励まされていた――。
―――ほら、結局はこんな関係だったのよ。
何も言い返せなかった彼。
あの人にもそんな感情しかなかったのに、自分は愛されていると勘違いしていたのだわ。
ふと、トイレに入り自分のスマホの電源を付けると人事部から返信が来ていた。
――今日の事で彼を問題視して来たわね。
明日には自分も人事部から呼び出される可能性がある。
今日のうちに送っておかなくては。
トイレから急いで出ると、自分のスマホで出せなかったメールをスタッフステーション内のパソコンから人事部に送信をした。同じ病院内で、怪しまれる事はないかもしれないが内容を見られては困ると全て削除し、
部屋を出た――。
・・・なのに、今日自分が人事部に入り説明を始め様とすると、人事部長が微妙な顔付きになっていた。
「・・・何とも、あのチェ先生は少し変わっている様ですね」
「私は彼とは昔・・・」
「あぁ、昔?あれかな?ユ先生の時の事か?」
「はい?」
「いゃあ、あの話はもう良いかなぁ。ははは・・・」
何を言っているのか?
「私は彼と付き合っていて・・・」
「え?何時?」
「高校生の時・・・」
「何だ、高校生か・・・」
看護師はムカッとなり、彼は、と言葉を吐いたのだが。
「彼のユ先生に対する執念は怖い位だけど、猪突猛進とも言うね。・・・まぁ、周りが見えてないのがいけないのもあるが」
――何なの?私の話を聞かないの?
何故ヨンとあの女の話になるのよ?
何があったの?!
――
「・・・貴女は誰の話を聞いて動いたのか?」
看護師はハッとなり、顔をヨンに向けた。
「嵌めたわね?」
「嵌めた?俺が?お前がではなく?」
ヨンの表情はずっと無表情でわからない。
あの美容整形外科医はヨンとあの女の後輩で。
イ医師はコピー用紙をパタパタと振ると呆れる様に言葉を吐いた。
「人事部に確認しましたら、これが事実では無く名誉毀損にあたるなら復元ソフトでパソコンからデータを復元して良いと許可を得ています」
コピー用紙をヨンに渡しながら顔は看護師に向いている。
「また、ユ先生をも嵌めようとしましたね?」
彼女は全く関係無いというのに。
「そもそも、貴女は爪が甘いんだよ。
自分のスマホから捨てアドレスを作りそれでメールを働いている病院に送るだなんて愚か過ぎる。違う携帯でも使えば・・・まぁ、普通の人が何台も持っているなんてあまり無いので仕方ないんだろうが・・・。
・・・いい加減、自分の行動の異常さを自覚した方が良いかと思いますが?」
ヨンはコピー用紙の文面を読んでいたが、はっと鼻で笑い視線を看護師に向け、
「・・・女にだらしない。・・・ねぇ」
終始冷めた瞳で見つめていたヨンは口角を微かに上げた。
「あんな思春期の恋愛とも言えない事を・・・?
・・・心から愛する事が出来たのはウンスだけだ。・・・ウンスに何かするなら俺は許さない」
看護師も知っているあの仄暗い眼差しを受けつつ、正面にいるヨンはきっぱりと言葉を放って来た。
――お前なら、俺の捻れた精神はわかる筈だが?
こんなに書く程なのだから。
話を聞いていた職員達だったが、ヨンに対するメールが人事部に届いていると知っている者も何人かいて・・・。
――え?彼女が書いていたのか?
看護師に視線が集まり始めて来ると、焦りだした彼女は慌てて踵を返し去って行ってしまった。
「・・・まぁ、また人事部に呼び出されるのも時間の問題だな」
もう言い訳は無理だろう。
イ医師はやれやれとため息を吐き、ヨンの肩を叩いた。
「同情はするなよ?」
「は?しませんよ」
ウンスを傷付けた奴に等同情する訳が無い。
「・・・あぁ、そう」
それなら、何も言わないが。
(22)に続く
△△△△△△△△△△
キム氏また小芝居しとります。(演技上手いのね)
実際復元ソフトを使うのは全ては無理でしょうから、スタッフステーションだけの考えでお願いします。´-`)
🐧参加しております🐧
にほんブログ村