ジグザグ(6)
・・・やべぇ、あんな目付き見た事無え。
キムはヨンの眼差しを受け寒気がしていた。
アメリカから帰って来て更に大人の魅力を増し、病院内でも時々しか笑わず淡々と仕事をこなしていたヨンだったが、それでも昔から人を寄せ付ける雰囲気の彼は周りから声を掛けられる存在だった。
だからか今の様に間違えて近付いたら速攻で殴って来るかもしれない危険性のある空気と、あの目付きのヨンにキムは声も出せない。
・・・あー、本当にやばいかな?
やはりというか、ヨンは足を此方に進めて来た。
彼の目はずっとキムを見ている。座り込んだウンスは下を向いていて、キムの先程の言葉も聞こえていないのかヨンが近付いて来ているのもわかっていないだろう。
ヨンの隣りにいたユジンは立ったまま不思議そうに此方を見ているだけだった。
ウンスの後ろ迄来たヨンは鋭い目でキムを見るが、何も言わず直ぐにウンスを見下ろすとそっと肩に手を置いて、先程の目付き等嘘の様に眉を下げ心配そうな眼差しに変わっていた。
「ウンス?どうしてここに・・・」
しかし近くでしたヨンの声に驚いたのか、ビクリと肩を跳ねさせたウンスの手からコロンと指輪が落ちてしまった。
ヨンは落ちて少し転がって行く指輪に、少し目を広げたが視線を逸らさずジッとそれを追いかけ見ている。
「・・・何で取ってるの?」
“外さないわよ”、と言っていたのに。
ムッとしたヨンの低い声にもウンスは答えずにいた。
違うだろう?
本当はそれはウンスの言葉ではないのか?
キムはそう思ったが、ウンスが言わないのも彼に対して言い返さないのもわからなかった。
ヨンはゆっくりと指輪を拾いまだ俯いたままのウンスの横に来て同じく座り込む。
「ウンス・・」
「ヨン。・・・ごめんなさい」
ウンスの言葉にピクッとヨンの眉が動いた。
「・・・今迄貴方に頼りきりだったからこうなってしまったのね。・・・もう自分で何とか―」
「何を、言ってるんだ?絶対に嫌だよ」
先程から病院では聞いた事が無いヨンの低い声にキムは驚いていた。声と態度で確実に不機嫌だとわかる。
「俺にはウンスだけだから。何でもするし、したいんだ」
「何て事を・・・」
「“何て事”?・・・だけど先に連れて行きたいのを拒んだのはウンスじゃないか?」
「ッ・・・」
あぁ、やはりヨンは怒っていたのね・・・。
私が曖昧にしている間にこうなってしまったのだろうか?
ますますウンスは顔色を白くしてしまう。
だが、ヨンは直ぐにはぁーと息を吐いた。
「ウンス、ごめんなさい。今のは無しにして。・・・後は、チェ家がどうにかする」
「ヨン・・・」
「ウンスは今迄通りでいて。・・・ね?」
そういうとヨンはウンスの手を取り指に指輪を嵌めた。ヨンの手を握る力が強いのは怒りを抑えているからだろうか?ウンスは再びごめんなさい、と呟いた。
「・・・言わなくてごめん。でも俺はウンスから離れないよ。・・・絶対に」
一度手に入れたウンスを離す訳がないと強く瞳が語っているが、ウンスは顔を俯かせたままで見ようとはしない。
ヨンはそんなウンスの顔を覗こうとしたが諦めた様で、ため息を吐きゆっくりと立ち上がるとキムに視線を向けた。
「ウンスは帰るのか?」
「・・・俺が今外に出る予定がありますので、送って行こうかと・・・」
「そう・・・。ちゃんと送れよ?」
余計な寄り道せず真っ直ぐウンスの家に向かえとヨンは目で圧を掛けて来る。
・・・何この違い?いや、ヨン先輩てこういう人だったのか?
知らなかった本性が垣間見えキムはゴクリと唾を飲み込んだ。しかしチラリと見えたヨンの首元のチェーンを見つけなるほどと理解する。
「・・・後で電話するから」
再び声を掛けたヨンは少しウンスを見ていたが、踵を返しユジンの方に戻って行ってしまう。
離れて行くヨンの気配にウンスは少し顔を上げ、垂れ下がった髪の間からヨンの背中を見つめると更にその向こうにいるユジンが此方を見て目を瞬かせているのにも目に入った。
彼女の顔はウンスの姿を見て苦笑している様にも見えてウンスは泣きそうになっていた――。
(7)に続く
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だから言ったでしょ?ヨンはウンスにしか優しくないのよ。
長いので途中で切りました。(まだ謎ですものね?汗)