ACT205妄想【10】 | 妄想最終処分場

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10/19発売の本誌ACT205の続き妄想です

ネタバレものなので、未読の方、コミックス派の方はバックプリーズ!!


今回の続き妄想に関しては別途お知らせがあります。読み進めの前にこちらを一読の上お願いいたします→ACT205妄想についてお知らせ
※お知らせを未読の状態でのご意見・質問(特にクレーム)に関しては厳しい反応を返すやもしれません。必ずご確認ください。




それでは自己責任でご覧くださいませ↓







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ACT205妄想【10】



表面上は今までと同じに、しかし各々の内面では複雑な心境を抱えたまま迎えたグアムでの撮影。中のキョーコが時計を気にして青ざめつつも、撮影所までの道のりにあるお店を呑気に冷かしながらカインとセツカは予定していた時刻より30分ほど遅く現場入りした。

スタッフに見せつけるように暑い南国でも指先を絡めて撮影現場には入れば、遅刻そのものはもうすでに気にしてはいない様子のスタッフはむしろ早かったですねという雰囲気を醸し出しつつ、二人の手からは気まずそうに目を逸らす。その背後では「やっぱりそうなのか…」「見たかアレ」「今日はついてないぞ」と、ひそひそとスタッフが会話を交わしている。

興味なさげに前を向いたままのキョーコはスタッフの視線がカインの首筋に集まっていることに気が付き噂の元凶を思い至る。気だるげなセツカのポーカーフェイスの下で思い出しかけたあの夜を必死に散らした。

そんな中空気を読まずカインに絡む2種類の声。


「カインさんっ、やっと来てくれたんですねー!わたし待ってたんですから!」

「愛華ちゃん、だからコイツは外道だっていってるだろうっ!今日もまた堂々と遅刻してきやがって!なんでそんなヤツに懐いてるんだっ」

「ささ、どうぞ!あなたのかわいいハムスターですよ!ナデナデしてください~」


(………このお嬢さんったら、またやってるわ…)


割り込んできた音声にキョーコの思考は上手く散らされて、盲目的にカインに絡む愛華に思い浮かぶのは迂闊な兄のエピソード。キョーコはセツカの顔で手をつないだままの兄の顔をじっと見やる。


『………』

『……なんだ?』

『別に。ほら、齧歯類がいるわよ兄さん。庇護欲をそそられるんじゃなかった?』


カインに抱き着かんばかりに近寄ろうとする愛華を村雨が目を覚ませと制している。それを他人事のように眺め英語で会話を交わしセツカが顎で指し示すと、カインは愛華と村雨を一瞥しただけだった。


『…あれは齧歯類じゃない』


『何それ。この前はそう言ってたじゃない』


キョーコの内に広がったのは蓮が優しく女性の頭を撫でる光景の想像から発生した苦々しさ。セツカに入りきったキョーコはそれを隠すことなく不機嫌さを滲ませて、絡めた手をすっと手放そうとした。


『まだ、怒っているのか…?』


するっと離れかけた指先をカインの手が許さず、再度掴まれる。


『……』

『お前以外の女に二度と触らないと言っただろう?』


掴まれた手に絡みつく長い指。以前は革手袋越しだったが南国のグアムでは素肌の指先だ。ぶっきら棒な言葉と表情とは裏腹に、セツカのご機嫌を伺うかのように指先から手のひらを撫で上げてくる。


(………もう…っ…)


「もうっ、カインさんっ」


手に絡みつく男性にしては滑らかな指先にキョーコの意識が引っ張られかけたその時、村雨の制止を振り切った愛華が二人のもとに飛び込んできた。


「…っ!」


気を取られていたキョーコは反応が遅れ、愛華を避けたカインに急に引っ張られる形となり足元がよろける。あっと思う間もなく、バランスを崩した体は大きな体に抱き込まれた。


「なんでそんなに妹さんばっかり!わたしだってカインさんにぎゅーってされたい~!カインさん私の夢にまで出てきたんですから、責任取ってくださいっ」

『…やかましい。失せろ』

「英語じゃ分からないですよー」

「愛華ちゃんの夢にま出できたのかこの変態野郎!」


冷たい視線と言葉で突き放してみても愛華には全く通じず、村雨に至っては愛華の言葉尻を捉えてカインを罵倒する。相手をする気のないカインは、セツカの腰を抱き込んだままくるりと踵を返した。


「あ~っ、カインさんどこ行くの?私も行くー!」

「愛華ちゃんっ!って、どこに行くんだこの野郎っ!」

『………』


めげずにカインに接近する愛華を村雨が小動物よろしくその腕に抱えて捕まえている。無言のままのカインに、もぞもぞと脱出を図ろうとする愛華を抱えてはいるが食って掛かりそうな勢いの村雨。そんな共演者にセツカだけが表情を崩さずに後ろを振り返った。愛華に対してだけセツカとして兄は自分のモノと主張するように僅かに眉を顰め、それから村雨に視線を滑らせた。


「仕事の時間だ。着替えてくる」

「遅刻してきやがってその言い草かよ!?」

「……ここで不毛なじゃれ合いと言いがかりで時間を使う方が無駄じゃない?」

「…っ」


カインの言葉をローテンションを保ったままセツカが日本語で代弁すれば、至極全うな村雨の言い分が返って来る。全くもってそうねとキョーコは心の中で同意しつつセツカのセリフを投げかけてカインの後を追った。

振り返った時に少し不満げにセツカをる愛華の視線が、キョーコの脳裏にいやに残った。







撮影所の一角でカメラの前でアクションを取るカインを、足を組んだセツカはじっと目で追っていた。カットがかかり、次のシーンの指示だろうか監督がカインに何かしら話しかけている。まだ次のシーンの撮影の合図かからず、スタッフ共演者ともにしばし打ち合わせや雑談でザワザワとざわめきが発生していた。


「んもー!カインさんと仲良くしたいのに何で村雨さんは邪魔するんですか~?」

「だからっ!アイツなんか相手にする方が時間の無駄だって。見ての通り妹溺愛の変態じゃないか!」

「ホントは恭紫狼様のように、優しいんですよー?」


ざわめきの中、さして大きくもない声なのだが主演の二人の会話がセツカの…キョーコの耳に入る。


「別に私が誰を好きになってもいいじゃないですか~。カインさんは夢にまで出てきたんですよ!これって完璧に恋ですよねっ?」

「愛華ちゃん…」

「潜在意識でも気にしてるって事ですもんね!もう今日カインさんに会えるの楽しみでドキドキしちゃって!」

「愛華ちゃんがそうでもアイツは全然そんな気配のかけらもないだろ!?ただの1回の気まぐれに夢見すぎだよ。どうしてあんなヒトデナシに…」

「なに~?村雨さん、もしかして…やきもち~?」

「……っ!もういいっ!!」


(…ほんとに、あのお嬢さんには何が見えているのかしら?)


愛華の言い分に付き合いきれなくなったらしい村雨が会話を切り上げ、出番が回ってきたらしくセットの中に入っていく。


(……カインの正体が敦賀さんだって公になった時にどんなことになるんだか)


メイクと険しい雰囲気で蓮の類稀な美貌よりも危険度が勝るカインは、役柄も相俟って遠巻きにされている。そんなカインに積極的に絡んでくるのは別の意味で闘志を燃やす村雨と、妙な恋心を抱いてしまった愛華だけだ。

ただでさえ世の女性を魅了する蓮なのだから、カインの正体として公になれば今以上に愛華の中では蓮の株は上がるだろう。そして一度敦賀蓮になってしまえば、今までのように柔らかい物腰で彼女に接するのだろう。


(……やっぱり、女の敵ね)


蓮への恋心を認めたとはいえ、キョーコはそれを一生表に出すつもりなどない。愛の欠落者的見解を蓮に抱いても、その女の敵に魅せられているのは自分も同じなのだ。


世の中の蓮に憧れ恋するたくさんの女の一人にはなりたくない。

この想いを奥底に仕舞い込んで、尊敬する先輩として同じ演技者として高みを目指す存在になりたい。


(それが敦賀さんの傍に居られる方法だもの)


そこまで考えて、キョーコははたと目を見張りため息をついた。


(…これじゃそこいらの愚か者よりもヒドイじゃない)


辛い思いをしたくないから逃げているだけとも捉えられるその思考に小さく首を振る。


でも…


触れられる度にざわつく鼓動や温かくなる胸の奥

それは新しい自分を作る新しい経験のはず


叶わぬ恋の苦い思いも、向けられる視線の喜びも

全ての感情を受け入れようと決めたはずなのに…


(結局、私も愛華さんと同じって事…?)


あんな愚者にはなりたくないと、下に見ていたはずの愛華と思わず自身を見比べる。



『夢にまで出てきたんですよ!』



唐突にキョーコの中で愛華が言っていた言葉が響いた。


(……夢…?)



『……俺に、そいつを重ねても…いいよ?』


唇に触れたのは何だった?


『だから…っ俺の事、好きな名前で、呼んでいいよ?』


切なさを埋めてくれたのは誰だった…?



ざわめきが静まり、アクションを開始する合図の声がかかる。撮影の緊張感が現場を支配していく。いつもなら食い入るように撮影現場を見つめるキョーコだが、その視線は落ちて座った自分のつま先を映していた。


「………」


きつく閉じた瞼の裏で

赤茶に揺れる碧の色彩が消えない


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1話の長さがマチマチすぎ…