白くてふわふわ。 小話 | 妄想最終処分場

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“チーン”


深夜の広い店内に響いた呼び鈴の音に、ビクリと肩を震わせた店員が一人。

しばしの間空耳だったハズという願望から、小さく身をかがめて少なくなった商品の陳列を続けようとしたが、二度目の呼び鈴が鳴るのを恐れて意を決してその場から立ち上がった。


呼び鈴のなった方向であるレジの方に足を向ければ視界に映らなくても、その呼び鈴を押した人物が発する雰囲気に足がすくむ。

恐怖に顔を強張らせた店員は、数日前に上司に掛け合った時のことを思い返していた。

『あのっ…夜のシフトなんですけど、しばらく外してもらえることできませんか!?』

『え?どうして?困ったな、夜間シフトに入れる人がすごく少なくて何とかお願いしたいんだけど。どうしても出てこれない?』

『いや…どうしても…というか…』

『時間帯の問題じゃなきゃお願いしたいんだ。君、学生だろう?テスト期間?それなら前もって伝えてもらわないと。今日言ってすぐは無理だよ』

『時間は…大丈夫なんですが…』

『何?夜間対応に困る変な客とかいるの?』

『いや…あの…その…』

『正直に言って。もし問題なら、店でも対処しなきゃ』

『困るのは…確かですけど…』

『商品の破損や汚染?』

『いえ』

『何?万引き常習?』

『いえ、支払いはちゃんと…(むしろ釣銭なんて受け取らずにお札だけおいて出ていきますが)』

『じゃあ、クレームとか?』

『いえ…(むしろ一言も話しません)』

『まさか暴力?』

『いえ…(肉体的には)』

『じゃ、大丈夫でしょ。今のところレジチェックしても問題ないし、頼むよ』

『………』


仕事仕事、バイト代のため!と自分を奮い立たせて彼はレジに向かった。


(やっぱり…!!!)


目視はもはや予感の確認でしかなかった。

レジには黒づくめの長身の凶悪な雰囲気をまき散らす男が一人。

何をされるわけでもないが、とにかく精神的ストレスがハンパない。


「お…お、お待たせしました…っ」


ここの所連日、ほぼ深夜にこのスーパーを訪れるようになったこの客の雰囲気もさることながら買い物内容が奇怪で更なる恐怖を煽られているのだ。

このスーパー出入りするようになったのはちょっと前からで、初めての来店であろう時から無視できない存在感を否応なしに感じていた。

でも、当初は彼女…?いや妹か。

確かこの凶悪な男を『兄さん』と呼ぶ、可愛いけれどイカれたファッションとキツイ雰囲気の黒い女と一緒で女の方が会計をして男の方はさっさと店を出てしまうのでまだよかったが、ここ数日はこの男だけだ。

当初は近づいただけで射殺されそうな殺伐とした雰囲気に、会計対応で嫌な冷や汗をたくさん掻いた。


ストレスがハンパないが、連日続くと恐怖の中にも購入していく品物に疑問が沸く。

およそ料理などしそうにないこの黒づくめの男。

レジに持ってくるのは、酒・栄養補助食品、せいぜいサンドイッチ程度でそのまま口にするものばかりなのだが、何故だか1つどうにも疑問な商品を毎回購入していく。

どう見ても開けてそのまま口にするものではないと思うその食材。

きっと連れ合いの女に頼まれた買い物なんだ!と思いたいが、当初この黒衣の男女が買い物に来ていた時の購入商品はいたって普通に、むしろバランスがいい食事が作られること間違いなしのラインナップだったことにその線はないと確信してしまう。

どうしてそれを買うのか、誰がどうれを使うのか…等々気になりすぎる疑問が店員の中に渦巻くが、とてもじゃないが聞くどころか規定セリフ以外口にすることなんてできない。


「お、お会計は…」


『1288円になります』と口にする前にレジカウンターにポケットから取り出しただろうくしゃくしゃの千円札が2枚放り投げられ、袋に詰めた商品を無造作に引っ掴んだ男はそのままふらふらと出口に歩いていく。


「お、お客様っ…おつ…り…」


接客義務から受け取らないと分かってる釣銭を握りしめて店員は恐る恐るその後ろ姿に声をかけるが、やっぱり男が立ち止まることも振り返ることもなく夜の街に消えていった。


(ああああ~!!!もう、ヤダー!!!???)


店員の叫びは誰に聞かれることもなく、彼の中にストレスとして蓄積されていった。




****


(…………私がいる)


キョーコは思わず開いた冷蔵庫の扉をパタンとしめ、頭を振った。

見間違いであってほしい、それがどうしてこんな状態でここにあるのか考えたくない。

っていうか、私じゃないし!


(そう、きっと見間違いよ。うんうん、そうそう、何かのマ・チ・ガ・イ!!!)


弾みをつけて『イ』のタイミングで再度冷蔵庫の扉を開いてみるものの、さっきと同じ光景が目に飛び込んできて、キョーコはセツカの扮装のままガクリと床に手をついて脱力した。


「…………なによ、これぇぇええ~……」


叫びだしたい気持ちには違いないけれど、それ以上に脱力してしまいへなへなと床に座り込んでしまった。


テスト期間中、セツカはお休みだったためキョーコは1週間ぶりにヒール兄妹の過ごすホテルの部屋に戻ってきた。

当初の予定では明日現場で落ちあうはずだったが、早く終わった学校とその後の仕事のキャンセルで1日早くキョーコはセツカとして戻ってきた。

1週間前、セツカとして兄に『私のいない間、出来合いのものでも何とかinゼリーでも許すからとにかくお酒だけじゃなくて何か食べて!』ときつく言い残して別れたのだ。

敦賀蓮としても心配な食生活だが、カインならなおさらだ。お酒とタバコ以外自主的に何か取ろうなんて考えられない。

早く合流できるのならば、今日の夜からでもちゃんとした食事をしてもらわなきゃ!と食材を購入した上でホテルの部屋にキョーコは来たのだった。

久しぶりのセツカに緊張しつつ、でも相手はいなくてもこの部屋のドアの前に立てば自然とセツカになっていたのに冷蔵庫を開けた途端にキョーコはセツカの仮面を剥がされることになる。


冷蔵庫に鎮座していたのは、件の忌々しき食材。

白くて、四角くて、ふわふわしたアイツ。

しかも、セツカがいなかった日数と同じ数だけ積み重なっている。

見れば賞味期限は1日ずつずれており、一番下のものは賞味期限は昨日で切れている。


食事関連を心配していたのは本当だが、1週間ぶりにヒール兄妹としてでも蓮に会えることをキョーコは密かに喜んでいたのだが…


(…っもう!!今回こそはこれを食べきるまでぜ~~ったいに!!本体(※注キョーコ)なんか食べさせてやらないんだから!!!)



無駄な決意かもしれないが、キョーコことセツカは兄が帰ってくるまでの間にはんぺんフルコースのメニューを考えるのであった。


~~~~~~

本誌のテストでセツカお休みバージョンを、白くてふわふわ世界で妄想したらこうなりましたw

さて、セツカ(本体)は本日食べられずに済む…??




………済むはずないよねw