周りの情景描写が、まるでそこにいるほどに、目に浮かぶほどに、繊細で素敵だったと分かっていたが。
島本理生さんは、ことばを大切に紡いで表現できる小説家だとやっと今回気づいた。
沙良は、以前の歌舞伎役者のように「色恋沙汰も芸のうち」状態にいた。
危うくてせつない関係だ。
柏木と綺麗な逢瀬を経験することで、少女から大人へと演技力のステップアップを図っていった。
恋愛は、相手と向き合う以上に自分にしっかり向き合うことなのだな。
沙良という人間に対して、ぼくは、俳優としても凄みを感じていた。
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綺麗。だけど、だいぶまみれている。不安定な少年期や中途半端な性愛の名残りが、大きな瞳や色素の薄い肌にこびりついていた。けっして目に見えない。だけどたしかに目に見えるもの。それでも他の表現はなにひとつ浮かばなかった。彼が人懐っこい笑みを浮かべると胸が痛んだ。泥の中で遊んでいた少年がふいにこちらを見て笑ったように。綺麗。なんて綺麗な男の子だろう。
洪水のような憐憫がいっぺんに押し寄せた。息もできないくらいに。
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その白いワイシャツと、満ちる寸前の月のような瞳と、ビールグラスの水滴とが、まばたきするたびに、視界の中で溶け合い、もう、なにもいらないような気持ちになった。
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自動ドアを通過して、誰もいないロータリーを出ると、顔が冷えて吐く息だけが熱かった。ビルの街の真ん中から深く青い明け方の空が見えた。
早朝の大阪の街から、一人きりでコートのポケットに手を突っ込んで、音もなく空の明度が上がっていくのを眺めていた。
東京都生まれ。「シルエット」で第4回群像新人文学賞優秀作、「Red」で第21回島清恋愛文学賞、「ファーストラヴ」で第159回直木賞を受賞。









