本書では、事件の背景に「社会に対する不公平感」が根底にあり、社会への反撃として行われた側面があると記されていた。
山上被告が置かれていた状況や家庭環境は、当事者でなければ想像しきれないほど複雑で、母親の宗教への傾倒、家族の不和、兄の病や自殺など、厳しい生い立ちが重なっていたことがわかる。そうした経緯を知ると、もし自分が同じ境遇にあったらどう感じただろうかと考えさせられる部分もあった。
一方で、山上被告が事件を選択した理由については、理解しがたい点も多い。ネグレクトや家族崩壊、過度な献金など、教団への恨みを募らせた背景には一定の説明がつくものの、事件に至る思考の過程には、個人的なこだわりや思い込みが強く働いていたように感じられた。
「お金も時間も費やしたから後に引けない」というような発言を読むと、社会的な問題意識というより、独りよがりな判断が暴力に結びついてしまった印象が強く、納得できない思いが残る。
286ページには、なぜ安倍元首相が標的となったのかについて、山上被告の発言が紹介されている。
「協会と安倍さんにはつながりがあるとの政見放送もあった。安倍さんが相手なら理解を得られると思った」
「日本の教会関係者に乱射すると、確実に僕が悪いことになる。だから、あえて安倍さんにした」
「森友問題を始めとして、安倍さんは恨まれていると感じていた。そうした記事をネットで直前に見て、モチベーションの一つになった」
「教祖が来れば教祖を撃つし、教会を撃つか、選挙に来る政治家を撃つか、たまたま手の届くところに安倍さんがいた」
宗教と献金、信者と家族、政治と宗教、選挙と警護、銃とネット社会など、事件後にさまざまな社会のひずみが表面化した。
一つの暴力的行為を契機として、メディアや社会がようやく問題に向き合い、教団への解散命令や宗教2世への支援などが動き出したことは、事件の重さを改めて感じさせる。
■目次
はじめに
第1章 衝撃
第2章 輪郭
第3章 家族
第4章 孤立
第5章 決行
第6章 法廷
おわりに
【No2109】絶望の凶弾 安倍元首相銃撃事件山上被告を追った1294日 読売新聞大阪本社取材班 中央公論新社(2026/03)
