55億円が消えた。その“理由”だけが、まだ見えない。
地面師たちは互いを欺きながら生きている──その現実が、ページの奥から滲み出す。
積水ハウス事件の主犯とされた男が「自分も騙された」と訴えるところから始まる本書は、
地面師同士の複雑な思惑と嘘が絡み合う“闇の構造”を描いている。
ただ、読み進めてまず感じたのは圧倒的な読みにくさだった。
登場人物は多く、仮名・偽名・本名が入り乱れ、結婚や改名で名前が変わる者もいる。
事件に関わる物件も多岐にわたり、時系列も複雑で、誰がどの立場で何をしたのかが掴みにくい。
積水ハウス事件の相関図を何度も読み返すことになったし、55億円の行方も結局は霧の中のままだ。
しかし、この「わかりにくさ」こそが、地面師事件の本質なのだと思う。
関係者それぞれが「自分も騙された」と主張し、嘘と真実が入り組む。
地面師同士ですら一枚岩ではなく、互いを利用し、欺き合い、思惑が交錯する。
信頼を前提とするはずの不動産取引の場で、信頼そのものが崩壊している現実が静かに突きつけられる。
興味深かったのは、積水ハウス側の内部事情だ。
契約前に“なりすまし犯が干支を言い間違える”という決定的な違和感があったにもかかわらず、
それを見逃してしまった背景には、社長と会長の確執、
「登記を進めて成果を出したい」という組織の力学があったという指摘。
もしこれが事件の遠因だったとしたら──誰が最も得をしたのかを考えると背筋が冷える。
Netflixドラマ『地面師たち』で描かれた世界の“その後”を追う本作は、
エンタメのような整理された構図とはまったく異なる、
奇妙で不可思議で、どこまでも混沌とした現実を見せてくる。
「事実は小説より奇なり」とはまさにこのことだろう。
読みやすい本ではない。
だが、地面師という存在がどれほど複雑な地下茎でつながり、
互いを欺きながら生き残りをかけて動いているのか──
その“闇の構造”を知るには、避けて通れない一冊だと感じた。
目次
序章 カミンスカスからの手紙、消えたキーパーソン、解明も解決もできていない
第一部 積水ハウス事件「主犯」の告白(残された謎を追え、ラスボスの正体、カネはどこに消えた?)
第二部 未解決地面師事件の「その後」(新橋「白骨遺体」事件の闇、汚されて戻らぬ土地、アパホテル「一二億詐欺」事件の真相)
終章
積水ハウスの社内権力抗争、詐欺と気付いていた可能性、複雑に絡み合う謎、詐欺師と詐欺師の騙し合い
著者等紹介
森 功さん
1961年、福岡県生まれ。ノンフィクション作家。岡山大学文学部卒業後、伊勢新聞社、「週刊新潮」編集部などを経て、2003年に独立。2008年、2009年に二年連続で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を受賞。2018年に『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞
